@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00004060, author = {佐藤, 博紀 and サトウ, ヒロキ and SATO, Hiroki}, month = {2016-02-26}, note = {電磁力学プラズマ(MPD)スラスタ(自己誘起磁場型)は電磁加速型の宇宙機用電気推進機で,高比推力,高推力密度,構造がシンプルという特長を持ち,将来の大型宇宙機のメインエンジンとして期待されている.MPDスラスタは,電力を無駄なく使い冷却パネルをコンパクト化するために推進効率(電力から取り出せる推進パワーの割合)を向上する必要がある.推進効率向上の方法の一つとして水素推進剤の利用が挙げられ,水素推進剤を用いたMPDスラスタ(水素MPDスラスタ)の実用化が重要である.しかしながら,設計や最適化を実験で行うことは容易ではない.そこで,それらの作業を支援するために,水素MPDスラスタの流れ場や推進性能を予測する数値シミュレーションが必要不可欠である.  本研究は,水素MPDスラスタの推進性能や流れ場を模擬する数値計算ツールの予測精度向上を目的として,3温度非平衡モデルやイオンスリップモデルといった新たなモデルの導入と数値計算を実施し,過去の実験結果(電流経路,推進性能)と比較を行った.各モデルを導入した数値計算では,それぞれのモデルに関連した温度非平衡特性やイオンスリップなどの現象についても詳しく調べた.また,実験によってスラスタ近傍のプラズマパラメータ(電子数密度,電子温度)と放電電圧を測定し,過去の実験結果も含めて数値計算との比較を行い,数値計算の課題を明らかにした.  第1章は,MPDスラスタの研究背景を述べ,本研究の目的について説明する.特に,過去の水素MPDスラスタの数値計算について述べ,それらの数値計算に含まれていなかったモデルである3温度非平衡モデル,イオンスリップモデルの必要性について述べる.  第2章は,各モデルと基礎方程式,数値計算手法について説明する.本研究では,水素MPDスラスタ内部の水素プラズマ流を電磁流体として扱い,それに含まれる化学種は水素分子,水素原子,水素イオン,電子の4化学種を考慮した.基礎方程式は,2次元の圧縮性ナビエストークス方程式に電磁力を考慮した方程式系に磁場の誘導方程式を加えたものを用いた.また,実在気体効果として,解離・電離反応,ホール効果に加え,3温度非平衡(重粒子並進,振動,電子温度),イオンスリップ(中性粒子とイオンの速度非平衡)をモデル化した.数値計算は,有限体積法と時間発展法によって行った.  第3章は,同軸MY-Iスラスタを対象とした,3温度非平衡モデルを考慮した数値計算結果(イオンスリップ未考慮)について述べる.本数値計算は,理論臨界電流よりも低い放電電流Jdis = 5 kA,流量0.4 g/sのとき,壁面に制限等温度条件を課すことで実験によるアノード付近の電流分布を比較的よく再現できた.また,同条件下のスラスタ内部のプラズマ流は3温度非平衡状態になっており,代表的な値はTe = 2.4 eV, Tvib = 2.2 eV, Ttr = 0.62 eV(z = 60 mm, r = 15 mm,スラスタ出口はz = 75 mm)であった.このことから,3温度非平衡モデルが必要なことを明らかにした.  第4章は,3温度非平衡とイオンスリップモデルを考慮した数値計算結果(同軸MY-Iスラスタ)について述べる.計算条件は,3章より放電電流を増加させ,推進剤流量0.4 g/s,放電電流Jdis = 10 kAとした.本数値計算結果と実験結果を比較したところ,数値計算(断熱条件)は実験により観測されたアノード付近の電流経路をよく模擬できていた.同条件下で,イオンスリップの評価を行ったところ,特にスラスタ入口付近で,ui - un = 12 km/s - 5.0 kms/ = 7.0 km/sのイオンスリップが発生していることが分かった.  第5章は,Jdis = 5 - 10 kA,推進剤流量0.4 g/sの条件下(断熱条件,制限等温条件)で,3温度非平衡考慮の下,イオンスリップ考慮と未考慮の数値計算による推力特性を比較した.その結果,理論臨界電流Jc = 10 kAに近い大電流条件において,イオンスリップを考慮することによって推力と放電電圧の予測精度を向上できることを明らかにした.しかしながら,数値計算の放電電圧は,40 Vと仮定したシース電圧を加えても,実験結果より20 - 40 V低かった.この理由は次の第6章で調べた.各モデルによる放電電流経路を比較したところ,Jdis = 5 kAにおいて,イオンスリップの影響は小さく,イオンスリップ考慮・未考慮の数値計算による放電電流経路に大きな差は見られなかった.一方,Jdis = 10 kAのとき,イオンスリップを考慮した数値計算(断熱条件)は,イオンスリップを考慮しない数値計算に比べて,実験結果のアノード付近の放電電流経路をよく模擬できた.  第6章は,本研究で実施した準定常実験(フレア形状のFLスラスタ使用,水素推進剤0.9g/s)と過去の実験によるプラズマパラメータ,放電電圧特性の測定結果と数値計算との比較結果について述べる.Jdis = 4.6 kA - 9.5 kAにおいて,数値計算の放電電圧は40 Vと仮定したシース電圧を加えた場合でも実験結果より69 - 112V低かった.さらに,Jdis = 7 kAのスラスタ付近において,数値計算による電子数密度は実験結果より高く,電子温度は実験結果より低くかった.これらのことから,本数値計算がジュール加熱を実験より低く見積もっており,シース電圧以外のバルク電圧を低めに予測している可能性を示した.過去の実験との比較では,本数値計算のJdis = 12 kAの重粒子並進・電子温度比は実験結果よりも低く,数値計算のイオンスリップパラメータSion(イオンスリップの強さを表す指標)が実験より低い可能性を示した.また,イオンと中性粒子の衝突断面積Qinを減少させることでSionを高め,重粒子並進・電子温度比と放電電圧を実験結果に近づけられることが分かった.これらの比較結果を踏まえて,数値計算による放電電圧の予測精度向上に向けた今後の課題を示した.  第7章は本研究の結論と今後の課題について述べる.本研究の主な成果は,数値計算への3温度非平衡モデルおよびイオンスリップモデルの導入を行い,数値計算による推力や投入電力の予測精度向上とアノード近傍の電流分布を比較的よく模擬できた点である.また,MY-Iスラスタ(流量0.4 g/s,Jc = 10 kA)を計算対象とした場合,Jdis = 5 kAにおいて,3温度非平衡性が見られることや,Jdis = 10 kAでのイオンスリップの発生といった知見も得た.今後,数値計算による放電電圧の予測精度を向上するため,解離や電離といった反応モデルや導電率モデルの更なる改良,イオン・中性粒子の衝突断面積Qinのモデル改良,シースモデルと異常抵抗モデルの導入が課題である., 総研大甲第1583号}, title = {水素MPDスラスタ内部における電磁流体のモデリングと数値シミュレーション}, year = {} }