@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000424, author = {神鳥, 亮 and カンドリ, リョウ and KANDORI, Ryo}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {星間物質から恒星が誕生するメカニズムを解明することは、天文学の重要課題の一つである。過去の研究により、星間分子雲(密度~102cm-3)の中でも特に密度の高い領域(分子雲コア)が重力収縮することで、星が形成されることが明らかになってきた。しかし、星の誕生プロセスが、いつ、どのように始まるか(星形成の初期条件)については、まだ確立した定量的描像が無い。星形成の素過程を理解することは、分子雲コア(星の直接の形成母体)の進化を理解することとほぼ等価の問題である。本研究では、近赤外線による分子雲背景星の色超過観測と、ミリ波分子輝線の電波観測とを組み合わせることにより、孤立した分子雲コア(グロビュール)の密度構造が、星形成の前後でどのように変わるかを系統的に調べた。その結果、グロビュールの密度構造の進化の様子を、Bonnor-Ebert解の安定性解析により初めて示した。
 これまで、分子雲コアの観測では、C18O、H13CO+等のミリ波輝線による(原始星の付随しない)星なしコアと(星が付随する)星ありコアの比較研究や、ミリ波・サブミリ波のダスト放射による密度構造の研究などが行われてきた。しかしながら、低温の星なしコアではこれらの分子がダスト上に吸着(depletion)して存在量が減少することや、分子雲コア内でのダスト温度勾配の存在などが知られてきており、これまでの研究手法の延長では、正しい描像の獲得が困難なことがわかってきた。一方で、近赤外線での背景星の色超過観測に基づくグロビュールの減光量分布(Av∝柱密度)の測定は、ダストの温度に影響されない利点がある。減光量は、視線方向の物質量を正確に測れる点で、特定の密度領域にのみ敏感な分子輝線観測と比べて優れている。近赤外線観測によるグロビュールの柱密度分布とモデルとの比較研究が行われた例があるが、散発的なケーススタディがあるのみで、これまで系統的な研究は行われたことがない。
 本研究の目的は、星なしから星あり段階までのグロビュールの密度構造を系統的に調べ、その進化過程を明らかにすることである。名古屋大学南アフリカ観測所の1.4m望遠鏡(IRSF)による近赤外線撮像観測および野辺山観測所の45m電波望遠鏡による分子輝線観測(C18Oとdepletionの影響を受けにくいN2H+)により、グロビュール10天体の柱密度動径分布と線幅を測定した。孤立したグロビュールは、シンプルな形状と内部構造を持ち、視線方向に天体が重複する危険を回避できる点で、モデリングによる物理量の抽出に適した観測対象である。私は、グロビュールの密度構造と力学的安定性をBonnor-Ebertモデル(外圧下の等温・静水圧平衡ガス球モデル)を用いて調べた。Bonnor-Ebert球の密度動径分布は無次元変数ξmaxであらわされ、ξmaxがcritical値の6.5より大きい場合は不安定な平衡解、小さい場合は安定な平衡解である。ξmaxが大きくなるほど、コア中心-外縁の密度比(密度コントラスト)が大きくなる。私は、本研究のグロビュール10天体と先行研究の4天体を合わせた計14天体のサンプル(星なし:11天体、星あり:3天体)に基づき、各天体のξmaxと星形成活動の有無を比較した。その結果、次の事柄が明らかになった。
(1)星なしグロビュールの半数以上(7/11天体)が、critical Bonnor-Ebert球に近い密度構造を持つ(ξmax=6.5±2)。
(2)残りの星なしグロビュール(4天体)は、不安定な平衡解(ξmax>10)を示す。
(3)星ありグロビュールの全てが、不安定な平衡解(ξmax>10)を示す。このことは、星あり天体では既に重力収縮が起こっていることと調和的である。
(4)分子輝線の線幅測定より、ほとんどのグロビュールの非熱的線幅は熱的線幅(温度10Kを仮定)よりも小さい(熱的サポートが卓越)。
結果(1)および(4)より、典型的な星なしグロビュールの密度構造は、ほぼ熱的にサポートされたcritical Bonnor-Ebert球でよく近似できることがわかった。この知見は、解析天体数を増やした本研究により初めて得られた。結果(2)は、グロビュールの進化を考える上で重要である。不安定平衡解は長期に渡り存在できず、わずかな摂動で収縮する。従って、不安定解の星なしグロビュールは、既に重力収縮を開始している可能性がある。収縮の初期状態としては、(結果1より)critical Bonnor-Ebert球が有力な候補である。
 そこで私は、重力収縮するガス球の密度構造進化の計算結果を用いて、観測された不安定なBonnor-Ebert解のグロビュールを説明できるかどうかを検討した。中心密度を観測と良く合う~104cm-3とし、ほぼcritical解の状態からBonnor-Ebert球を収縮させると、自由落下時間(tff)の数倍のタイムスケール(~106年)でゆっくりと収縮する。このタイムスケールは、星あり・星なしコアの数比から求められた星なし分子雲コアの観測的寿命(~106年)とよく一致する。モデル計算では、収縮時間のほとんどの間、亜音速のInfall速度場がコア半径の広い範囲に渡って現れるが、この結果は、星なしコアで観測されるInfall速度場の特徴をよく再現する。私は、収縮するガス球の柱密度動径分布を計算し、各時間での柱密度分布を(静的な)Bonnor-Ebert平衡解でフィットできるかどうかを試みた。その結果、両者はよく一致することがわかった。例えば、収縮開始から4.4×105年経過後の収縮ガス球の密度構造は、ξmax=7.6の不安定平衡解と一致し、見かけ上Bonnor-Ebert球として観測される。収縮のタイムスケールは低密度の収縮初期ほど長いため、収縮するガス球はわずかに不安定な(ξmaxが6.5付近の)Bonnor-Ebert球を長期間に渡り模倣する。従って、収縮するBonnor-Ebert球の描像は、critical Bonnor-Ebert解に近い密度構造の星なしグロビュールが多いという観測(結果1)と、不安定平衡解のグロビュールの存在(結果2)を自然に説明できる。収縮モデルと平衡解との比較から収縮時間とξmax値とを対応づけられるので、この描像が正しい場合に観測されるべきξmaxの頻度分布をモデルから予言できる。観測では、不安定解の星なしグロビュールの半数(4/8天体)がξmax=6.5-8.5の間に分布するが、これは、収縮モデルが予言する割合(50%)とよく一致することがわかった。, application/pdf, 総研大甲第836号}, title = {Density Structure of Globules (Isolated Dense Cores) and Its Implication for Star Formation}, year = {} }