@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000427, author = {菊池, 冬彦 and キクチ, フユヒコ and KIKUCHI, Fuyuhiko}, month = {2016-02-17}, note = {月の起源を知る上で重要な情報の一つである月の金属核の有無に関しては、球面調和関数展開した月重力場の2次係数と、月の力学的扁平率を組み合わせて得られる慣性モーメントから推定できる。慣性モーメントは一般に、その値が0.4以下であれば重い物質すなわち核が中心に集中していることを表す。これまでの研究では0.4よりわずかに小さいことが示され、金属核の存在が示唆されているが、月の慣性モーメントに大きな感度を持つ月表層の地殻構造の推定精度が不十分であったことと、慣性モーメントの推定誤差が1%であり金属核の有無の推定に不十分だったため結論には至っていない。地殻構造は重力場と表面地形から推定されるが、従来の2wayRange&RangeRate(R&RR)観測のみによる月重力場観測では、月と地球の同期回転により月裏側重力場の有効なデータが得られず、また観測豊が視線垂直方向の衛星の位置変化に対して感度が低いため月縁辺部の有効なデータが欠如していた。
  2007年打ち上げ予定のわが国の月探査機SELENEのRSAT計画では一機の衛星が月の裏側にいる場合、地上局から可視であるもう一機の中継衛星を通じて電波の中継を行い、月裏側重力場を直接推定する。さらに同VRAD計画では、視線垂直方向の衛星の位置変化に感度を持つ相対VLBl観測を月周回の2衛星間で行い、月縁辺部の高精度重力場推定を行う。これらの観測の結果、月重力場を球面調和関数展開した時の低次項をこれまでの結果に比べて1桁高精度で求めることができれば、月全球での慣性モーメントを0.1%の誤差で推定可能となる。また、月重力場の高次項を1桁高精度で求めることによって慣性モーメントに大きな感度を持つ地殻の影響を補正することで、さらに精確に核の慣性モーメントすなわち、核の半径の二乗と密度の横を推定することができる。これは、月の起源に対する重要な制約条件となる。加えて、月の表側の海と裏側の高地の2分性の境界である月縁辺部の詳細な地殻構造からは、月表層が辿った異なる熱的進化過程に対して新たな制約条件を導く可能性が開かれる。
  VLBlによる衛星の軌道決定はこれまでJPL/NASAのグループを中心に行われており、その有効性は認識されている。しかし、従来の群遅延方式では、遅延時間推定精度が広帯域信号の周波数幅あるいは複数の搬送波信号の周波数間隔に依存して数百MHz程度に限られているため、100psから数10psに限られており、VM/SELENEで目標とされる月重力場推定に必要な数10cmオーダーでの衛星の位置決定は不可能であった。そこで、VRAD計画では、遅延時間推定精度が電波信号の周波数に反比例し、群遅延に比べて遥かに高精度な位相遅延を多周波数VLBI法(MFV法)を用いて推定する。しかしながら、MFV法を用いた位相遅延推定には大きな課題が残されている。位相遅延推定ではフリンジ位相に含まれる2πの不確定を解かなければならず、VRAD計画ではS帯(2GHz)3波、X帯(8GHz)1波の4つの搬送波が不確定の推定に用いられる。しかし、これら4つの搬送波の周波数配列は約6GHzの広い周波数帯域にわたり配置されているため、不確定を解くためには、2衛星間の相対フリンジ位相をS帯4.3度、X帯179度という極めて高精度で決定しなければならない。その誤差要因としては、受信機熱雑音、大気変動をはじめとし、多くの誤差要因が挙げられる。特に大気変動の影響は大きく、2機の衛星を交互に観測するスイッチング観測では切り替え間隔よりも短周期の大気変動はキャンセルできず、残された大気変動はフリッカ雑音であるため時間積分ではほとんど除去できないため、位相誤差4.3度の条件の達成は非常に困難である。また、電離層遅延は電波信号の周波数の二乗に反比例する分散性の遅延量であり、分散性のない他の遅延とは異なり、独立に、電離層全電子数に換算して0.23TECU以下の精度で補正されなければならない。現在、GPSによるTECの推定精度は2TECU程度であるため、このような電離層遅延補正も非常に困難である。
  そこで解決方策として、2機の衛星が天球面上で極めて接近する機会が多いことを利用した同一ビームVLBI観測手法による相対位相遅延推定法を新たに提案する。同一ビーム観測では近接した2衛星からの信号の同時刻のフリンジ位相の差を取ることで、大気変動をはじめとするはとんどの誤差要因を除去し、確実に不確定を解き、相対位相遅延を推定できることが期待される。これまで、相対位相遅延の不確定推定に同一ビームVLBI観測法を応用した例は過去になく、極めて画期的な手法である。相対位相遅延を不確定なく推定することにより、VRAD計画の目標である世界最高精度の3.3psでの遅延時間の決定が可能となる。
  これらの目的を達成するため、筆者は以下の研究・開発を行った。同一ビームVLBI観測による相対位相遅延推定に有効な狭帯域VLBl記録システム、相関処理ソフトウェア、クラスター型相関処理システムの開発を行った。また、これらのシステム、ソフトウェアの検証のため、国際基線による衛星VLBI観測を行い、複数の狭帯域搬送波信号を用いた群遅延解析に成功するとともに、軌道重力場解析プログラムを用いた軌道推定を行い、その有効性を示した。さらにVRAD計画における同一ビームVLBI観測頻度の見積もりと観測時に予想される誤差要因に関する考察を行い、実際の運用条件等を考慮した相対位相遅延推定の計算機シミュレーションを行った。
  その結果、大気遅延変動が大きい場合や伝搬性電離層変動が発生した場合、同一ビームVLBI観測法を行うことで初めて、MFV法の位相誤差、電離遅延補正の条件が達成されることを明らかにした。また、相対位相遅延の推定誤差は2機の衛星の離角と仰角に依存し、3.3psから数十psであることを示した。これは、2機の衛星間でフリンジ位相の差を取ることで除去可能な大気変動の周期が、離角と仰角に依存するためである。これに対して、スイッチング観測ではMFV法の条件の達成が困難である。
  VRAD計画の場合、2衛星間の離角が0.1度以下となりS帯/X帯でともに同一ビーム観測が可能となる期間においては、2衛星の平均仰角が15度以上であれば、相対位相遅延を不確定なく50秒積分値で世界最高の3.3psで推定可能であることを示した。2衛星間の離角が0.37度となり、S帯は同一ビーム、X帯はスイッチング観測となる場合では、2衛星の平均仰角が46度以上であれば、S/X帯同一ビーム観測時に比べて精度は若干低下するが、相対位相遅延を不確定なく50秒積分値で22psの精度で推定可能である。さらにこれらの考察に加え、搬送波信号を連続に受信できるパスにおいて、同一ビーム観測が不可能な時間帯においても、50秒程度の同一ビーム観測の機会があればそのパスすべてで不確定なく相対位相遅延を求める手法を考案した。本論文ではVRADの全観測パスの約90%のパスでいずれかの同一ビーム観測の機会があることが見積もられ、同一ビームVLBI観測による相対位相遅延推定と2way&4wayのR&RR観測を行うことにより、SELENEの目標である重力場の低次項については約1桁以上、高次項については1桁の精度向上が可能であることが明らかになった。この結果は、月の金属核の有無、表側と裏側の2分性の原因解明など、月の起源と進化の解明への新たな道筋を示すものと期待される。
  今後の研究活動では、SELENEの本観測におけるVLBI観測スケジュールの立案、観測、データ解析を主導的に行い、世界最高精度の月重力場推定に取り組む。さらには、我が国の次期月探査計画や中国、米国等の月探査計画における衛星の高精度位置決定、重力場推定を行うため、アジア・太平洋地域における衛星追跡VLBI網の構築や、多数の基線と可変型の周波数配列を用いた新たな位相遅延推定法の研究を行う。, 総研大甲第926号}, title = {Differential Phase Delay Estimation by Same Beam VLBI Method}, year = {} }