@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000475, author = {剣持, 貴弘 and ケンモツ, タカヒロ and KENMOTSU, Takahiro}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {プラズマ・壁相互作用の問題は核融合炉開発の重要な課題の一つである。現在、核融合研究装置の第一壁の壁材料の開発という点から研究が進められ、多くの成果を得ている。
 TRIM,ACAT,TRYDIN等に代表されるような計算機シミュレーションコードによるスパッタリングの解析は実験データのない条件下でのデータを得るための有効な手法の一つである。しかしながら、これらのシミュレーションコードは固体中の入射粒子や構成原子の拡散などの時間経過に伴うダイナミカルな熱的過程が取り入れられていない。ダイバータ板などの対向材は高エネルギーのプラズマ粒子に長時間曝され高温になることから、熱的過程を考慮することは重要である。そのため、ダイナミカルなスパッタリング過程を評価できるシミュレーションコードとして岡山理科大学のYamamuratを中心とした研究グループによってACAT-DIFFUSEが開発された。
 ACAT-DIFFUSEコードでは粒子間の衝突を二体間衝突近似モデルを用いて評価し、モンテカルロ法を用いてスパッタリングの解析を行うが、実際にイオンビーム等が固体表面に照射された場合、固体内では原子の衝突などの減速過程と粒子の拡散などの熱的過程が同時に進行する。しかしながら、ACAT-DIFFUSEコードにおいては、減速過程が起こる時間間隔が10-12秒程度であるのに対して、熱的過程が起こる時間間隔が秒のオーダーであることを考慮して、減速過程と熱的過程を分離して評価する。即ち、まず一定の照射量の入射粒子に対して、減速過程をACATルーチンで評価し、ACATの計算で得られた固体中での粒子の分布を基にして熱的過程をDIFFUSEルーチンで評価する。そして、必要な照射量に達するまでこれを繰り返す。著者はこのコードを核融合研究装置に関連する水素同位体やヘリウムなどの軽粒子入射の場合に適用できるように改良し解析を行った。
 核融合炉の第一壁やダイバータ板などの壁材料の候補材としてB4C,SiC,WC等の種々の複合材が考えられている。実際それらの候補材についてはスパッタリング収量、固体中の水素リテンション等多くの点について研究が進められてきた。しかしながら、それらに対して照射による固体の表面組成比変化という点についての研究はあまりなされていない。特に複合材の場合、固体を構成する構成原子の表面結合エネルギーや質量が異なるためにそれぞれのスパッタリング収量が異なり、ある構成原子が選択的にスパッタリングされるという選択スパッタリングと呼ばれる機構が存在する。この選択スパッタリングの結果、表面近傍の組成比が照射前と照射後で異なるという実験結果はCu-Niなどの二元合金系について多く報告されている。核融合研究装置の候補材として考えられている複合材についても照射前後で表面近傍の組成比が異なることが予想される。
 そのためダイナミカル・シミュレーションを行えるACAT-DIFFUSEコードを用いて軽イオン照射によるB4Cの表面組成比変化の解析を行った。B4Cにおいては、表面結合エネルギーがポロンの方が弱いために、照射によってボロンが選択的にスパッタリングされ、ボロンの表面濃度が減少することが考えられる。そして、ACAT-DIFFUSEコードによる解析の結果から、スパッタリングのしきい値近傍の低エネルギー(50eV)で斜入射の場合、B4Cの表面組成比(B/C)はある程度の照射量を超えると、照射前の組成比4から大きく減少することを初めて示した。また、入射エネルギーが低いほど、固体表面からのボロンの選択スパッタリングが促進され、垂直入射の場合の方が斜入射より拡散の効果が強くなるメカニズムについて理論的考察を行った。
 また、入射粒子が水素や重水素で核融合研究装置の壁材料が炭素や炭素系複合材の場合、固体中で水素原子と炭素原子が化学反応して揮発性のガスであるメタン(CH4)やアセチレン(C2H2)を生成し、それらのガスが固体表面から放出されるとき、炭素材の表面近傍の損耗を引き起こす化学スパッタリングと呼ばれる過程が観測される。化学スパッタリングは高温では物理スパッタリングに代わって炭素材の損耗の主要な過程となることが実験的に報告されており、核融合研究装置の壁材料として炭素材を用いる場合には、化学スパッタリングを制御することが課題である。
 化学スパッタリングについては幾つかの理論モデルが提案されているが、現在までのところ化学スパッタリングの複雑なメカニズムを説明できる理論的に確立されたモデルは報告されていない。化学スパッタリングについては実験による研究が進んでおり、理論による研究やシミュレーションによる解析が不足している。
 本論文ではRothのモデルを基にして、固体内で化学スパッタリングが起こる領域(Reaction Zone)という考えを導入し、炭素材の水素イオン照射による表面の損耗のモデリングを行った。そして、この新たなモデルを取り入れたACAT-DIFFUSEを用いて解析を行い、実験で観測されるメタン生成の照射量依存性を再現できることを示した。
 最後に、不純物の中心プラズマへの輸送という観点から、スパッターされた核融合研究装置の壁材料の構成原子のエネルギー分布の知見を得ることは重要である。現在、スパッター粒子のエネルギー分布を評価する公式としてトンプソンの公式が広く用いられている。入射粒子が重く、入射エネルギーが大きい場合に主要なスパッタリングの機構となる衝突カスケードによってスパッターされた粒子のエネルギー分布はトンプソンの公式によく従う。
 しかしながら、入射エネルギーが低く、入射粒子が軽イオンの場合に、スパッターされた粒子のエネルギー分布は、特にエネルギー分布の高エネルギー側でトンプソンの公式と大きく異なることが知られている。これは軽イオン・スパッタリングの場合は、入射粒子の質量が軽いために十分発達した衝突カスケードをつくることが出来ず、はじき出し過程と呼ばれる機構が主なスパッタリング機構になるためである。
 核融合研究装置の壁材料は水素や重水素のような軽イオンによるスパッタリングが起こることが考えられ、軽イオン・スパッタリングによるスパツター粒子のエネルギー分布を評価できる公式が必要である。そのため、本論文では軽イオンのスパッタリングの機構を考慮した反跳原子密度を輸送方程式から導き、新たな軽イオンに対する理論式を導いた。, application/pdf, 総研大甲第393号}, title = {軽イオン・スパッタリングのダイナミカル・シミュレーション}, year = {} }