@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000480, author = {池田, 一昭 and イケダ, カズアキ and IKEDA, Kazuaki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {核融合装置を利用した発電では,DT反応を用いるシステムにおいて核反応エネルギーの大部分を担う高速中性粒子から熱エネルギーを回収し,タービンを用いた既存の熱エネルギー変換方式を利用することが検討されている.蒸気タービン発電器を利用する方法は,各種の発電装置に広く用いられており,信頼性も高く,発電方法としては最も有用な方法の1つである.しかし反面,高圧水蒸気温度に上限があることから,現状よりも高い変換効率を達成することは難しい.このような観点に立ち,既に確立されたエネルギー変換方法と独立にあるいは相補的にエネルギー変換方法を導入し,システム全体としてより高いエネルギー変換効率を達成するための方法として,磁場中で効果を発揮する熱電効果であるネルンスト効果を利用することが提案された.
 熱電変換は素子に可動部がないなどの利点があるが,従来から広く研究されているゼーベック効果による熱電変換は変換効率が低いために主たる発電方式にはなっていない.熱電変換にはゼーベック効果の他に磁場中で効力を発揮するネルンスト効果がある.磁場中での熱電効果についての研究は,ネルンスト効果の可逆過程であるエッチングスハウゼン効果による熱電冷却について,半金属ビスマスを用いた研究が理論と実験の両面からなされたことはあるが,ネルンスト効果を利用した発電については1960年代前半にわずかに理論的な検討がなされただけで実験的研究は殆ど行われていない.これはネルンスト効果が有意な効力を発揮するためには強磁場を必要とした為である.90年代に入り超伝導マグネットの利用により実験室レベルで比較的容易にかつ低エネルギー損失で強磁場を発生できるようになってきた状況の中で,強磁場の利用によってはじめて可能になる研究が広く行われるようになってきた.ネルンスト効果の研究もその1つに位置づけられ,熱電変換の新しい可能性として,核融合装置への応用を念頭においたネルンスト効果によるエネルギー変換の研究を開始した.
 ネルンスト効果を利用したエネルギー変換では,ゼーベック効果による場合と同様に,そのエネルギー変換効率を性能指数を指標として示すことができる.性能指数はエネルギー変換素子として用いられる材料の輸送特性に依存している.ゼーベック効果では電気伝導度,および熱電能の二乗に比例し,熱伝導率に反比例する.ネルンスト効果については電気伝導度,およびネルンスト係数の二乗に比例し,熱伝導率に反比例する以外に,外部パラメータとして磁場の二乗に比例する.このことから,ネルンスト効果を利用したエネルギー変換では強磁場中で大きな性能指数が得られる可能性がある.またネルンスト変換では,熱電変換による場合よりも小さい性能指数で高変換効率を達成する可能性があることが理論的検討によって示めされる.
 本研究では,ネルンスト効果によるエネルギー変換のための基礎研究を行った.半導体のバンドモデルより導出される輸送係数の理論式からネルンスト素子材料としてインジウムアンチモン(InSb)選定し,常温近傍において真性領域および不純物領域にあった不純物濃度が10 20~10 23m-3である4種類のインジウムアンチモンを入手した.0から4Tの磁場範囲,270Kから360Kの温度範囲で輸送係数を測定するシステムを構築してネルンスト係数,熱電能,電気伝導度,ホール係数の温度と磁場に対する依存性を測定し,理論式との比較検討を行った.また,測定されたネルンスト係数および電気伝導度および文献から引用した熱伝導率から性能指数を見積もり,ネルンスト効果を利用したエネルギー変換の有用性について議論を行った.
 電気伝導度およびホール係数については,実験値の磁場と温度に関する依存性が理論式によって定性的に解釈された.これより本測定システムによって輸送係数の測定が精度良くなされたことが確認された.強磁場領域でのネルンスト係数は不純物状態では磁場の増加にしたがって消失し,真性状態では両極性項の寄与により磁場に対してほぼ一定な値を示した.これは理論式で示される値と定量的に一致しており,その温度依存性についても理論と実験で定性的な一致を得た.ネルンスト係数の弱磁場領域における絶対値,および磁場の有無による熱電能の変化を示す縦ネルンスト効果については,電荷の散乱過程において単一の散乱機構のみを考慮した理論モデルによっては説明がつかず,理論式から予想される値と比較してネルンスト係数では20%以下,熱電能の変化量では35%以下であった.これは電荷の散乱が複数の機構によって支配されていることが1つの大きな要因と考えられ,ネルンスト係数および縦ネルンスト効果について定量的に解釈するためには,輸送係数を求める理論モデルにおいて電子あるいは正孔の散乱機構として音響フォノン散乱,光学フォノン散乱,イオン化不純物散乱といった複数の機構を検討に入れた計算を行う必要があることが示唆された.輸送係数の実験値から算出された0.1T以下の弱磁場領域でのネルンスト係数は4つの材料のいずれについても2.5×10-5m2K-1s-1以下であり,性能指数は1×10-7K-1を越えなかった.今実験におけるネルンスト係数の最大値は,真性領域にある材料の273K近傍で8.7×10-5m2K-1s-1が得られた.また,性能指数では不純物領域から真性領域へ状態の移行が起こっていた材料の358K近傍において最大値2.5×10-5m2K-1s-1が得られた.これは移行状態にあった材料の特性として,不純物領域の材料が示す高い電気伝導度と真性領域の材料が示す両極性項の寄与が同時に得られた為と考えられる.この性能指数の値は実用化への目安の2.5%に達していた.
 本研究の結果から,真性領域にあるインジウムアンチモンの強磁場領域において性能指数が一定値ZNiを示し,このZNiは温度の増加関数であることが理論的に示され,実験によって確認された.このことから常温よりも高温領域で性能指数が改善される可能性が示され,高温領域での実験の必要性が示唆された.また,本研究以外の輸送係数についての実験報告から,10 25m-3程度の高不純物濃度のインジウムアンチモンにおいて本研究で得られた値よりも大きい性能指数が算出された.このような材料もネルンスト素子材料として期待できる.さらに,真性領域にあった材料の強磁場領域における性能指数の一定値ZNiを表す理論式は,インジウムアンチモン以外の材料についても良い近似を与えると考えられ,ネルンスト素子材料の選定指針と成り得ると考えられる.これによるとネルンスト素子材料として,正孔の移動度が大きく,温度に対するバンド幅の比が小さい材料が適当であることが示された., 総研大甲第428号}, title = {ネルンスト効果を利用した直接エネルギー変換のための基礎研究}, year = {} }