@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000486, author = {広瀬, 敬一 and ヒロセ, ケイイチ and HIROSE, Kenichi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {本論文は、プラズマにおける力学系の分岐とカオスの問題に対して、離散的な保存力学系である標準写像(Chirikov - Taylor mapping)と散逸微分方程式系でモデル化されるイオンシースに関連したカオスについて研究を行った結果である。
 ポワンカレー反復写像の方法は、自由度の小さいHamilton力学系において有効である。数多くの荷電粒子からなるプラズマのような複雑な系においても、プラズマの波動加熱、プラズマ核融合装置の磁気面の解析や電磁場中の粒子の運動などの研究で写像モデルの有効性が実証されている。なかでも標準写像は、プラズマにおける非線形複雑現象のストキャスティックな振舞を調べるため重要な役割を果たしている。
 標準写像における系の統計的性質は、位相空間でのカオス軌道のストキャスティックな振舞により特徴づけられる。このようなストキャスティシティを定量的に解析する手法の一つは、運動量座標における粒子軌道の拡散を観察することである。これにより、規則運動とカオス運動とが複雑に絡みあった系の特徴が見出される。制御パラメータのある領域では、反復写像により線形的に運動量が増加する加速モードが存在し、それにより拡散が異常増大することが知られている。本研究では、標準写像の非線形パラメータが非常に小さい領域に対する加速モードの従来の解析をさらに定量的に精密化した解析を行った。その結果、この領域の拡散過程には、運動量増加が比較的少ない3周期ステップ1と3周期ステップ2等の多重周期加速モードが存在し、それによって拡散が共鳴的に異常増大を起こしているのを観測した。さらに詳細な解析により、それらの多重周期加速モードの存在領域を特定した。
 規則運動の構造を系統的に理解するといった目的に対しては、写像の対称性解析が、観測されている現象に関して非常に有用な情報を与える。一般に可逆な2次元の保測写像はInvolution(包合)の積に分解でき、標準写像では、空間座標反転と運動量座標反転に対する2つのタイプの包合分解を構築することができる。そして包合の不動点の集合が対応する対称線を規定し、それぞれの対称線の交点は、周期軌道の周期性を与えることができる。本研究では、この基本的な包合から出発して高次の包合を構築し、従来の低次の包合による対称性解析では示すことができない非線形力学系における規則運動の高次の周期構造等を明らかにした。標準写像に対する本解析において、楕円安定点が無反射双曲型の分岐を起こした場合に、新たに生まれる分岐島の周期が分岐前と同じ周期である現象(同周期分岐)を新たに見出した。これまで倍周期分岐による分岐島のすべての周期点が対称線の交点により定めることができることが知られていたのに対し、この同周期分岐に対して対称線解析を用いた結果、新たに生まれた島の周期点が、この方法によっては定められないこと、そしてその高次対称線の形態がセパラトリックスに漸近するといった特徴があることを見出した。したがって無反射双曲型の分岐現象には、隠された対称性の存在が予測される。同様な対称線解析を分岐現象だけでなく標準写像の周期軌道にも適応した結果、安定な周期軌道の最外殻には、位相図から判別できる見かけの周期性ばかりでなく、低周期構造が重畳した周期構造が存在していることが明らかになった。そのような周期構造は、実際のプラズマ閉じ込め装置の磁気面構造においても観測されている。
 散逸系の問題は、前述の保存系とは異なり、位相空間の体積が収縮する系の問題である。この力学系は、初期状態から立ち上がる過渡状態の後、殆んどが安定吸引域(アトラクター)上に落ち着く。散逸系のカオス形態は、フラクタル構造をもつアトラクター集合、ストレンジアトラクターにより特徴づけられる。本研究では、この散逸系の例としてダブルプラズマ実験で観測された倍周期及び準周期の2つのカオス遷移ルートに関する解析を行った。
 ダブルプラズマ実験では、プラズマを外部印加電圧で制御することで装置を流れる電流に倍周期分岐ルートのカオスが観測されている。このカオスへの遷移はダブルプラズマイオンシースポテンシャルに捕捉された粒子のカオス的な挙動が原因であると考えられている。そこで本研究では、電場が強い場合に成立するChild - Langmuir則に従ったイオンシースポテンシャルを用い、さらにイオンと中性粒子の衝突による散逸効果を考慮した、より現実的な強制振動系の散逸微分方程式モデルを構築し、数値解析を行った。その結果、外部印加電場および振動数をコントロールすることで実験と同じ倍周期分岐による遷移過程を観測することができた。さらに本解析では、モデル方程式の減衰項を変化させることで、逆分岐過程をも観測した。この結果に基づき、中性粒子の密度等を変化させることで多様な遷移現象を実験的にも実現できる可能性を指摘した。
 一方、ダブルプラズマ実験では、イオンシース中に不安定性が励起され、外部から振動電場を印加することで準周期ルートを示すカオス現象が観測されている。一般に2つの振動数をもつ位相空間上のトーラス曲面上に拘束される粒子軌道は、それらの振動数の比が無理数の場合には曲面を埋め尽くす準周期軌道となり、振動数の比が有理数の場合は曲面上に拘束されながら閉じてしまう周期軌道となる。準周期軌道に外部から摂動を加えた場合、系は位相ロッキングを起こしてカオスに遷移する。本研究では、この遷移ルートが観測された実験をモデル化した粒子シミュレーションを行い、カオス現象の再現を試みた。その結果、ダブルプラズマイオンシース中の不安定性は、その周期が捕捉イオン粒子軌道の周期、及び捕捉粒子がシースエッジにもたらす密度の時間変化の周期と同程度であるシースエッジの自励振動であることを明らかにした。さらにこの不安定波に外部振動電場を印加することで、イオン粒子の準周期運動を観測するとともに、電場の振幅を増加させて実験の観測と同様なカオス現象を再現し、捕捉粒子による準周期ルートのカオス励起機構を解析した。
 本研究では、保存力学系である標準写像におけるカオス軌道の統計的性質を拡散係数を数値計算することで特徴づけ、周期軌道や分岐現象に対しては高次対称線解析によりそれぞれの位相構造の性質等を解析した。散逸力学系については、実験で観測されている倍周期分岐ルートと準周期ルートのカオス問題に対してそれぞれ散逸系微分方程式モデルや粒子シミュレーションによる解析によって実験のカオス遷移過程とカオス励起機構を解析した。以上の結果により、プラズマにおける力学系の分岐とカオスの問題の理解を広げた。, application/pdf, 総研大甲第459号}, title = {プラズマにおける力学系の分岐とカオス -標準写像に おける周期軌道の分岐とイオンシースに関連した散逸系 カオス-}, year = {} }