@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000505, author = {江本, 雅彦 and エモト, マサヒコ and EMOTO, Masahiko}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {核融合実験装置では、制御機器や計測機器の数が多く、収集されるデータが膨大になるため、これらを管理するコンピュータシステムは実験を遂行する上で必要不可欠な要素になっている。このため、日本トーラス装置60(JT60) 欧州共同トーラス装置(JET)のような大型核融合実験装置では、計画当初からコンピュータシステムが組み込まれて設計、製作が行われており、各種データは収集から保存、提供等の機能が一体化した、しかもセキュリティに配慮した結果クローズドに近いシステムで通常処理されている。
 核融合科学研究所の大型ヘリカル実験装置(LHD)は、世界最大にして世界初のヘリカル型超伝導核融合装置であり、非常に大規模で複雑な機器構成となっている。LHDは、超伝導に必要な真空排気装置、冷却装置等に故障が生じた場合、致命的な損傷を受けることから、制御はLHDが安全にしかも長期間高い信頼度で稼動することを最優先に行われる必要があり、超伝導、励磁、プラズマ生成等を含む中央制御システムと表裏一体のLMS(LHD Man-machine interface System)と呼ばれるコンピュータシステムは、当初意図的にクローズド化した独自のシステムとして構築された。また、逆に軽微な故障等により実験が止まらぬよう、中央制御システムには重要な情報だけが送られ、他の情報は、真空排気装置、冷却装置、場電源装置等が装置毎にリアルタイムモニタリングシステムを構築し、装置に最適な制御を個々に行う方式が取られた。計測機器も、精力的にR&Dを行って空間分解能や時間分解能を従来より1桁近く改善する等、高性能化に成功したが、多くの機器が個別データ収集システムと呼ばれる独自のデータ処理システムを持つ必要性が生じることとなった。統一した形式で処理できる計測機器には、プラズマ物理データ計測システムが導入され、LHDのコンピュータシステムは、先に述べた大型核融合実験装置とは異なり、独立した複数のシステムから成る、ハードウエア優先のシステムとして完成
した。
 LHD実験開始後、このLHD型コンピュータシステムは、当初の計画通り安全にしかも長期間高い信頼度で稼動することに成功し、多大な実験成果を上げることができた。このため、次の段階の要求として当初設定していなかった以下のようなことが、コンピュータシステムに求められることとなった。先ず、核融合科学研究所は全国共同利用研究施設であり、LHDが初期実験で成果を収めてからは内外の共同研究数が大幅に増加したことから、遠隔地の共同研究者の利便性を考慮してインターネットを利用した所外共同研究者へのデータ公開と、更に一歩進んで遠隔地からの実験参加の実現が求められた。即ち、外部へのオープン化が強く求められた。また、実験データを解析するには、全計測機器のデータはもちろんのこととして装置が保有する実験条件等の全ての情報を総合的に把握する必要があり、実験を効率的にしかも見落としすることなく進めるには、全情報の把握が処理端末で随時、瞬時に行えること、即ち、独立したコンピュータシステムの情報を統合化することが求められた。これら2点は、LHDが当初設定した方針とは、全く反対の方針になるため、LHDのコンピュータシステムは、当初の設定を維持しつつ、それとは反対の要求も満たさなくてはならないと言う難しい問題を抱え込むこととなった。統合化で特筆すべき問題は、プラズマの長時間放電である。これはLHD計画の主要な目的の一つであるが、通常の1分程度以下の放電に比べて3時間を超えるような長時間放電を目指しているため、通常の放電とはタイムスケールが全く異なることから、当初計画では別個のコンピュータシステムで処理することが考えられていた。
 本論文は、LHDを含む従来の大型核融合装置のコンピュータシステム構築構想を持ってしては満たすことのできない上記要求、即ち、多数のクローズドシステムから成る大型核融合装置用コンピュータシステムの情報の統合化、オープン化の研究を行い、これを成就することができたことから、成果をまとめたものである。本論文では、個々の計測システムや計算機群に制限を与えないでシステム全体を統合化、オープン化するため、世界に先駆けて、この種のコンピュータシステムではそれまで考慮されることのなかったオープン・システム技術の採用、即ち、オープンなネットワーク技術(IPマルチキャスト)の利用、可読性の高いテキスト形式のデータ・ファイルの採用、オープン・ソースウエアの利用を図り、研究の要とした。
 以下、LHDで行ったコンピュータシステムの情報の統合化、オープン化の研究成果の概要を述べる。これらの研究の目標を端的に表しているものは、遠隔実験参加である。遠隔実験参加には、
1.必要なデータを迅速かつ容易に検索できること、
2.データの形式に依存しないでデータの参照が行えること、
3.そのだめのオープンソースである可視化ツールの提供、
4.十分な帯域でないネットワークを経由しても必要なデータの転送が可能であること、
等が求められており、これらを達成できればLHDコンピュータシステムの情報の統合化、オープン化が成就することとなる。また、これらを実行するために十分なセキュリティが確保されている必要がある。
 データ転送の問題に関しては、以下のように研究を進め、要求を達成することに成功している。計測機器の3分の2のコンピュータシステムでは、WindowsNTベースのPCクラスタを利用したOODB(オブジェクト指向型データベース)を使用しているが、このOODBではデータの検索処理はクライアント側で行われることから、多くのデータがクライアントに転送されるため、インターネットのような必ずしも高速の帯域が確保できないネットワークでの利用は困難であった。この問題に対しては、実験データの情報を実験データそのものと分離し、OODBによる検索はサーバ側だけで行い、結果だけを別のプロトコルで送信するシステムを構築する研究を行った。これによって、データ転送量を減らすことができ、10MbpsのLAN上で200秒程かかっていた処理時間を30秒以下に短縮することが可能となった。
 次に、上記システムの考え方を用いて、計測機器側で処理の終わったデータを保存する解析済みデータサーバシステムの研究を行い、システムの統合化を図った。即ち、データの形式に依存しないでデータの参照が行えるシステムの研究を行った。このシステムでは、OSに依存しない技術を用いることによってWindows以外のOSからでも容易にデータを統一的に参照できるよう、メタ情報の検索にオープンソースのリレーショナルデータベースであるPostgreSQLを、またデータの送受信にFTPを導入するとともに、データをテキストファイルに統一することとした。テキストファイルは、機種非依存性であり、どの機種でも読むことが可能であることから、異なったシステムで利用しやすい利点がある。但し、テキストファイルは、バイナリファイルに比較して容量が大きくなることから、これまで実験データのような大規模なデータには使用されることがなかった。しかし、最近は圧縮技術の発達やハードディスクの大容量化・低価格化が目覚ましく、より大きなテキストファイルデータが利用可能になってきている。実際、HTMLやXML等のテキストファイルが広く普及してきたことから、現在では、LHDの解析データにコメント部分を活用することが出来るテキストファイルを採用しており、将来の拡張性を確保するとともに、ボータビリティの向上を図っている。何れにせよ、本研究では、将来更に広く普及し拡張性のある方式を世界に先駆けて採用することにより、大型核融合実験装置のようなクローズドシステムを前提に構築された大規模コンピュータシステムでも、オープン化できることを実証することができた。
 個々のプラズマ放電に付けられる実験番号はプラズマ放電を特定する上で最も基本となるデータであり、LMSによって管理されている。しかし、これまでのコンピュータシステムでは、LMS以外のシステムからLMSに実験番号を参照することは非常に困難であった。本研究で、実験番号等の配信にIPマルチキャストを用いたことにより、複数のシステムに同時に実験番号等のデータを配信することが可能となり、異なるシステム間におけるデータ収集の同時性、データ参照の信頼性等を大幅に向上させることができた。また、IPマルチキャストを利用することによって、パケットを要求するネットワークだけに同時に配信することができるため、サーバやネットワークの負荷を抑えることが可能となった。これまで、IPマルチキャストは通常のデータ通信に用いられるTCPに比べ信頼性が低いことから、確実なデータ送信には独自のパケット制御が必要であり、実験番号の更新のような場合には利点が活かされないとされてきた。しかし、マルチキャストパケットの送受信研究の結果、パケットのロス等は観測されず、また、実験番号の配信はネットワークが混雑する放電直後ではなく比較的空いている放電開始前に行われるため、十分に信頼性が高く、実験番号の更新でもその利点を十分に活かせることが実証された。
 実験データの参照に必要なオープンソースの提供と必要なデータの迅速かつ容易な検索システムは、核融合科学研究所のコンピュータシステムに不慣れな外国人を含む所外共同研究者のために必要不可欠である。本研究では、データの中から必要なものを効率よく見つけ出せるよう、諸実験条件のデータベース及びNIFScopeと呼ばれる可視化ツールを研究し、容易に必要なデータを取得できるシステムを実現することに成功している。特に、NIFScopeは、オブジェクト指向型言語を内蔵することにより、自然な形で数式を記述すること及びデータフォーマットの違いを吸収することが可能となったため、解析データ以外のシステムで収集・解析された多様なフォーマットのデータにも対応できた。これは、従来の何れのシステムでも持ち得なかった機能である。また、遠隔地から利用する場合に必要な利便性への配慮と高い安全性の確保を両立させるため、ミラーサーバを設置すること等により、安全かつ使いやすいデータ公開システムを実現した。
 プラズマ放電時間が1分程度以下の放電を繰り返し行う、短パルス繰り返し放電では、通常、放電中にデータを収集し、次の放電までにデータを処理するという方法が取られている。しかし、この方法をそのまま長時間放電に適用すると数時間に及ぶプラズマ放電中、データを参照することができないことになる。このため、IPマルチキャストを利用したモニタリングシステムの研究を進め、取得したデータをネットワーク上に直接配信することによって、複数のクライアントでリアルタイムデータを参照することが可能なシステムを構築することに成功している。このシステムでは、ネットワークに依存した部分と物理量に変換する部分が完全に分離されていることにより、実験者が物理量に変換する部分を容易に更新することも可能になっている。
 以上のように、特定環境に依存しないようオープンソースを用いて、LHDのコンピュータシステムの情報の統合化、オープン化の研究を行った。その結果構築された統合システムは、実際にLHDの初期実験後必要となった諸要求を満たして可動することが実証された。OODBを使った収集システムのデータ転送の高速化により、収集されたデータをすぐに参照することができるようになった。この結果、収集データを元にゲイン等の計測パラメタの調整を速やかに行えるようになり、限られたマシンタイムを有効に活用できるようになった。平成14年10月13日からの2ケ月間に一放電あたり150MB以上(データ圧縮後)、一日あたり15GB以上の計測データが収集されたが、これらのデータを個々の利用者が直接利用することは、ネットワーク負荷を考えると不可能である。一方、これらのデータを元に作成された解析済みデータは一放電あたり700KB、一日あたり80MB程度であり、この程度のデータであれば、十分なネットワーク帯域が確保できないインターネット等からの利用も十分可能である。また、この間の利用状況は、登録が延べ76,000件、参照が190,000件となっている。参照のうち、95,000件は同一ユーザからの2機種以上の計測機器データの同時参照であり、最大では9計測機器のデータが同時に取得されている。複数データの同時参照、取得は、統合したシステムで初めて可能であること、特に、システム間の情報伝達の同時性、高信頼性が得られた結果、放電終了後速やかにデータを登録できるようになったことによるものである。また、利用されているクライアントには、Windows以外にLinuxやSolaris等が含まれるが、これはOSに依存しないオープン技術を利用した結果によるところが大きい。オープン技術の利用により、LHDのコンピュータシステムは、他の研究施設への移植や将来の更なる拡張に柔軟に対応することが可能になっている。
 本論文で扱った課題はLHDに限らず、今後登場するこの種の大型実験装置に共通する課題であり、本論文はその解決策を提示するものである。, 総研大乙第117号}, title = {LHDコンピュータシステムの統合化の研究}, year = {} }