@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000518, author = {辺見, 努 and ヘンミ, ツトム and HENMI, Tsutomu}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {磁場閉じ込め方式の核融合炉の場合、強磁場を定常的に生成する必要があるため、経済性の観点から超伝導コイルが必須とされている。コイルの電流密度を上げることで、装置サイズを軽減するとともに、超伝導コイルに対して十分な放射線防護シールドを設置できるようになる。よって、超伝導コイルの高性能化は重要な研究課題である。一方、発見から約20年が経過した高温超伝導体はkm級の線材化が可能となりつつあり、超伝導コイルヘの応用が始まっている。高温超伝導線材が核融合炉の磁場閉じ込めコイルに適用可能となれば、高い運転温度を設定できることにより冷却に必要な電力負荷を軽減し、発電効率を向上できる。また、上部臨界磁場が金属系低温超伝導体に比べてはるかに高いことから、20T以上の高磁場発生が可能であり、コンパクトな炉設計へつながる可能性がある。さらに、運転温度を20K程度にすることにより、コイル構成材料の画体比熱は4Kと比較して約100倍に大きくなるため、電磁力による素線の動きや放射線による核発熱などに対して温度マージンを大きくとることができる。このため、低温超伝導導体と比べて冷却安定性が格段に向上する。しかしながら、大型超伝導コイルヘの高温超伝導体の応用には、導体の特性向上を含めて、更なる研究開発や複雑な非線形特性を持つ電磁現象などの特性の解明が必要とされている。
 高温超伝導線材のプラズマ核融合実験装置への応用例としては、東京大学高温プラズマ研究センターで建設された内部導体型プラズマ閉じ込め装置「Mini-RT」がある。この装置は、磁気浮上させたリング状のコイルを用いてダイポール磁場を発生するとともに、プラズマ中に生成した径電場により高速流を誘起し、これに伴う緩和過程を利用して高ベータ・プラズマを閉じ込めるものである。磁気浮上コイルは、真空中で長時間浮上する必要があり、高温プラズマを生成するためにはプラズマと直交するような電流リードや冷却配管等を取り付けることができない。そのため、浮上コイルは永久電流モードで動作し、コイルの比熱だけで長時間低温に保つ必要がある。そこで、磁気浮上コイルの巻線には銀シース・ビスマス2223テープ線材を採用し、高温超伝導線材の持つ高い臨界温度特性を利用することによって運転温度を20Kから40Kの範囲に設定し、数時間におよぶ磁気浮上を可能としている。Mini-RT装置が完成した際に、磁気浮上コイルの特性試験を行ったところ、永久電流の減衰時定数が予測よりも大幅に短いことが観測された。高温超伝導線材の場合は、磁束フローにもとづく本質的な抵抗が存在するが、輸送電流のみが流れているとして磁束フロー抵抗の磁場依存性を考慮して永久電流の減衰時定数を推定した値と比較して、実際に測定された滅衰時定数は一桁近く短いものであった。この原因としては、高温超伝導線材の製造や巻線に伴う機械的な劣化も懸念されたが、これに加えて、現状の線材においては超伝導フィラメント間にツイストが施されていない構造であることから、コイル自身が発生する変動磁場により大きな遮蔽電流が高温超伝導線材内に流れることが推測され、これと輸送電流との相互作用により永久電流の減衰特性に影響することが考えられた。
 これまで高温超伝導線材において遮蔽電流と輸送電流の相互作用に関する電磁現象のメカニズムを解明した研究はない。特に、高温超伝導線材の非線形特性に関連する電磁現象の解明は、高温超伝導コイルの永久電流減衰特性の改善につながるだけでなく、プラズマ閉じ込め装置のための高精度な誤差磁場の抑制や高温超伝導線材の交流損失の低減、安定性の向上に対しても重要な意味があるものと考えられる。そこで、本研究の目的は、高温超伝導コイル内の輸送電流と遮蔽電流の相互作用に関するメカニズムの解明をコイル形状の長尺試料を用いた実験と有限要素法による数値解析を用いて行い、高温超伝導コイルの永久電流減衰特性へ与える影響と核融合装置へ応用する際に必要となる高温超伝導線材の電磁現象の理解と特性改善のための知見を得ることにある。
 このための実験を行うために、まず、長尺のコイル状試料に対して一様な外部磁場を加えることができるとともに、温度、輸送電流、外部磁場の強度、磁場の方向を独立に変化させることができる高温超伝導コイル試験装置を開発した。外部磁場を印加するために2つのエオブチタン超伝導コイルを製作し、スプリットコイルの形として組み込み、それらの間にサンプル用高温超伝導コイルを配置する構造とした。外部磁場印加用ニオブチタンコイルは、励磁方向と励磁電流をそれぞれ制御することで、外部磁場の強度と方向を任意に変化させることができるようになっている。そのため、このコイルには電磁力が様々な方向に加わることとなるため、3次元の有限要素法を用いた応力解析による詳細設計を行い、十分な機械的強度を保証した。実際に製作されたコイルでは、GM冷凍機を用いた伝導冷却によって絶対温度4.4ケルビンまでの冷却を行うことができ、励磁試験の結果、4テスラの磁場を発生できることを確認した。また、外部磁場印加用超伝導コイルとサンプル用高温超伝導コイルは2台の冷凍機によつて別々に冷却されるため、冷凍機の動作に起因して試験用超伝導コイルの電圧計測に対してノイズが加わるが、これを軽減するための工夫を行い、100ナノボルト以下の微少電圧を精度良く計測するシステムを構築した。また、試験装置には、熱侵入量を軽減するために高温超伝導電流リードを用いたが、この方式の電流リードについて最適化手法を確立することにも成功した。また、その結果を伝導冷却型金属系超伝導パルスコイルヘも適用することによって、高温超伝導電流リードの熱的特性と健全性を詳細に調べ、設計法の妥当性を明らかにした。
 次に、Mini-RT装置の磁気浮上コイルに用いられているものと同様の銀シース2223テープ線材を用いて、シングルパンケーキ状に巻線を行つた高温超伝導コイルサンプルを製作して、上記のコイル試験装置に装着した。コイルサンプルには、線材の表面にホール素子を取り付け、線材直上における磁場を外部磁場と比較することによって線材の磁化特性を調べた。また、コイルサンプルの線材両端に電圧タップを取り付け、輸送電流印加時に発生する磁束フロー電圧を計測するものとした。このセットアップにより、外部磁場、温度、励磁パターン、温度を変化させ、高温超伝導試験サンプルコイル内の遮蔽電流の振舞いについて詳細に調べた。その結果、観測された遮蔽電流の減衰特性は、高温超伝導バルク体において一般的に見られるように時間に対する対数関数を用いて近似できることが見出された。この観測結果に対して、遮蔽電流の分布を均一な往復電流で近似した簡易モデルを用いて検討したところ、遮蔽電流の大きさは外部磁場による誘導起電力と高温超伝導体のE-J特性(電場-電流密度特性)によって決まることがわかった。また、遮蔽電流の減衰特性はコイル形状(遮蔽電流ループのインダクタンス)と高温超伝導体のE-J特性により決定されることを見出した。これは、コイル化による磁気的結合により、高温超伝導線材内を流れる遮蔽電流の減表が遅くなっているものと解釈できる。外部磁場の励磁パターンや高温超伝導コイルの温度履歴によって、遮蔽電流の大きさや電流分布が変化することも観測され、高温超伝導コイルの励磁方法を工夫することにより、永久電流の減衰特性を改善できる可能性を見いだした。また、外部磁場により遮蔽電流を誘起した状態で高温超伝導コイルヘ輸送電流を通電することで、遮蔽電流の減衰が促進されること、および、電流分布が変化することを見いだし、高温超伝導コイル内の遮蔽電流と輸送電流の相互作用に起因するフロー損失の増大を明らかにした。
 次に、上記の実験による成果をもとに、高温超伝導コイルの電磁現象に対する数値解析モデルを構築した。具体的には、遮蔽電流の減衰特性がバルク体と同様の振舞いをしていること、および、フィラメント間をわたるときの常伝導抵抗の影響は小さいという観測結果から、多芯線である高温超伝導線材のフィラメントを単芯の精円断面で近似し、軸対称三次元場を解析の対象とした。支配方程式は、マックスウェルの方程式から導かれる磁気ベクトルポテンシャルと電気スカラポテンシャルを径方向微分したものを未知数とした軸対称三次元場に関する‐般的な電磁場の式、および、ターンごとの導体内を流れる電流の総和を輸送電流と等しくなるとおいた式(キルヒホッフの電流則)の2式である。これを有限要素法により離散化し、連立一次方程式を解く問題に帰着させ、係数行列を正定値対称疎行列とすることで、前処理付き共役勾配法を用いた高速な解法を実現した。これにより、コイル形状と高温超伝導体の非線形電磁特性を考慮した有限要素法による高温超伝導コイルの数値解析手法を確立した。開発した数値解析コードを用いて遮蔽電流の減衰特性に関する計算を行ったところ、実験で観測された磁場変化や電圧発生をシミュレートすることができた。また、数値解析により求められた詳細な電流分布を用いることで、遮蔽電流と輸送電流の相互作用について明らかにすることができた。特に、数値解析結果と実験結果を比較することにより、高温超伝導線材に鎖交する変動磁場によって線材内には臨界電流に匹敵する遮蔽電流が流れていること、その遮蔽電流と輸送電流の相互作用により輸送電流のみを考えた場合よりもはるかに大きな損失が発生することが明らかとなった。
 実験と数値解析の結果から、当初、予想した通り、遮蔽電流が高温超伝導コイルの永久電流の減表に影響を与えることがわかった。そこで、実際に高温超伝導コイルを永久電流モードで運転し、永久電流の減表特性を調べた。その結果、励磁履歴によって永久電流の減衰時定数が異なることがわかり、それが遮蔽電流の影響であることが明らかとなった。また、高温超伝導コイルの数値解析法にキルヒホッフの電圧則に基づく、電圧のバランス式を加えて、永久電流モードで動作する高温超伝導コイルの動作シミユレーションを可能とした。実験と数値解析の結果より、コイル内における磁気エネルギこの授受や励磁履歴による影響など、高温超伝導コイルの永久電流減衰特性に対する遮蔽電流の影響が明らかとなった。
 以上のように、高温超伝導線材に変動磁場による線材内の遮蔽電流の影響について、
詳細な実験及び数値解析を行い、電磁現象の解明に成功した。これにより、核融合装置に適した線材構造や線材幅広面に垂直な磁場が加わらないように捻りながら巻線する巻線構造などの提案が可能となった。さらに、核融合炉に高温超伝導導体を適用するために今後必要と考えられる、導体構造やコイル構造を探るための研究の方向性を示すことができた。, 総研大甲第893号}, title = {高温超伝導コイルの電磁特性に対する線材内遮蔽電流の影響に関する研究}, year = {} }