@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000055, author = {野林, 厚志 and ノバヤシ, アツシ and NOBAYASHI, Atsushi}, month = {2016-02-17}, note = {本研究の第一の目的は、日本の縄文時代遺跡から出土するイノシシ(Sus scrofa)の遺存体から復原される齢構成の結果を、狩猟時期という解釈からだけではなく、当時採用されていた狩猟方法という切り口からも解釈するため、民族考古学的手法を用いて方法論的な考察を行なうことである。第二の目的は、生業・集落モデルの縄文時代遺跡への適用に関する方法論的考察を行うことである。特に、定住度の高い集団が行なう中型の動物を対象とした狩猟活動について、台湾のイノシシ狩猟をケース・スタディーとした議論を行なった。  イノシシは、生業活動の季節性や狩猟選択といった問題を論じるだめの資料として動物考古学的な分析の対象とされてきた。とりわけ、その齢構成の復原結果は遺跡の機能や狩猟活動の季節性に関連づけて論じられてきた(新美1991、内山2002)。しかしながら、これらの研究では、当時採用されていた狩猟方法やイノシシが果たしていた経済的、社会的役割については具体的には言及されてこなかった。一方で、動物遺存体の分析とは別の切り口で、縄文時代の狩猟活動について論じた研究もある。土坑遺構が狩猟活動に使用された陥し穴であるという解釈やく今村1987、佐藤1989)、縄文時代の遺跡からしばしばイヌの遺存体が出土することから、イヌを狩猟活動に用いた可能性について推論した研究もみられる。  以上のように、動物遺存体そのものや狩猟活動に関連した考古学資料を分析し、その結果を解釈するだめの理論や方法は様々に模索されてきた。しかしながら、それらの大半は、たとえ客観的もしくは定量的なデータにもとづいてはいるものの個別的であったり、狩猟活動を構成した要素である可能性をもった考古学資料を示すことはできても、様々な遺物や遺構の間に存在した機能的な関係を十分には示してこれなかった。  そこで、本研究ではイノシシ狩猟に焦点を絞り込み、狩猟方法と捕獲される動物遺存体との関係、特に捕獲個体の齢構成との関係を明らかにするだめの民族考古学的調査を行った。具体的には、二ホンイノシシと生態学的な性質や生息環境に大きな差異がないと判断できるタイワンイノシシを対象とした台湾原住民のパイワン、ツォウが行なっている狩猟活動を対象とし、彼らの罠猟とイヌを用いた追跡猟(犬猟)の一連の過程ならびに捕獲された個体が消費、廃棄される過程について観察及び記録を行なった。さらに、それぞれの狩猟方法によって捕獲されたイノシシの下顎骨を分析し、それぞれの捕獲個体群の齢構成を明らかにした。これら両方の結果にもとづき、社会が規定する人間の行動、狩猟技術、動物の生態学的な性質といった諸条件と考古学資料の形成過程及び考古学資料の属性との関係について考察し、次のような民族考古学モデルを提示することになった。 1.狩猟行動と遺物組成との関連性を説明するだめの民族考古学モデル  狩猟の方法や技術の差異によって、遺跡の形成および遺物の組成に有意差が生じる可能性があるという民族考古学モデルである。  本研究の結果に基づけば、獲物の習性と連動した受動的な狩猟行動(罠猟)と狩猟者側の主体的、能動的な狩猟行動(犬猟)との間では、捕獲個体に対して異なる選択性が働き、罠猟と大猟との間で、捕獲個体の齢構成に有意な差が生じるということ、さらに、罠猟と大猟との間では、形成された遺跡や遺物の種類内容が異なるという、狩猟行動と遺物組成、遺跡遺物の属性に関する関係モデルを引き出すことができる。このモデルを援用することによって、遺跡出土の動物遺有体の組成分析を解釈し、組成特徴の背景となった人間の行動、狩猟の方法や技術の復原にアプローチすることが可能となる。 2.動物資源の消費、分配、廃棄と遺物分布との関係に関する民族考古学モデル  獲物の分配、消費、廃棄の方法と遺物の遺跡内分布について見通しを与える民族考古学モデルである。  本研究によって、遺跡で同定される動物の骨格部位の分布や出現頻度のデータから、遺跡の機能やそこでの人間行動を論じるという従来の視点とは異なる問題意識をもった調査の糸口が得られたと言える。特に、骨格部位の出現頻度や分布に関するデータ番は、その脈略によっては、動物資源の分配システムやそれを規定する社会構造に関する問題にもアプローチできることが明らかとなったのである。同時に、そのためには、これまでとは異なる方法論的枠組みを用いて、遺跡出土の遺存体を分析することが必要であるというこどが示された。  従来の動物考古学における動物遺存体の分析は、その大半が遺跡を単位として行ない、その結果をもって、遺跡の機能、すなわち、狩猟地、解体遺跡、拠点集落遺跡といった機能的な議論を展開してきた。もちろん、こうした分析の重要性は変わることはないが、今回の研究では、遺跡内の動物遺存体の分布状態に関するデータの重要性も認識されることとなった。すなわち、遺跡内での動物遺有体の分布状態は、分配、消費、廃棄の過程を通じて、社会関係の具体的な有様を反映している可能性が強いということである。 3.象徴的遺物の機能解釈に関する民族考古学モデル  台湾の原住民に共通した慣習であるイノシシの下顎骨懸架や狩猟活動によって捕獲した雄イノシシの犬歯を用いて作られるツォウの腕飾りとパイワンの頭飾りとではそれぞれの社会の中での機能が異なっていたことが本研究で明らかとなった。  下顎骨や頭骨の集中的な出土例はしばしば、祭祀儀礼や宗教儀礼といった行動の所産とみなされ、そうした行動の存在を裏づしする証拠であると解釈するのが一般的である。アイヌのクマ送り場のように、文化的、社会的脈絡が明確な遺跡を除けば、従前のような解釈にいたる具体的な証拠が示されることは少ない。また、考古学資料は形態学的な研究が基本にあることから、異なる遺跡で出土した類似した資料が相互に比較されることが多い。同じ素材で製作された、類似した形態の道具はその機能も類似していたと解釈されるのが一般的である。  従来の考古学的過去における物質文化の理解に対して、本研究では、それぞれの資料が、それが機能していた社会的な脈絡に沿って解釈されなければならないことを示すこととなった。特に、これまで象徴的な意味合いを付与されてきた下顎骨や頭骨の集中した状況は、狩猟行動の社会的な背景によって生み出されていること、しかもそれはしばしば憶測されてきた宗教的あるいは儀礼的な価値基準にもとづき形成されるのではなく、より世俗的、社会的な価値体系を背景にして形成される例もあることが具体的に裏づけられたといえる。  本研究によって得られた一連の知見からは、イノシシの遺存体に関する分析結果、集落遺跡の様相、そして狩猟行動に関連した遺物の間を連結させて考えるための民族考古学モデルを提示することができた。この種のモデルはイノシシの狩猟行動に関してのみならず、異なる動物種や選択される狩猟行動の方法や技術、捕獲個体の解体や消費の過程を規定する社会関係のありかたに応じ、行動と考古学資料との間における様々な関係が導き出せるであろう。したがって、本研究で採用した民族考古学的手法を用いて、考古学的な分析の対象となる遺跡や遺物についてその関係モデルの構築を進めることによって、考古学資料のより有機的な解釈が可能となるのである。, 総研大乙第109号}, title = {「台湾原住民のイノシシ(Sus scrofa taivanus)狩猟の民族考古学的研究:動物遺存体研究の方法論構築にむけて」}, year = {} }