@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000589, author = {神藤, 勝啓 and シントウ, カツヒロ and SHINTO, Katsuhiro}, month = {2016-02-17}, note = {近年、大型ハドロン計画(JHP)のような高エネルギー大強度陽子ビームを用いる計画が進められている。JHPでは、陽子シンクロトロンで50GeVの高エネルギーで2×10 14pppという大きなビーム強度を達成しようとしている。シンクロトロンでできるだけ多くのビームを加速するためには、ビーム自身の作る空間電荷による発散をなくすようにしなしなければならない。このため、ビームのラインデンシティが小さく、すなわちバンチングファクターの大きなビームにする必要がある。
 リニアックからシンクロトロンへビームを入射する際に、通常は連続的なビームを入射している。シンクロトロンでの粒子の捕獲法は、RF加速電圧を断熱的に増加させるadiabatic capture法が用いられる。しかし、この方法ではRF bucketの先端の部分の粒子は、bucketからこぼれてしまい、ビームロスとなる。また、この方法では、RF bucketに入ったビームの縦方向のエミッタンスを制御して、ラインデンシティ或いはバンチングファクターを変えることができない。
 シンクロトロン内での縦方向エミッタンスを調整するためには、予め入射するリニアックビームの段階から、シンクロトロンのRF bucketに同期した高速パルスビームを生成し、ビームをRF bucket内の自由な位相に入射できるようにする必要がある。入射ビームの位相をシンクロトロンのRF bucketの中心位相に対して、いくらかずらして入射し、シンクロトロンで加速中に、シンクロトロン振動でビームをRF bucket内に広げることによって、ラインデンシティを低下させることが可能である。
 イオン源からリニアックの間のビーム輸送系に、横方向にビームを偏向してチョップする方法が一般的に用いられている。しかしながら、この方法ではチョッパーの静電場は空間電荷中和効果に影響を与える。その結果、輸送系のミスマッチングが生じ、空間電荷力の非線形性によるエミッタンスの増加が引き起こされる。もしイオン源でビームを生成する段階でビームをチョップすることができれば、このような影響力く生じずに、シンクロトロンに入射することができる。
 高エネルギー物理学研究所陽子加速器では、負水素イオン生成には表面生成型負水素イオン源を用いている。このイオン源では、プラズマチャンバー内に設けられたプラズマに対して負にバイアスされた金属表面とプラズマ中の粒子との相互作用により負水素イオンが生成される。この金属は一般にコンバータと呼ばれる。プラズマチャンバーにはCs等のアルカリ金属を導入して、コンバータ表面に半原子層を形成することで、コンバータの仕事関数を低下させる。低仕事関数のコンバータ表面から電子がトンネル効果により水素原子に遷移することにより、負水素イオンの生成が行われる。負水素イオンの生成量は、プラズマとコンバータの間に印加されるコンバータ電圧によって変化する。従って、パルス的にコンバータ電圧を変調することで、負水素イオンビームのチョッピングが可能となる。高速パルスビームを生成するために、通常は直流のみ印加しているコンバータ電圧に、高周波電圧を重畳して、コンバータ電極に印加した。
 負水素イオンの表面生成は、コンバータ表面に吸着している水素原子が脱離するときに、金属表面から電子を1つ受け取って脱出することによって生成される。コンバータ表面に吸着している水素原子は、プラズマ中の正イオンの入射により、コンバータ表面から脱離する。負水素イオンの生成量は、入射正イオン量と、入射正イオンによるコンバータ表面での水素原子の脱離する割合と、コンバータ表面から脱出するときの負イオンの生存確率の積という形で表される。
 入射する正イオン量は、プラズマ密度により制限される。このときの電流量は、イオン飽和電流から求められる。
 人射正イオンによるコンバータ表面での水素原子の脱離する割合は、Sigmundのスパッタリングの模型を用いて計算を行った。入射する正イオンには、H+、H2+、H3+、Cs+の4種類のイオンがある。これらの各種正イオンがコンバータ表面に入射したときに、脱離する水素原子の量の正イオンの入射エネルギーに対する変化を計算した。
 通常、プラズマに対してコンバータ表面は約500V程度の負電圧を印加している。入射正イオンのエネルギーが100eV以上のところでは、Cs+による水素原子の脱離量が、他の正イオンに比べて圧倒的に大きいことが分かった。負水素イオンの生成には、Cs+により脱離した水素原子によるものと思われる。
 脱離した水素原子は、コンバータ表面との相互作用によりコンバータ表面から更にもう一つ電子を受け取ることによって、負水素イオンとなる13付加電子と水素原子との結合エネルギーは、電子親和力という量で定義される。この電子親和力の準位は、コンバータ表面に近づくと鏡像ポテンシャルを受けるために準位がシフトする。この電子親和力の準位がコンバータの仕事関数より低くなると、電子はトンネル効果により、金属内から水素原子に遷移する。しかし、水素負イオンがコンバータ表面から脱出するとき、今度は電子親和力の準位がコンバータの仕事関数よりも高くなる。そのため、電子は水素原子からコンバータ表面へ遷移することになるが、脱出速度が十分に速いと、負水素イオンとして生き残ることができる。このことを考慮して、負水素イオンが脱出時に持つ運動エネルギーに対する生存確率の計算を行った。
 以上、3つの物理量から、正イオンの入射による負水素イオンの生成量を評価することができる。この模型を用いて、高速パルスビーム生成実験により得られた負水素イオンビームの波形の解析を試みた。
 コンバータ表面に印加する電圧が時間的に変化する場合、正イオンがコンバータ表面に入射したときのエネルギーの大きさも変化することが予想される。正イオンはプラズマとコンバータ表面とを遮蔽しているシースと呼ばれる領域で、加速される。シースの厚さは、電圧の時間的変化に伴い変化する。電圧とシースの厚さの関係は、空間電荷制限電流の式(Child-Langmuirの式)によって決まる。電圧及びシースの厚さ共に変化するため、正イオンがシースを走行中に受ける電場も変化をする。そのため、コンバータ電圧の周波数を大きくしていくと、正イオンがコンバータ表面に入射するときのエネルギーの大きさは電圧に追随することができなくなることが考えられる。周波数の変化による正イオンの入射エネルギー幅とコンバータ電圧の振動の振幅との比を計算し、本方式での高速パルスビーム生成の適用周波数の限界を示した。
 この高速パルスビームを用いて、KEK12GeV陽子シンクロトロンでのビームの縦力向エミッタンスの制御を行った10ブースターRF bucketの位相に対して、入射位相を前後に変化したときの、ブースター取り出し時のパンチングファクターと主リング入射時に生き残る粒子数の変化を調べた。ブースターRF bucketへの入射位相をコントロールすることで、パンチングファクターの大きなビームを生成し、ビームの空間電荷効果を制御することが可能となり、ビーム強度を従来に比し増加させることができた。, 総研大甲第245号}, title = {表面生成型負水素イオン源での高速パルスビームの生成}, year = {} }