@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000059, author = {村尾, 静二 and ムラオ, セイジ and MURAO, Seiji}, month = {2016-02-17}, note = {マレー文化圏には、身体技法に基づく護身の技が広く分布する。その名称は各地域によ り異なり、型や動き、その目的や社会的意味づけも一様ではない。 本研究は、その源流のひとつを築き、実践者の地域的広がりにおいて他の地域をしのぐ、 インドネシア、スマトラ島中西部のミナンカバウ人社会、行政上は西スマトラ州内陸部の タナ・ダタール県を調査地に選び、「シレ(silek)」という名のもとに伝承されている身体 技法を調査対象とした。 撮影調査に基づくフィールドワークをおこない、また、自らその修行に参加するなかで、 シレをかたちづくる型と動きを丹念に映像記録し、身体や時空の使い方に注目するなかで その仕組みをとらえた。 また、技を狭義の意味に限定することなく、その実践や伝承が社会のなかに広く浸透す る身体技法ととらえることにより、当地のアダット(慣習)や宗教実践といかなる関係を 築いているのか、シレの技法の文化的意味を、日々の修行や儀礼の観察を通して考察した。 以上は、撮影調査と映像の観察を通して導きだしたものである。調査映像は他の研究者 や調査地の人々が、その内容を共有することができるよう編集し、『「護り」の時空-イン ドネシア・ミナンカバウの身体技法シレ』(撮影・制作村尾静二、DV形式、38分、2006 年)という題名の映像民族誌を制作した。 各章に基づく論文の内容  第1章では、上記の研究目的に続き、先行研究、調査地の概要、撮影調査の過程を記述 した。そして、本研究が着目する映像の特徴と活用方法を次の三つの点にまとめた。 (A)映像は実証的な記録と再現を可能にする。これにより技の時空をとらえる。 (B)調査地の人々と調査映像を視聴し、そこで得られた視点を研究に反映させる。 (C)撮影者の意図を超え映像に写りこむものにも注意を払い、対象を観察する。 第2章では、シレが技法がインドネシアにおいて形成されてきた過程を概観した。イン ドネシア、西スマトラのミナンカバウ、そして、ミナンカバウの内陸部に位置する本研究 の調査地という三つのレベルからその歴史をとらえることにより、この技法がもつ歴史の 重層性をとらえた。 第3章では、シレの修行がなされる場である、イスラーム礼拝所を考察した。この礼拝 所はスラウと呼ばれる。母系制の慣習をもつミナンカバウ社会では、各母系氏族集団がス ラウを運営し、若者たちはそこで毎日、夕方から翌朝まで共同生活を送るなかで、礼拝、 コーランの読舗、そしてシレの修行につく。 第4章では、スラウにおける日々の修行を考察した。修行参加に関わる諸条件や修行の 過程そのものを、調査映像をもとに具体的に記述した。続いて、クマンゴ流の技の要であ る「古式」をとりあげ、その技術的側面とそこに込められた社会的・宗教的意味をとらえ た。この型はクマンゴ流の総ての動きの基本であると同時に、そこにはアダットとイスラ ームの教えが象徴的に込められている。 第5章では、この技法がもつ社会的・宗教的意味をとらえるために、二つの儀礼をとり あげた。「系譜を護る儀礼」では、スラウの人々は、宗教上の教えの系譜にある師範の霊廟 を参詣し、一同が「古式」を実技奉納することで師弟の絆を強める。「安寧祈願の儀礼」で は、彼らは慣習的信仰に基づく邪悪な精霊から心身を護るために、シレの稽古場で供犠の 儀礼をおこなう。ここでは、シレの技法は人間にではなく、超自然的な存在に向けられる。 第6章では、この技法を、個人・社会・宗教の相互作用のなかに位置づけることでそれ までの議論を整理した。修行者たちは、慣習的な信仰とイスラームの戒律に基づいて技の 習得に励む。現在ミナンカバウでは「アダットはイスラームを基礎に置き、イスラームは コーランを基礎に置く」状態が理想とされており、本調査地のスラウをみちびく導師ブヤ の言葉をかりれば、そのなかにシレの技法あるのである。 結論にあたる第7章では、第6章までの考察に基づき、本研究の結論および今後の課題 を提示した。映像を通して明らかにしたこと、および、それを論文のどの章で考察したの かを整理している。 本研究の可能性  映像のなかに文化とらえ、後世に向けて記録すること。映像を通して自身が属す社会を とらえなおしていくこと。そして、彼ら自身が映像記録の手段をもち、記録した映像を保 管すること。これは、当該社会の人々の願いで卒る。そのためには、現地の博物館や大学 を基盤として、映像のアーカイプを築き、映像を現地に残すことが重要である。また、そ れにより、彼らはみずからの手で映像による比較研究をおこなうことが可能となり、たと えば、インドネシアのプンチヤ・シラットのなかにおける、ミナンカバウのシレの重要性 を探すことができるのである。一方、海外の研究者は、映像のアーカイブを訪れることで 映像を共有し、そこから対象文化に関する新たな視点を獲得することが可能となる。  撮影した人と撮影された人がともに映像を共有し、アーカイブと映像による比較研究の 基盤を現地社会のなかに整えていくこと。これは、現地社会に生きる人々と、そこで長期 にわたるフィールドワークを経験したわれわれ研究者が共同して取り組まなければならな い課題である。, 総研大甲第1018号}, title = {「護り」の身体技法に関する映像人類学研究-インドネシア・ミナンカバウの事例から-}, year = {} }