@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000597, author = {大島, 永康 and オオシマ, ナガヤス and OSHIMA, Nagayasu}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {陽電子を利用する代表的な研究手段の一つに陽電子寿命分光法(Positron Annihilation Lifetime Spectroscopy,PALS)がある。陽電子は物質中で電子と消滅するが、そのときの陽電子寿命は物質の特性(例えば微細構造や化学的性質)を反映する。従って、陽電子の寿命測定結果から材料の特性評価を行うことができる。
 陽電子寿命測定では通常陽電子源に22Na放射性同位元素を用る。22Naは陽電子と1.28MeVのガンマ線を同時に放出するため、1.28MeVガンマ線検出時刻と陽電子消滅ガンマ線検出時刻の時間差を測定して、陽電子寿命を求めることができる。陽電子の寿命スペクトルは陽電子が物質に飛び込んだ時刻を基準(t=0)に減衰する指数関数の重ね合わせで解析され、得られる平均寿命(γ)とその強度(I)を用いてその物質の物性について議論する。22Na放射性同位元素を用だPALSは、使用する陽電子が白色エネルギー(0~540keV)であることから、その用途はバルクの研究に限定される。
 物質表面・界面、あるいは深さ方向に沿った物性の評価にPALSを適用するためには、まず第一に低エネルギーの陽電子ビームを用いる必要がある。白色エネルギーの陽電子を減速材で熱化しビームにしたものは低速陽電子ビームと呼ばれるが、これを用いれば、任意の深さに陽電子を注入することは可能である。しかし、陽電子の試料への入射したタイミングは分からないために陽電子寿命測定は行えない。このような低速陽電子ビームを用いた物性研究では,陽電子の入射エネルギーにたいする消滅ガンマ線のドップラー広がりを測定するのが一般的である。有益な情報が引き出せる陽電子寿命測定をビームを用いて行うためには,陽電子の試料入射時刻を知る必要があり、そのためには装置に何らかの工夫をしなければならない。
 低速陽電子の試料入射時刻を得る一つの方法は、パルス化低速陽電子ビームの利用である。パルス化低速陽電子ビームを用いて周期的に決められたタイミングで陽電子を試料に打ち込むことができれば、陽電子の試料入射時刻の情報を得ることができる。
 これまでミュンヘン大学と電総研(つくば)でRFパンチング技術による低速陽電子のパルス化が行われ、パルス化された低速陽電子は表面近傍の物性研究に使用されてきた。RFパンチングでは、サイン波形の一部の位相部分を切り出して陽電子をパルシング加速するため、パルス化効率には限界がある。例えばミュンヘン大学では60%、電総研では30%である。また、現在使われているRFパンチング装置はパルス化周期が約20nsであり、高分子中の陽電子寿命(数ns)の測定には短すぎ正確な測定はできない。
 陽電子寿命分光法を用いて高分子表面近傍を解析するために、本研究では、RFパンチング方式とは異なる低速陽電子パルス化装置の開発研究を行った。RFによるパルス化方式よりもパルス化のインターバルをより長くし、同時にパルス化効率を高めることがねらいである。
 装置の開発は高エネルギー加速器研究機構の放射線試料測定棟にて行われた。2mの低速陽電子ビームラインを建設し、低速陽電子ビーム4x10 4(e+/s)を22Na放射性同位元素1.3x10 8(Bq)からの高速陽電子をモデレーター(タングステン薄膜,2μm)を通して熱化ることにより得た。パルス化は,任意波形発生器とアンプにより形成した時間に依存するバイアスを,この低速陽電子発生部(モデレーター)に与えることにより実現する。モデレーターから引き出された低速陽電子は,ソレノイドと空芯コイルにより形成された磁場(70~120G)により2m離れたサンプル部まで輸送される。パルス化低速陽電子は加速電場を用いて試料に任意のエネルギー(0~20keV)で打ち込むことが可能である。
 開発した装置の低速陽電子のパルス化効率は95%以上にまで達し、これは陽電子寿命測定に使用されたパルス化装置の中では世界一の効率である。さらに、本装置は~80nsのパルス化間隔を現時点で達成しており、高分子の長寿命成分の測定を行うことができる。装置の時間分解能は1.8nsであり、他のグループで実現している時間分解能0.25nsより大きいが、高分子材料の物性研究には十分使用可能なレベルにまで達している。
 本研究で開発したパルス化低速陽電子をポリテトラフルオロエチレン(テフロン)試料に適用し、陽電子の入射エネルギーに対する陽電子長寿命成分の変化を測定した。テフロン試料へのパルス化低速陽電子の適用はこれが世界で最初である。測定結果は、陽電子の長寿命成分は入射エネルギー(1.2~10.2keV)によらず一定であることを示した。
 また、鉄50mmをテフロン表面に蒸着した試料にも開発した装置を適用し、低速陽電子の入射エネルギーに対する陽電子寿命スペクトルの測定を行った。陽電子の入射エネルギーに対する寿命強度の変化を確認し、鉄とテフロンの境界面の検出に成功した。低速陽電子の寿命測定分光の結果は、消滅ガンマ線のドップラー広がり測定による結果に比べより明確に界面部の情報を反映することを実証した。
 本文では、低速陽電子のパルス化装置の詳細とシステムのテフロン材料並びに薄膜への応用について報告する。, application/pdf, 総研大甲第308号}, title = {放射性同位元素を利用した短パルス化低速陽電子ビームの 開発研究}, year = {} }