@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000600, author = {西島, 辰雄 and ニシジマ, タツオ and NISHIJIMA, Tatsuo}, month = {2016-02-17}, note = {酸化物高温超伝導体はその母物質である反強磁性絶縁相にホールをドープして得られることから、磁性の側面から多くの実験的研究や理論的解釈がなされてきた。特に中性子散乱は、散乱強度が動的帯磁率に比例するため、磁気励起の研究を行う上で極めて有効な手段であるが大型の単結晶が必要なことから、研究の対象は単結晶の作成可能なLa 2-x Sr x CuO4(LSCO)とYBa 2 Cu 3 O 6+x(YBCO)に限られてきた。LSCOの単結晶は比較的容易に作製することが出来ることから、中性子散乱により磁気励起の研究がかなり進んでおり、磁気散乱の温度依存性やホールドーピング依存性等について詳しく研究されている。LSCOの磁気散乱は反強磁性秩序を示す指数からずれた(1/2±δ,1/2)、(1/2,1/2±δ)という波数に生じており、磁気散乱の弾性成分はないものの現在では非整合スピン揺らぎという言葉で定義されている。一方、YBCOでは非整合位置には磁気散乱は観測されず、整合磁気散乱と理解されてきた。また、理論からはLSCOとYBCOの磁気励起の違いはフェルミ面の形状の違いからよく説明されている。すなわち、LSCOではフェルミ面が良くネストする(1/2±δ,1/2),(1/2,1/2±δ)で帯磁率の極大を示すが、YBCOではLSCOのフェルミ面を45度回したような形になりLSCOで見られたフェルミ面のネスティングが起こらず、帯磁率は(1/2,1/2)のところで極大値をとるとされてきた。しかしながら、中性子散乱で観測されているYBCOの磁気散乱のシグナルはLSCOのものと比べるとブロードであり、非整合ピークの重なりにより一つに見えているとの解釈もあり、YBCOに関していえば磁気散乱の波数依存性について明確な結論が出ていなかった。また、磁気励起の研究は王軸型中性子分光器を用いた研究が主であり、50meVまでの低エネルギー領域しか測定されていなかった。そこで、パルス中性子散乱によりYBa 2 Cu 3 O 6+x の磁気励起の波数依存性を高エネルギー領域まで測定し、そこから得られる物理的な描像を明確にするというのが研究の目的である。
 試料は超電導工学研究所の協力を得て、良質な大型単結晶を作製することが出来た。結晶の育成方法は同研究所で開発されたSRL-CP法(引き上げ法の一種)を用いている為、原理的には原材料であるY 2 BaCuO 5 という絶縁相を取り込むことなく、結晶の連続成長が可能となっている。およそ一ケ月に及ぶ長期間の酸素アニールにより、アンダードープ組成(60K 相)のYBa 2 Cu 3 O 6 10 7(Tc=68K,ΔTc~2K)最適ドープ組成(90K 相)のYBa 2 Cu 3 O 7(Tc=93K,ΔTc~1K)を準備した。中性子散乱実験は英国のラザフォード・アップルトン研究所の中性子散乱施設に設置されているMARI分光器、HET分光器を利用して行った。どちらの分光器もチョッパー型の中性子非弾性散乱装置であり、多数の検出器により、広い波数 - エネルギー空間のスペクトルを一度に測定できるものである。
 60K 相の実験結果から見てみると、横軸に(HH0)方向の波数、縦軸にエネルギーをとった2次元スペクトル(図1)から(1/2±δ,1/2),(1/2,1/2±δ)の非整合の波数位置に存在する磁気散乱が20meVから40meV付近に明瞭に観測された。反強磁性秩序を示す波数からのずれとして定義されているδの値としては、スペクトルの波数依存性から求めることができ、30meV付近においておよそ0.11(r.l.u)であることが分かった。一方、90K 相の試料では低温において整合波数(1/2,1/2)、エネルギー41meVに共鳴的な強い磁気散乱が観測されているが、Tcの直上のデータを詳しく解析してみると、散乱強度としてはかなり弱くなっているが60K 相とよく似たエネルギー依存性を持つ非整合磁気散乱が観測された。90K 相のδの値は0.17(r.l.u)であり、60K 相よりも大きくなっている。これらの非整合磁気散乱の波数位置はLSCOと全く同じシンメトリーであり、上述のフエルミ面のネステイングにより整合(YBCO)と非整合(LSCO)の違いを説明する解釈は全く意味をなさないものとなった。それではLSCOとYBCOに共通に依存する非整合磁気散乱をどのように理解すれば良いのであろうか? ここで、注目を集めたのはLSCOのLaを少量のNdで置換しTcを抑制した系において、スピンと電荷が線上に秩序化したストライプ構造に対応した超格子反射が観測されたことである。Ndで置換した系の非整合磁気散乱の構造が超伝導相の非整合磁気散乱の構造と全く同じであることから、電荷密度の揺らぎが非整合磁気散乱を引き起こす可能性を示唆し、超伝導発現機構に重要な手がかりを与えるものとして、最近特に注目を集めている。このストライプ構造を念頭に置き我々の実験結果を考えてみると、60K 相については図2(a),90K 相については図2(b)のようなモデルが最も実験結果を定性的に説明できるようである。すなわち、磁気散乱の波数依存性から得られるδや相関長、また磁気散乱の積分強度から求まるCuスピンの大きさが、これらのモデルを裏付ける値となっているいことが分かった。この様に我々の結果はストライプ構造を積極的に支持するものであるが、超伝導を示す銅酸化物では電荷揺らぎに対応する超格子反射が今のところ観測されておらず、この描像が正しいかどうかについては現時点で決着がついたわけではない。しかしながら、高温超伝導の発現機構を解明する上で「ストライプ構造」が重要なキーワードと成り得ることは間違いないであろう。, 総研大甲第366号}, title = {中性子散乱による酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O6+の磁気励起の研究}, year = {} }