@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000605, author = {濱田, 栄作 and ハマダ, エイサク and HAMADA, Eisaku}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {本博士論文は,研究課題である「陽電子寿命測定法を用いた高分子材料表面解析装置の開発研究」についてまとめたものである。
 陽電子の特徴的な現象に電子との対消滅がある。物質中に入射した陽電子は,原子・分子のイオン化や励起により熱エネルギー程度まで急速に減速される。熱化した陽電子は,物質中を拡散し,消滅位置の電子密度に逆比例する寿命で電子と対消滅する。この現象を検知することで,材料物性解析のプローブとして陽電子を利用することができる。高分子材料中では,ポジトロニウム(Ps)と呼ばれる電子と陽電子の水素結合様の束縛状態の形成・消滅過程が加わる。特に陽電子と電子のスピンが平行な状態のオルソPs(o-Ps)は,材料中の自由空間(空隙)に捕捉され,空隙の壁からしみ出た電子と相互作用し,1~4nsの寿命で消滅する。このo-Psの寿命とその形成率は,空隙のサイズや高分子の構造的・化学的特徴を反映したものである。これらの情報は陽電子が材料へ入射した時刻と,電子と対消滅した時刻を測定することで得られる(陽電子寿命測定法)。従来の陽電子寿命測定法では,放射性同位元素(RI)のβ+崩壊により得られる広範囲のエネルギー分布を持つ白色でかつ高速の陽電子(22Naの場合,0~540 keV)を直接利用してきた。その結果,陽電子は材料表面から内部(数百μm)まで広く分布し消滅するので,陽電子寿命測定法は材料のバルク分析法としてのみ認識されてきた。
 陽電子を用いて材料の表面近傍の解析を行うためには,低速陽電子ビーム(0~数十keV)が有用である。これは白色陽電子を減速材で熱化させ,拡散により再び減速材表面へ再放出した低速の陽電子(数eV)を電場により引き出し,真空中を磁場輸送させることで得られる単色性に優れたビームである。したがって,加速電場により材料に対する陽電子の入射エネルギー(入射深さ)を任意に制御することができ,表面や界面,深さ方向に沿った物性解析,材料表面の欠陥等の研究に利用することができる。しかしながら,低速陽電子は減速材から時間的にランダムに発生するので,材料への入射時刻を検知することができず,時間情報を必要とする陽電子寿命測定法に適用することができない。
 本研究では,陽電子寿命測定法を用いて高分子材料の表面解析を行うために,パルス化低速陽電子ビーム発生装置の開発を行った。この装置は,あらかじめ定めた時間間隔(パルス間隔)で低速陽電子を材料へ入射でき,寿命測定に必要な陽電子の材料への入射時刻を決定することができる。
高分子材料中でのo-Psの寿命を測定するために,パルス化装置は以下の条件を満たす必要がある。

1.高分子材料中の空隙に捕捉されたo-Psの寿命(1~4ns)より,十分に短い装置時間分解能であること。

2.o-Psの寿命より十分に長いパルス間隔(40ns以上のパルス化周期)であること。

3.実験室レベルのコンパクトな装置にするため,陽電子源にRIを用いる。ただし,得られる低速陽電子の数が少ないので,高いパルス化効率(全低速陽電子数に対して,時間的に集束された陽電子の割合)を達成すること。

これらの条件を満たすために,本装置は白色陽電子の低速化を行う減速材と接地したメッシュ電極との間に時間変化する加速電界を形成しパルス化を行うプレバンチャー,陽電子の通過・遮断を制御する電界反射型のチョッパー,高圧縮のパルス化を実現するRF(radio frequency)バンチング法を用いたメインバンチャーの3つのシステムから構成される。
 本方式の特徴は,理想的なパルス化を行うプレバンチャーにより,高効率のパルス化を実現できるという点である。これは,RIを陽電子源とするパルス化低速陽電子ビーム発生装置の開発を可能にし,実験室レベルのコンパクトな装置を開発することができた。本装置のパルス化効率は,40nsのパルス化周期で50%の効率を達成した。このパルス化周期と効率は,荷電粒子のパルス化に用いられるRFバンチング法のみでは達成することが困難な値である。また,陽電子寿命測定システムの時間分解能は0.6nsを達成し,本研究の目的である高分子材料中の空隙に捕捉されたo-Psの寿命を測定できる十分な値である。
 パルス化低速陽電子ビームを用いると,以下に述べるように陽電子寿命測定による研究の適用範囲をバルク試料解析から表面近傍解析へ広げることができる。白色陽電子を用いる従来の陽電子寿命測定法では,フィルム状試料の測定は困難であったが,低速陽電子を用いる本装置はこれを可能にした。本研究では,低密度ポリエチレンフィルム(厚50μm)の深さ方向(~1500nm)に対する空隙サイズの測定を行い,表面近傍の空隙サイズがバルク中のものに比べ大きいことを示した。ポリエチレン基板に鉄層を蒸着した金属・高分子多層膜材料については,その境界面を検出し,非破壊的に蒸着膜の厚さを測定した。半導体材料の封止材として使用されるエポキシ樹脂にフィラー(ガラスビーズ)を充填した複合材料の測定では,表面近傍とバルク中でのフィラー分布の相違を明らかにし,複合材料の表面に樹脂層のみが存在することを非破壊的に確認した。また,エポキシ樹脂系硬化物材料表面での熱的特性を調べ,表面近傍での熱膨張係数の増大を実験的に確認した。
以上のように,本研究で開発したパルス化低速陽電子ビーム発生装置は,陽電子寿命測定による研究の適用範囲をバルク分析から表面近傍分析へ広げた。また,本研究で得られた高分子材料表面の情報は,従来の陽電子寿命測定法では得られないものであり,高分子材料の開発研究に重要な役割を果たすことが期待されるものである。, application/pdf, 総研大甲第440号}, title = {陽電子寿命測定法を用いた高分子材料表面解析装置の開発研究}, year = {} }