@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000618, author = {五十嵐, 康仁 and イガラシ, ヤスヒト and IGARASHI, Yasuhito}, month = {2016-02-17}, note = {次世代の線形加速器には,高電界で安定に動作する加速管の開発が必要となる.例えばNLC/JLC計画(χバンド)では70 MV/m,SuperKEKB(Cバンド)では42 MV/mの加速電界強度が要求されている.高電界になると加速管内での放電が発生するようになり、クライストロンへの反射波の増大、真空圧力の上昇・電界放出電流の増加等が頻繁に起こるため安定したビーム加速が出来なくなる.その為,これまでに多くの高電界試験が行われ,Sバンド,Xパンドとも80 MV/m以上の加速電界強度が得られている.しかし,高い加速電界強度が得られても放電によってディスクやカプラー空洞アイリスを痛めてしまい,加速管の位相特性が変化してしまうことがあった.また,コンディショニング時の空洞表面の状態を表す指標である電界増倍係数βと加速電界強度との関係などまだよくわかっていないことが多くある.

 本研究では幻逐上入射器用に製造したSバンド2m加速管の高電界に関する特性を調べることにより,高電界で安定に働く加速管の設計,製作,運転に役立つ知見を得ることを目的とした.主な実施内容は次の3つである.

[1] 3種類の加速管について高電界試験を行い,コンディショニング時間と加速電界強度,放電頻度,電界増倍係数βとの関係を詳細に調べた.また,加速管の上流,下流側での暗電流およびその運動量スペクトルの測定を行った.特に3本目の加速管については,電界放出の原因の一つである塵などの汚染物を取り除く方法である超純水高圧洗浄技術を適用した.加速管の洗浄を行う前に洗浄予備試験を行い,洗浄効果の確認も行った.
[2] 高電界試験および加速器運転で使用された加速管の入出力カプラー空洞に黒く変色した箇所が,(1)カプラー空洞内部の三日月型窪み,(2)導波管-カプラー空洞アイリスのカプラー空洞側,(3)導波管-カプラー空洞アイリスの導波管側の3カ所に確認された.電磁場分布のシミュレーション等により,変色箇所で起きている現象についての考察を行った.
[3] 加速管内部で発生する暗電流の運動量スペ外ルは,空洞内部の状態を表す指標の1つである.暗電流の軌道および運動量スペクトルのシミュレーションを行い,試験結果と比較することにより,シミュレーションコードの検証,および加速管の上流,下流側で観測される暗電流の発生機構に関する知見を得る.

本論文で得られた結論は以下のとおりである.

(1) 高電界試験を行った結果,KEKB入射器用Sバンド2m加速管は,最大平均加速電界強度45 MV/mまでは空洞が放電によるダメージを受けることは無ぐ十分実用的であることが確認できた.この値以上については試験設備の制限により確認はできなかったが,45 MV/m以上も期待できる.
(2) 加速管に対して超純水高圧洗浄を行うことにより,コンディショニング時間を半分以下に短縮し,放電等によるトリップ回数,暗電流を1/10以下に抑えられることが明らかになった.暗電流の減少は,洗浄により空洞表面の汚れや不純物が減り,電子放出面積が小さくなったためと考えられる.高電界試験前に実施した洗浄予備試験により,超純水高圧洗浄によってサンプノレディスク上の不純物の数が1/10以下に減少することが確認されている.また,トリップ回数,暗電流値が大きく減っていることから,加速管内での放電は汚れや不純物の影響が大きいと考えられる.今後,加速器の運転に使用する加速管に対して超純水高圧洗浄を行うことにより,大幅なコンディショニング時間の短縮,および暗電流の減少が期待できる.
(3) 3種類の加速管とも,ショット数(コンディショニング時間)が増えるに従い,電界増倍係数βは指数関数的に減少し,平均加速電界強度Eは指数関数的に増加すること,さらに,Eとβの積はショット数によらずほぼ一定の値となることが実験的に明らかになった(局所的な表面電界強度E〓は約6 GV/mとなった).したがって,平均加速電界強度Eを上げるためには電界増倍係数βを下げなければならないことがわかる.また,1度コンディショニングが済んだ電界強度ではコンディショニング時よりもβは小さく高い電界強度が可能となっている為,放電頻度が大きく下がることになる.さらに,加速管の放電頻度は,コンディショニングを行った時間数よりもコンディショニングを行った最大加速電界強度が大きく影響することも試験から明らかになった.その為,加速器の運転に使用する加速管に対しては,運転加速電界強度よりも2割程度高い加速電界強度でコンディショニングを行ったならば,運転時の1時間あたりのトリップ回数を0.1回以下に下げることが可能と思われる.
(4) 入出力カプラー空洞の電磁場分布計算をHFSSにより行った結果,黒く変色した箇所にはマルチパクタ放電を起こす条件に近い電磁場分布が存在することがわかった.表面電界強度は数MV/mであり,これらの変色箇所が加速管の耐圧を制限している可能性はないと考えられる.
(5) 計測される暗電流の運動量スペクトル形状は,コンディショニングの履歴や空洞の状態が異なるため加速管ごとに異なっているが,シミュレーションは計測されたスペクトル形状をほぼ再現した.特に,低エネルギー側については,ビームホールやスリットによるコリメーション効果を考慮することにより,測定結果に近い形状となった.また,シミュレーション結果から,下流側で計測される暗電流は広いエネルギースペクトル分布を持つ方向の揃った電子であることがわかり,試験結果も併せて考えるとその多くが20~50空洞付近から放出されていることが明らかになった.従って,加速管下流側で計測される暗電流によって求めた電界増倍係数βは,主に加速管の20~50空洞付近の状態を表していることになる.一方,上流側で計測される暗電流は,低いエネルギーのみを持った電子であり,そのほとんどが上流側の数空洞から放出さていることも明らかになった.よって,上流側で計測される暗電流値より求めた電界増倍係数βは,加速管上流側の数空洞の状態を表していることになる., 総研大甲第715号}, title = {高電界加速のためのリニアック加速管に関する研究}, year = {} }