@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000619, author = {小栗, 英知 and オグリ, ヒデトモ and OGURI, Hidetomo}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {KEKと原研が共同で進めている大強度陽子加速器計画(J-PARC)で使用するイオン源は、ビーム電流60mA以上、デューティーファクター2.5%、規格化RMSエミッタンス0.20πmm・mrad以下の負水素イオン引き出しが要求されている。しかしこのような性能を有する負イオン源は世界的にも現存しない。そこで本研究ではJ-PARC用イオン源実現のために、負水素イオン源を設計・製作し、負イオン生成効率にかかわる種々のパラメータを詳細に検討して最適化を行い、ビームの高性能化を図った。また、目標メンテナンス頻度500時間を達成するために、イオン源の連続運転時間を制限する主要因になると考えられるフィラメントの長寿命化研究も併せて実施した。

 本研究で開発した負水素イオン源の構造図を図1に示す。本イオン源は体積生成型負イオン源と呼ばれ、プラズマ中の振動励起水素分子、高速電子(フィラメントからの一次電子)および低速プラズマ電子が関与する以下の2段階過程によって負水素イオンが生成される。
(1) H2 + e(>40eV) → H2*(ν) + e
(2) H2*(ν) + e(〓1eV) → H- + H

 第1過程と第2過程に関与する電子のエネルギーは大きく異なるので、体積生成型負イオン源では通常、プラズマ生成室に磁気フィルターと呼ばれるシート状の横磁場は設けて生成室を電子エネルギーに対して2分化する。負イオン生成効率を上げるには、それぞれの領域で電子エネルギー分布を最適化する必要がある。また、負イオンの結合エネルギーは約0.75eVと低く、付着した余分の電子は高速電子により容易にはぎ取られて負イオンは消滅してしまうので、高速電子が負イオン生成領域に侵入しない磁場形状を実現することも重要となる。そこで今回製作したイオン源では、プラズマ生成室をビーム加速部の外部に設置することで磁気フィルターの強度の調整自由度を大きくして、磁気フィルターの詳細なパラメータサーベイ実験を可能とした。磁気フィルター強度の他に、一次電子エネルギーに相当するアーク電圧、および生成室内の電子分布に影響するプラズマ生成用フィラメントの長さについても着目し、これら3つのパラメータについて詳細なマツピングデータを収集して、高い負イオン生成効率が得られる条件を見出した。また、3次元電子軌道計算コードELEORBITを用いてプラズマ生成室内の一次電子軌道計算を行い、実験データと比較することで負イオンビーム生成量が最大となる一次電子軌道分布を明らかにし、今後の大強度負イオン源の設計指針を示した。

 イオン源出口での残留水素ガスによるビーム中性化損失を低減するために、(1)イオン源の動作ガス圧を下げる、(2)イオン源出口の真空度を上げる、の2つに着目して研究を行った。(1)については、核融合NBI用負イオン源のデータを参考にして大容量のプラズマ生成室を採用することで実現し、動作ガス圧1.2Paという一般的な加速器用負水素イオン源の半分程度のガス圧で運転することに成功した。(2)については、ビーム引き出し系に差動真空排気系を設置してビームが通過するラインとは別のラインから残留ガスを排気することでイオン源出口の真空度の改善し、その結果、負イオンビーム電流が1.5倍増加することを確認した。

 以上のパラメータ最適化実験の結果、最終的に得られたセシウム添加時(Cs Seeded)および未添加時(Pure Volume)の負イオンビーム電流と引出電流のアークパワー依存性を図2に示す。セシウム添加により負イオンビーム電流が4倍程度増加し、アークパワー56kWにて72mAに到達した。また、セシウム添加は引出電流の低減にも大きく寄与することが分かった。引出電流のほとんどは引出電極に衝突する雫子電流であり、高デューティー運転の場合、この量が多いと電極への熱的ダメージが多大となり安定な運転が困難となるので、引出電流の減少もセシウム添加の大きな利点と考えることができる。

 エネルギー70keV、電流60mAのビーム条件で、イオン源下流60cmの場所で(この間、ビーム収束機器は全く無し)エミッタンス測定を実施した。その結果、X方向およびY方向の規格化RMSエミッタンスは、それぞれ0.13および0.15πmm・mradであることが分かった。このときのビーム輝度を計算すると14.7mA/(mm(mm・・mrad)2となる。図3に示すとおり、デューティ-1%以上の高デューティー運転が可能な負イオン源の中では、今回達成したイオン源のビーム性能が最も優れているとともに、本イオン源が唯一、本計画の要求性能を達成しているイオン源であることが分かる。

 J-PARC用イオン源の目標メンテナンス頻度を達成するために、フィラメントの長寿命化研究を実施した。長時間運転後のフィラメントの消耗状態を詳細に調べると、フィラメント電源の負端子側に接続した部分のみが消耗していることが分かった。放電中のフィラメント正端子側と負端子側の電流を測定すると、正端子側はフィラメント加熱電流を打ち消す方向にアーク電流が流れるためフィラメント電流は減少し、逆に負端子側はアーク電流がフィラメント加熱電流に重畳する方向に電流が流れるのでフィラメント電流は増加することが明らかになり、これがフィラメントの負端子側のみが消耗する原因であることが分かった。
 使用フィラメント本数を2本から3本に変更することで、負端子側へのアーク電流の流れ込み量を下げ、その結果、寿命が4倍程度向上し、アークパワー30kW、デューティー3%の条件でフィラメント寿命258時間を実現した。次にフィラメント電源のアーク電源への接続方法を、従来の負端子接続から正端子接続に変更したところ、フィラメント負端子側へのアーク電流の流れ込み量をさらに低減できることが分かり、この方法によりフィラメント寿命が1.8倍向上することを確認した。この結果を先ほどの258時間に適用すると、寿命が464時間に達すると期待できる。さらに、フィラメントの正端子側の断面積を負端子側より小さくすることでフィラメント消耗の不均一性が改善されることも分かり、この方法でフィラメント寿命が2倍向上することを確認した。この異断面形状フィラメントを使用すれば予想寿命464時間がさらに876時間程度まで伸びることが期待でき、メンテナンス頻度500時間を十分達成できる見込みを得たことになる。
 また、フィラメント寿命とアーク放電パワー、およびアーク電流の依存性を測定すると、寿命は一般的に考えられているアーク放電パワーではなく、アーク電流に強く依存することが分かった。さらに、アーク電圧を増加させることでパワーを上げれば、寿命は短くなるのではなくむしろ長くなるという結果も得た。これは大電流ビームを引き出すために高いパワーを投入しても寿命は悪化しないことを示しており、高いパワーが必要な本イオン源にとって非常に好都合な結果である。, application/pdf, 総研大甲第716号}, title = {大強度負水素イオン源の研究}, year = {} }