@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000631, author = {大森, 隆夫 and オオモリ, タカオ and OHMORI, Takao}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {横型クライオスタットは様々な分野の超電導磁石に用いられている。特に高エネルギー粒子加速器ではビーム搬送用双極磁石や四極磁石、衝突点検出器用大型ソレノイド磁石に用いられている。横型クライオスタットには超電導コイルを極低温に保ち、かつ冷凍負荷を抑制するために、優れた断熱性能を持つ真空多層断熱材(MLI)が用いられている。MLIはポリウレタンフォームなどの固体断熱材と異なり、薄いアルミ蒸着ポリエステルフィルムを輻射反射膜として多層に重ねて使用する断熱材で、施工方法の良し悪しによって断熱性能が大きく変わり取り扱いが難しい断熱材である。ここで、MLIの断熱性能とはMLIの輻射反射膜の面に垂直方向に高温側から低温側に流入する熱流束の大きさを言い、それが小さければ断熱性能が良いという。MLIの熱流束とその影響因子についてはこれまでに多くの研究がなされてきたが、横型クライオスタットなど実機クライオスタットにMLIを適用した場合の熱流束について十分研究されたとは言えない。
 MLIは真空中に多層の輻射反射板を配置する断熱法の一つである。重力のある環境では輻射反射板を空間に配置するための支持機構が必要であるが、これを通した固体伝導が発生し断熱性能が悪くなる。そこで、MLIでは輻射反射膜として厚さ12μm程度の薄いポリエステルフィルムにアルミニウムを真空蒸着したものを用いる。この輻射反射膜は非常に軽量であるので、これらを重ねて使用しても、反射膜どうしが接触することにより生じる固体伝導を低く押さえることができる。ただし、MLIをクライオスタットに施工する場合、輻射反射膜間の接触圧(層間接触圧)が高くならないように施工することが重要である。
 クライオスタットにMLIを施工する場合、製造現場では「輻射反射膜が自然に積み重なるよう軽く巻きつけること。輻射反射膜に余分な張力をかけてはいけない。」という指針を立てて作業者に指示している。このようにして施工されたMLIは「自己圧縮」状態にあり、層間接触圧はMLI自体の重量によって発生していると考えられる。「MLIの現場施工指針」はMLIの熱流束がMLIの自重で決まる低い圧力範囲でも層間接触圧の影響を受けることを経験的に掴んでいるために立てられたと考えられるが、未だに工学的な説明がなされていない。

 G.R.CunningtonやN.InaiらはMLIの熱流束に対する層間接触圧の影響を実験的に調べた。しかし、彼らが調べた接触圧のレベルは100Pa以上700Pa程度の高い範囲にあり、特にN.Inaiは層間接触圧を「締め付け圧」と呼んでいる。横型クライオスタットに施工され自己圧縮状態にあるMLIの輻射反射膜間に発生する接触圧をMLI重量から見積もると反射膜が40枚の場合0~30Pa程度の低いレベルであり、本研究が対象にする低い接触圧レベルにおけるMLIの熱流束について実験的に調べられたことは無かった。本研究ではスペーサを使用しない形式のMLIを試験対象とし、輻射反射膜はアルミ蒸着ポリエステルフィルムをディンプル加工したものである。
 MLIの熱流束を低接触圧領域で測定するために最適なカロリメータとしてVertical Cylindrical Calorimeterを採用した。このカロリメータは液体ヘリウムあるいは液体窒素を充填する円筒状タンクの側面にMLIを巻きつけてMLIの熱流束を測定するもので、液体ヘリウムなどの蒸発流量から熱流束が計算できる。このカロリメータはMLIの施工面が重力の方向に平行であるので、MLIが重力によって圧縮されないのでMLIの自重で決まる低接触圧領域で実験を行う上で最適である。層間接触圧は反射膜の巻きつけ周長によって調整することができるが、接触圧を直接測定する方法がなかった。このため、MLIの積層試験を行いMLIの層密度と層間接触圧の関係を調べ、この関係からカロリメータに巻きつけたMLIサンプルの層間接触圧を推定した。以上から、層間接触圧が0~140Paの低接触圧領域においてMLIの熱流束と層間接触圧の関係を明らかにした。MLIの低温側と高温側の温度条件はそれぞれ77Kと300Kあるいは4.2Kと77Kにし、液体窒素温度を境にして高温側の領域と低温側の領域に分けて熱流束の測定を行った。
 本研究ではMLIの施工対象として横型クライオスタットを考えているので、施工対象面をモデル化して水平円筒状側面と考え、自己圧縮状態における層間接触圧の解析を行った。これにより、水平円筒まわりにN枚の輻射反射膜を巻いたMLI中に発生している層間接触圧の平均値は(N+1)wであり、円筒の直径に依存しないことがわかった。これは、層間接触圧の平均値が直径の大きな衝突点検出器用大型薄肉ソレノイド磁石の場合でも、直径の小さい双極磁石の場合と同じ値になることを意味する。層間接触圧Pを輻射反射膜1枚の単位面積当りの重量wで割った無次元接触圧パラメータP*で評価すると水平円筒まわりのMLIではP*の平均値はN+1になる。P*がN+1のときのMLIの熱流束はカロリメータ試験の結果から割り出すことができるので、その値がそのMLIを水平円筒まわりに自己圧縮状態になるように巻きつけた場合の熱流束の推定値と考えることができる。この熱流束推定値と層間接触圧がゼロのときの熱流束を比較すると、後者の方が3から5倍小さいことがわかった。従来の研究では、MLIをカロリメータタンクの側面に巻きつける場合、「MLIの現場施工指針」を考慮した結果、層間接触圧がゼロの状態にして熱流束を測定していた。その測定値よりも水平円筒まわりのMLIの熱流束は3から5倍大きいことがわかった。

 カロリメータ試験により得られたMLIの熱流束データから輻射反射膜間の層間接触熱伝達率と層間接触圧の関係が求まれば、MLIの熱流束を解析的に求めることが可能になる。MLIの適用対象によらず層間接触圧分布がわかればその熱流束を計算し、クライオスタットの熱負荷が求められる。水平円筒まわりのMLIの層間接触圧分布の解析から、その周方向と層方向の分布が明らかになった。従ってMLI中の任意の位置における層間接触熱伝達率が推定できるので、水平円筒まわりのMLIの熱流束をより厳密に計算することができる。このために、層間接触熱伝達率を仮定してMLIの熱流束を解析的に求め、カロリメータ試験で得られた熱流束値と比較することにより、層間接触熱伝達率と層間接触圧の関係を求めた。
 この計算に先立ち、MLI中の輻射熱伝達の計算式の有効性を確認するため、層間接触圧がゼロの場合の熱流束データと輻射熱伝達の式とを比較した。その結果、高温域の境界温度条件の場合に熱流束データはC.L.TienやS.Tsujimotoの式で計算した結果とよく一致するが、境界温度条件が低温域の場合よい一致は見られず、実験値は計算値より18~20倍大きいことがわかった。その原因として、輻射反射膜の輻射透過性について検討した。アルミ蒸着輻射反射膜の輻射透過率はR.P.Shuttの方法に従って計算し、MLI中の任意の層間の輻射熱伝達を考慮してエネルギーバランスの式を立てMLIの熱流束を計算した。これによると輻射反射膜の輻射透過性により熱流束が増加するが、熱流束の実験値との間にはなお約10倍の差があることがわかった。
 MLIの熱流束の解析式は境界温度条件が高温域にある場合だけ有効であるので、層間接触熱伝達率と層間接触圧の関係は境界温度条件が高温域にある場合だけ求めることができた。この関係を本平円筒まわりのMLIの熱流束解析に適用し、MLIの熱流束と全層数との関係を計算することができた。それによると熱流束は層数の増加に対して単調に減少するが、自己圧縮のため層数が増えると層間接触熱伝達率が上昇するので、熱流束の減少は層数に反比例して低下しないことが分かった。

 本研究により、「MLIの現場施工指針」の工学的意味を明らかにするとともに、横型クライオスタットにMLIを適用した場合の熱流束をカロリメータで実験的に推定する方法を明らかにした。また、熱流束データから層間接触熱伝達率を求め、任意の施工状態におけるMLIの熱流束を解析的に求める方法を明らかにした。ただし、境界温度条件が低温域にある場合は、輻射熱伝達の計算は実験結果とよい一致はみられなかった。C.L.Tienらは極低温域でRadiation Tunneling効果により熱流束が増加することを報告しているが、低温域で熱流束を増大させる原因についての研究は今後の課題として残された。
, 総研大乙第145号}, title = {横型クライオスタットにおける真空多層断熱材の研究}, year = {} }