@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000641, author = {西脇, みちる and ニシワキ, ミチル and NISHIWAKI, Michiru}, month = {2016-02-17}, note = {電子、あるいは、イオンなどの高速粒子や光は、固体表面と相互作用して様々な問
題を引き起こす。例えば加速器においては、これらの粒子が真空ダクト内表面に入射
して、ガス放出や2次電子放出が起こり、ビーム寿命の短縮やビーム不安定性、マル
チパクタリングなど、加速器の性能を低下させる原因となる。したがって、こうした
ガスや2次電子の放出を低減することが、重要な課題となっている。一般に、ガス放
出や2次電子放出は、表面状態と密接な関係にあると言われてきた。しかし、従来の
真空材料の研究では、それらの表面状態分析を行わず、つまり表面状態を全く把握せ
ずに、ガス放出率や2次電子放出率のみを測定したものが多かった。中には、表面分
析を行ったものもあるが、その多くは、ガス放出率や2次電子放出率の測定とは異な
る別の装置を用いた研究であった。したがって、装置間での試料の移動を要するため、
試料は大気や低真空に曝され、その表面状態は容易に変化する。つまり、ガスや2次
電子を放出した表面状態を的確に把握することは困難となる。このため、ガス放出率
や2次電子放出率と表面状態との関係を正しく理解できていなかった。そこで本研究
では、極高真空のベース圧力を持つ表面分析装置を開発し、各材料表面の状態観察を
行いながら、電子衝撃によるガス放出率(Electron Stimulated gas Desorption,ESD収
率)、および、2次電子放出率の測定を、in-situで行った。また、本装置では、XPS
(X-ray Photoelectron Spectroscopy)、AES(Auger Electron Spectroscopy)、SIMS
Secondary Ion Mass Spectroscopy)による表面分析に加えて、最大エネルギー15keVのイオン注入が
可能である。この装置を用いて一連の実験的研究を行うことにより、ガス放出率や2
次電子放出率と表面状態との相関関係を明らかにして理解を深め、かつ、ガス放出や
2次電子放出の低減を図るための知見を得た。
 電子衝撃によるガス放出では、電子進入深さ程度の表面層やバルクから表面へ拡散
した不純物原子が脱離に寄与していると考えられる。ガス放出低減のためには、主な
供給源を明らかにし、その制御方法を開発する必要がある。そこで本研究では、銅材
料についてESD収率の測定と表面状態観察を行い、その関連性を明らかにし、さらに、
炭素の同位体を用いてバルクから炭素が拡散し、脱離することを以下に示すとおり、
実験的に証明した銅材料は、熱伝導率が高いことや放射線遮蔽の観点から、KEKB
を始めとする大電流加速器の真空ダクト材料として採用されている。しかし、銅表面
には大気中で安定な酸化膜ができないため、曝される環境に応じてその状態が変化し、
ガス放出特性も影響を受け易い傾向にある。そのため、ガス放出量の低減には、表面
処理などにより表面を制御し、状態変化を防ぐ必要があり、その実現のためには、表
面処理の効果を評価することが重要となる。そこで、無酸素銅表面に3種の化学研磨
をそれぞれ施し、ESD収率の計測、AESの深さ方向分析を行い、比較した。その結果、
H2O2+H2SO4水溶液による処理を行ったものが、最も低いESD収率を示した。また、そ
の表面は、AESにより、酸化層が薄く、酸素や炭素原子の量が少ないことが分かった。
また、ESD収率と表面層の不純物量には強い相関関係か見られ、放出されたガスの供
給源が、表面層やバルクからの拡散原子である可能性を示唆していた。そこで、電子
衝撃によって原子の拡散が促進され、表面から放出されることを明確にするために、
炭素の同位体13Cを含むガスを、スパッタクリーニングと加熱処理により清浄化された
銅表面の一定深さにイオン注入し、ESD収率を観測する方法を発案し、測定を行った。
13C を用いることで、残留ガスと区別して検出でき、かつ,放出ガスの中でも特に低減
の必要な、炭素の挙動を明らかにできる。すなわち、もし表面層やバルクからの拡散
が放出されるガスの供給源となるのであれば、注入された13Cが表面にも拡散して放出
され、13Cを含むガスが観測されるはずである。その実験検証の結果、13Cのイオン注
入を行った表面からは、注入していない表面と比較して、約3倍もの13Cを含むガスの
ESD収率が観潮された。さらに、XPS、およぴAES分析によれば、ESD収率測定後の
表面では、13C注入直後と比較して、炭素の量が30%程度増加していた。つまり、バル
ク中に注入された13C、および、元来含まれている不純物炭素12Cが電子照射により表
面へ拡散し、放出ガス源となったことを明確に示した。
 以上の一連の実験から、電子照射により進入深さ程度の表面層やバルクに含まれる
炭素の拡散が促進され、表面に偏析し、同時に放出ガスの供給源となっていることが、
実験的に証明されたことになる。また、表面層やバルクに含まれる不純物を減少させ
ることが、ガス放出の低減に非常に有効であることを改めて示した。
 2次電子放出率は、経験的に表面状態、特に酸化物や炭化水素、水などの不純物の
量に影響きれることが知られているが、詳しいメカニズムは分かっていない。そこで
本研究では、銅やステンレスなどの金属、窒化チタン、黒色メッキ、炭素材料などの、
初期表面、初期表面への電子照射後、スパッタクリーニング後の清浄表面、および、
清浄表面への電子照射後に、それぞれ2次電子放出率の測定と表面状態分析を行い、
その関連性を明らかにした。まず、初期表面には、どの材料もCOやCOH、あるいは
水などと推測される不純物が大量に存在し、2次電子放出率δは高く、例えば銅では
最大値δmax≈ 2を示した。この初期表面に電子を照射すると、酸化物の還元が進み酸素
の量は減少した。しかし、炭素の量はほとんど変化しないか、あるいは、増加した。
一方、2次電子放出率には著しい低下が見られ、全ての材料でδmax≈ 1という低い値を示
した。このとき、XPSから、初期表面ではCOやCOHなどとして存在していたと推測さ
れる炭素が、電子照射によりグラファイトを多く含む状態に変化したことがわかった。
つまり、このグラファイト状態への変化、すなわち、グラファイト化が2次電子放出
率を低下させていることが初めて明らかとなった。また、グラファイト化した銅試料
を大気に曝露しても、表面の炭素はグラファイト構造を保ち、炭素を含む不純物の増
加は見られなかった。2次電子放出率は、δmax≈ l.3と初期表面と比較して非常に低い値
を示した。つまり、予め表面をグラファイト化することにより、大気曝露による表面
汚染を防ぎ、2次電子放出率の上昇を抑制することが可能であることが分かった。ス
パッタクリーニングにより初期表面から不純物を除去し、清浄表面にすると、2次電
子放出率は低下した。値は材料によって異なり、例えば銅はδmax≈ l.4、窒化チタンは
δmax≈ 0.8を示した。これらのδmaxは、材料構成元素の電子密度やイオン化エネルギーに
依存する。さらに、表面を清浄にした銅に電子を照射したところ、バルクから表面へ
拡散・偏析した炭素のグラファイト化は見られたものの、初期表面の電子照射による
グラファイト化ほどの低い2次電子放出率は得られなかった。これは、グラファイト
化できる炭素の絶対量が少なく、表面を完全に覆ってはいなかったためと考えられる。
 以上のことから、表面を覆っている炭素の量が同じ程度であっても、その化学結合
状態がグラファイトを主としたものであるか、あるいは、COやCOHなどの炭素を含
む不純物であるかが、2次電子放出率を決定する大きな要因となっていることが明ら
かになった。表面の炭素のグラファイト化は、2次電子放出率をδmax≈ 1まで低下させ、
この効果は材料に依存しないことを見いだした。また、グラファイト化した表面は大
気曝露を行っても、表面汚染や2次電子放出率の上昇が抑えられることも分かった。
スパッタクリーニングなどによる不純物除去で、δmaxが1以下となる材料もあった。し
かし、その工程を考慮すると、実際の加速器のビームダクトなどにおいては、不純物
除去よりも、炭素のグラファイト化を図る方が現実的、かつ、効果的であると考えら
れる。
 このように、本研究では各種材料の表面状態を把握しながら、ガス放出率や2次電
子放出率を測定することにより、バルクからの拡散が放出される炭素ガスの供給源と
なっていることを実験的に証明し、表面状態と2次電子放出率との相関関係を明らか
にするなど、電子衝撃によるガス放出や2次電子放出現象と表面状態との関連性につ
いて、新たな知見を得た。さらに、表面に存在する炭素の状態制御、すなわち、グラ
ファイト化によって2次電子放出率を著しく低減できることを示した。この結果を受
けて、内表面をグラファイト化した銅製ビームダクトを、KEKB加速器に試験的に導
入することも決定した。また、多くの材料について、系統的な測定を行うことにより、
表面組成や炭素の結合状態から、およその2次電子放出率を予測することも可能とな
り、同時に実用的なデータベースとして提供することができた。, 総研大乙第166号}, title = {in-situ分析法を用いた真空材料表面からの電子衝撃ガス脱離および2次電子放出に関する研究}, year = {} }