@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000654, author = {森, 一広 and モリ, カズヒロ and MORI, Kazuhiro}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {1.研究背景

 異常原子価であるFe4+を含むペロブス力イト型鉄酸化物の中に温度の低下に伴って2Fe4+→Fe3++Fe5+の電荷分離(電荷不均化反応)を生じる物質が存在する。このような電荷不均化反応の現象はTakano等による低温でのCaFeO3のメスバウアー測定によって発見された[1]。また、本研究の研究対象物質であるSr3Fe2O7においても電荷不均化反応の現象が観測されている[2]。
 一方、SrFeO3やSr2FeO4においてはこのような電荷不均化反応の現象は観測されていない[3,4]。
 電荷不均化反応の出現は結晶構造に大きく依存すると考えられる。例えば、SrFeO3とCaFeO3を比較すると両者は同じペロブスカイト型構造をもっているが、SrFeO3は立方晶であるのに対してCaFeO3は斜方品であることから、このような結晶格子の歪みによって電荷不均化反応が生じていると考えることができる。
 また、このような結晶構造の違いは電子状態に対しても大きく影響を与えていると考えられる。特に、電荷不均化反応によってeg電子が他方の鉄サイトに飛び移る際に働く相互作用として、移動積分、隣接鉄原子間の交換相互作用、鉄原子内部に働くフント結合、eg軌道内のエネルギーギャップ等が考えられるが、これらの相互作用は原子配列およびスピン配列に大きく依存している。そのため、これらの相互作用の大きさについて定量的に調べるためには結晶構造および磁気構造を決定し、詳細な構造パラメータを抽出する必要がある。そこで本研究は電荷不均化反応を生じる層状ペロブスカイト型構造をもっSr3Fe2O7-δの結晶構造および磁気構造を明らかにすると共に、構造解析によって得られた詳細な構造パラメータを用いて電荷不均化反応下における相互作用の大きさについて調べることを目的とした。


2.実験結果

2-1試料合成

 今回、作成した試料は合計で5つである。その中の4つは酸素欠損量δが異なる多結晶試料(Sr3Fe2O6.94(δ=0.06)、Sr3Fe2O6.86(δ=0.14)、Sr3Fe2O6.47(δ=0.53)およびSr3Fe2O6.21(δ=0.49))であり、もう1つは酸素欠損が多い単結晶試料である。多結晶試料は固相反応法により合成し、単結晶試料はFZ法によって合成した。ここで、Sr3Fe2O6.94およびSr3Fe2O6.86については電荷不均化反応が観測されているが、他の試料については観測されていない。また、単結晶試料の合成はこれまでに例のない初めての試みである。

2-2磁化測定

 電荷不均化反応が生じる(酸素欠損量が少ない)試料と電荷不均化反応が生じない(酸索欠損量が多い)試料についてネール温度および有効磁気モーメントの大きさを見積もった。その結果、電荷不均化反応が生じる試料においてはネール温度が約100Kであることが確認できた。また、有効磁気モーメントの大きさは4.06 μBであった。これはFe4+の有効磁気モーメントの大きさ4.9 μBに近い値であることから、この系の電子状態は高スピン状態であることが示唆される。一方、電荷不均化反応が生じない試料においてはネール温度は約150K、有効磁気モーメントの大きさは4.39 μBであった。

2-3結晶構造解析

 室温において酸素欠損量を変化させた場合と電荷不均化反応が生じる試料に対して温度を変化させた場合の結晶構造の様子についてそれぞれ調べた。結晶構造解析は粉末中性子回折実験およびRietveld法を用いて行った。結晶構造解析の結果から、結晶構造はすべてI 4/mmm(正方品)のモデルと良く一致することがわかった。しかしながら、電荷不均化反応が生じている温度において電荷不均化反応に伴った結晶構造相転移は確認されていない。このことから、電荷不均化反応に伴う結晶格子の変化(特に酸素の変位)は装置分解能を凌ぐ程、非常に僅かであると考えられる。また、構造解析によって得られた詳細な構造パラメータを用いてeg軌道内のエネルギーギャップの大きさについて計算を行った。その結果、電荷不均化反応はエネルギーギャップが増大することを嫌う傾向にあることがわかった(図1および図2)。さらに、電荷不均化反応を生じる物質は鉄一酸素間の結合角が180°よりも歪んでいることが確認された。これは鉄の3d軌道と酸素の2p軌道の共有結合性を弱める傾向にあることから、eg電子が他方の鉄サイトに飛び移る際に局在し易い状況を形成していると考えられる。

2-4磁気構造解析

 電荷不均化反応が生じない(酸素欠損量が多い)試料と電荷不均化反応が生じる(酸素欠損量が少ない)試料について磁気構造解析を行った。まず、電荷不均化反応が生じない試料(Sr3Fe2O6.21および単結晶試料)において中性子散乱実験および単結晶試料による磁化測定の結果から、磁気的単位胞の大きさはa~√2a0およびc~c0であり、スピンの方向はc軸に対して平行であるIsing型であることがわかった。一方、電荷不均化反応が生じる試料(Sr3Fe2O6.94)に対して磁気構造は完全に解けていないが、指数付けの結果から近似的な磁気構造に対する磁気的単位胞の大きさはa~2a0およびc~2c0であり、(0 0 1)反射が非常に強く出現していることが明らかとなった。これはスピンの方向がc軸に対して傾いており、ab面内においては強磁性的なスピン配列を形成していることを示唆していると考えられる。このように電荷不均化反応が生じない試料と生じる試料において磁気構造は大きく異なっていることがわかる。
 これらの結果から隣接鉄原子間のスピン配列について考えると電荷不均化反応が生じない試料においては反強磁性であるのに対して、電荷不均化反応が生じる試料においては強磁性的であることが考えられる(図3)。eg電子が他方の鉄サイトに飛び移る際にフント結合を考慮するとスピン配列は強磁性的である方が有利であると考えられる(二重交換相互作用)。そのため、電荷不均化反応はこのような強磁性的なスピン配列を好むと予想される。


3.まとめ

以上の結果について簡単にまとめる。

 電荷不均化反応はeg軌道内のエネルギーギャップが増大することを嫌う傾向にある。

 電荷不均化反応が生じるためには他方の鉄サイトに飛び移ったeg電子が局在しなければならない。そのため、原子間の結合角を歪ませる等によって(すなわち、鉄の3d軌道と酸素の2p軌道の共有結合性を弱めることによって)eg電子が局在し易い状況を形成していると考えられる。



<参考文献>

[1] M. Takano, N. Nakanishi, Y. Takeda, S. Naka and T. Takada: Mater. Res. Bull. 12 (1977) 923.
[2] P. Adler: J. Solid State Chem. 130 (1997) 129.
[3] P.K. Gallagher, J.B. MacChesney and D.N.E. Buchanan: J. Chem. Phys. 41 (1964) 2429.
[4] P. Adler: J. Solid State Chem. 108 (1994) 275., application/pdf, 総研大甲第507号}, title = {鉄酸化物の電荷不均化反応と秩序構造}, year = {} }