@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000660, author = {狩野, 武志 and カリノ, タケシ and KARINO, Takeshi}, month = {2016-02-17}, note = {毛や角を構成するケラチンは、アミノ酸組成および電荷の異なる酸性ケラチンTypeI と塩基性ケラチンTypeII があり、それらが対になって二重らせん(コイルドコイノ)構造を形成する。さらに、それらが高次構造をとり、繊維状に会合したものが毛や角の微細構造であるミクロフィブリルと考えられている。コイルドコイル構造は、ケラチンとαへリックスのX線回折像の比較および詳細な解析により類推された最も妥当なモデルとして提案されたものである。
 これまでの電子顕微鏡を用いた観察では、数ミクロンの長さをもち、繊維状に会合したケラチン蛋白質が観察されている。しかし、測定条件は、pHや塩濃度の高い条件であるため、生体条件とは大きく異なり、さらに、固体および乾燥状態でのケラチンの会合体の観察になる。それに対し、生体条件に近く、かつ、水溶液中でのケラチン蛋白質の構造や会合状態についての研究例はない。また、TypeI とTypeII との間の静電相互作用や疎水性相互作用から、両者を混合することによりコイルドコイル構造を形成し、TypeI 同士もしくはTypeII 同士ではコイルドコイルを形成しないと予測されている。そこで本研究では、遺伝子工学を用いてTypeI およびTypeII ケラチンをそれぞれ合成し、小角中性子散乱測定を行い、水溶液中におけるケラチン蛋白質の会合状態の研究を行った。
 ケラチンは、システイン残基を多く含有している。システイン残基の置換基であるSH基は、非常に反応性が高く、水溶液中では、システイン残基同士による5結合が形成される。また、毛や角が非常に強い機械的性質を有するのは、分子間SS結合形成によるためである。したがって、毛は水に溶解しない。合成したケラチン蛋白質は、水に可溶化するために、システイン残基を、Sカルボキシメチルアラニルジスルフィド化した。
 水溶液中におけるケラチンの会合体形成を解明するために、小角中性子散乱法を用いた。小角散乱測定は,
(a)ケラチン蛋白質の持つ電荷の変化による効果を議論するためにpH7および6.2の水溶液について、また、
(b)ケラチン蛋白質問に働く静電相互作用の効果を議論するためにpH7の水溶液に50mMNNaCLを添加したものの3つの条件に対して、TypeI 、TypeII およびTypeI とTypeII との等モル混合物について行った。
 散乱曲線の両対数プロットを行ったところ、散乱ベクトルの大きさqに対して散乱強度がq-1乗に比例する領域が観測された。これは棒状粒子の散乱に特徴的なq依存性である。また、小角領域では、散乱強度の増大が見られた。このことは、水溶液中に存在するケラチンは、剛体棒としてではなく、屈曲性を有する棒状粒子として存在することを示唆している。屈曲性の効果としてデバイ関数を用いて、円柱の散乱関数と組み合わせたモデル関数を用いて、得られた散乱曲線のフィッティングを行った。フィッティングの結果、実際の散乱曲線と理論散乱曲線はほぼ一致し、水溶液中におけるケラチンの構造を説明するモデルであることが示された。しかし、TypeI またはTypeII 単独では、中角領域(q>0.07Å)では、モデル関数よりも実際の散乱曲線の強度が高い領域が存在した。これは、2種類あるいは3種類の太さを持った円柱の存在、もしくは、円柱の横断面が楕円体になっていることを示唆している。
 小角散乱理論により、棒状粒子の横断面の半径を見積もる手法として、横断面プロットがよく用いられる。横断面プロットから、TypeI またはTypeII 単独時では、横断面の異なる粒子が存在することを示唆する結果となった。それに対し、等モル混合物では一種類の横断面を有する粒子の存在が示唆された。また、得られた横断面の半径は、試料に限らず20~30人であったことから、コイルドコイルの半径(約10人程度)と比較すると、ケラチンは、水溶液中では、会合体を形成していることが判明した。TypeI またはTypeII 単独時でも、これまで予想されていたような1分子として溶液中に分散するのはではなく、会合体を形成していることが初めて実験的に明らかになった。
 小角散乱曲線の広角領域(q>0.1Å)では、水溶液中で会合したケラチンの内部構造に由来するq領域に散乱強度の増加が観測された。ガウス関数を用いて散乱強度を計算し、会合体の構造について、前述のモデル関数で得られた会合体の横断面の半径を考慮し、会合体の構造について検討した。半径10Åを持つコイルドコイル4本が正方配置で並んでいる時の相関距離から計算した散乱曲線のq依存性を、等モル混合した試料に対して適用して会合形態について考察した結果、コイルドコイルを形成した二量体を単位として、4本集合したものであり、規則性の高いことが示唆された。これ以外のモデルを構築し検討したが、散乱曲線のq依存性は説明できなかった。それに対し、TypeI またはTypeII 単独時では、等モル混合時のようなモデルではなく、1本のケラチンが4または12量体の会合体を形成し、集合体の配置に規則性が低いことが示唆された。
 これらの結果から、ケラチンの会合について次のようなことが明らかになった。等モル混合時では,TypeI とTypeII とが対になってコイルドコイルを形成した二量体を単位として4本集合する。TypeI またはTypeII 単独時でも、会合体を形成するが、混合時に見られるようなコイルドコイルは形成しない。TypeI またはTypeII 単独時での会合体形成の駆動力は、静電相互作用によるものと考えられ、電荷を打ち消し合うような会合体を形成することから、会合体の半径は一つには決まらず、会合体は比較的揺らぎを有する。等モル混合では、TypeI またはTypeII 単独時と同様に、TypeI またはTypeII 同士の会合体を形成するが、TypeI とTypeII との二量体形成がより安定であるので、TypeI とTypeII との二量体が主成分となり会合体は安定化する。本研究は、ケラチン蛋白質の高次構造形成における会合の初期状態を理解する上で新しい知見を与えるものである。, 総研大甲第650号}, title = {小角散乱法によるケラチン蛋白質の会合状態の研究}, year = {} }