@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000663, author = {清倉, 孝規 and キヨクラ, タカノリ and KIYOKURA, Takanori}, month = {2016-02-17}, note = {近年、高効率なレーザへの応用等が期待されて数十nmサイズの量子ナノ構造が精力的に研究されている。量子ナノ構造の製作において、バンドギャップの異なる化合物半導体の接合を形成するヘテロ接合技術は重要な基礎技術である。このへテロ接合界面の微小な領域における元素の相互拡散や、化学結合状態、電子状態、構造欠陥等の情報は、デバイスとしての電気的特性や光学的特性を左右するため非常に重要である。これらの情報を製作技術にフィードバックすることにより製作技術の進展に利することは明らかであり、物性解明にも役立つため、これらの情報を得ることは技術的にも学術的にも意義は大きい。そのため、ヘテロ接合界面の微小領域における情報を詳細に得られる分析手段が要求されている。
 固体材料における微小領域の分析手段としては、ビームを細く絞ることができる電子をプローブとしたマイクロオージェ電子分光法がよく利用されており、元素分析や組成分析に威力を発揮している。しかし、試料に対するダメージが大きい上にエネルギー分解能の向上が難しく、化学結合状態や電子状態の詳細な分析は困難である。一方、光電子分光法は、化学結合状態や電子状態の研究に最も適している。現状では、高空間分解能の光電子分光法には二種類あり、マクロサイズの励起光を試料に照射して放出された光電子を、電子顕微鏡的な電子光学系を経由させて試料表面の拡大像を得る方法と、光電子を励起するための軟X線をマイクロビーム化することによって空間分解能の向上を図る方法とがある。放出された光電子の拡大イメージを得る分析装置は、電子顕微鏡に比肩する空間分解能が得られるが、空間分解能とエネルギー分解能を同時に両立させることは困難である。また軟X線マイクロビームを用いる方法では、集光光学系において光子フラックスが急激に減少することから、高い光子フラックスが要求される高エネルギー分解能の測定は難しい。
 本論文は、以上のような背景を踏まえ、高い光子フラックスの軟X線マイクロビームを形成することによって高エネルギー分解能かつ高空間分解能で光電子分光装置を行う装置の開発研究に関するものであり、高輝度アンジュレータ放射光源と高エネルギー分解能軟X線回折格子分光器を用いて強くかつ狭バンド幅の軟X線を得て、さらに、高縮小比かつ高開口数のマイクロビーム形成光学系を用いて明るいマイクロビームを得ることによって、半導体へテロ接合臂開面に対して光電子分光分析を行ってその適用可能性を検証したものである。具体的には以下のように開発研究を進めた。
 はじめに、光電子分光実験に使用することを目的として偏向電磁石光源(エミッタンス=36nm rad)において定偏角不等間隔回折格子分光器を用いたビームラインの光学設計を行った。光学収差を最小にしスリット上でのスループットを最大にするために光学素子を一対一に配置するように設計した。設計値では、20eVから240eVのエネルギー領域において分解能10 -4(=〓E/E)の条件のもとで、試料面上で毎秒10 10~10 11個の光子フラックスが得られた。また、全エネルギー領域において、垂直方向の半値全幅0.05mm以下、水平方向の半値全幅0.18mm以下のビームサイズが得られた。以上の光学的検討により、高エネルギー分解能光電子分光に使用可能なビームラインを設計製作可能であることが明らかとなった。
 光学素子及び装置の設計製作後、製作された光学素子の曲率の実測値に基づいて、再計算を行って光学素子の配置を補正し、光学素子の製作誤差による影響を抑えた。偏向電磁石光源ビームラインBLICに分光器を設置後、東大の小野らによって分光器の性能評価実験が行われ、ビームラインエンドにおける光子フラックスは分解能10-3(=〓E/E)で10 12個/秒以上、分解能10-4(=〓E/E)で10 9個/秒であった。この分光器は期待された設計目標に達していることがねがった。
 次に、高エネルギー分解能のマイクロビーム光電子分光実験に用いることを目的として高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー(第二世代放射光リング、エミッタンス=130nm rad)のアンジュレータビームラインBL16Bにおいて、軟X線分光器の後置集光鏡設計を行った。設計においては、後置集光鏡の前段にある分光器光学系と、後置集光鏡の後段に設置される縮小光学系との適合を最優先して設計を行った。具体的には(1)低収差で集光するためにビームの垂直成分と水平成分をそれぞれ独立に集光するKirkpatrick-Baez方式を採用し、(2)出口スリットからの光とマイクロビーム光学系との発散角が適合する鏡配置をとった。(3)設計にあたって光のエネルギーとともに変化するスリット位置に対して柔軟に対応できるように曲率可変の円筒鏡を採用した。ビームラインの建設後、KEK-PFの繁政らによって光子フラックスおよび偏光度測定と、窒素および希ガスを用いた分解能評価が行われ、ほぼ期待通りの性能を確認した。
 さらに、軟X線マイクロビームによる光電子分光実験を行うために、オリンパス光学の池滝らにより開発された高縮小比(224倍)かつ高開口数(0.235)のシュバルツシルト型縮小光学系を装備したマイクロビーム光電子分光装置の開発を行った。設計・製作したマイクロビーム光電子分光装置においては、ビームラインへの設置後限られたマシンタイムにおいて可能な限り速やかに立ち上げることを最優先した。そのためにアンジュレータ放射光ビームラインと縮小光学系とのマッチングをとるような光軸調整機構を備え、かつ試料のエッジをナイフエッジとして用いて、マイクロビームを横断するようにナイフエッジを移動させながら透過光強度の変化(ナイフエッジカーブ)を測定して、透過光強度が急激に変化する位置を追求することにより焦点探索を行い、試料の測定対象部分をマイクロビームの焦点にあわせる機構を備えている。性能評価実験として、シュパルツシルト型縮小光学系のスループット評価、ビームサイズ評価、エネルギー分解能評価を行った。その結果、シュバルツシルト型縮小光学系の中心波長と集光可能な波長バンド幅およびスループットが正確に測定された。また、ビームサイズ評価では、直径10μmのピンホールを用いた場合に、ナイフエッジカーブの25%-75%幅として0.16μmの値が得られた。さらに軟X線ビームを用いてフェルミ端の光電子スペクトルを測定し、分光器と電子エネルギー分析器の分解能を合わせた装置分解能は0.05eVと見積られた。エミッタンスの大きな第二世代放射光リングを光源としているにも関わらず、第三世代放射光リングにおけるマイクロビーム光電子分光装置に比肩する性能が得られた。
 開発された軟X線マイクロビーム光電子分光装置において0.6μm径のマイクロビームを用いて、有機分子気相成長法で成長させた半導体ダブルへテロ構造(InP(50nm thick)/In0.53Ga0.47As(2.3μm thick)/InP substrate)の臂開断面を観測した。内殻準位の測定により、2.3μm幅のへテロ構造が識別可能であることが示された。さらに、表面を長時間照射した場合のスペクトルの変化を調べ,軟X線への長時間暴露により表面に化学反応を誘起する照射効果があることが判った。
 以上のように、本軟X線マイクロビーム光電子分光装置が微小領域の化学結合状態および電子状態を調べる有力な手段であることが示された。これらの性能は、本装置を適用することにより、ヘテロ接合の電子状態及び化学結合状態の解明に寄与できることを期待させる。, 総研大乙第114号}, title = {軟X線マイクロビームによる光電子分光法の開発研究}, year = {} }