@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000684, author = {工藤, 統吾 and クドウ, トウゴ and KUDO, Togo}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {SPring-8(Super Photon ring 8GeV)は第3世代シンクロトロン放射光施設であり、アンジュレータを主体とする光源専用リング型加速器として建設された。アンジュレータはX線管に比較して106倍以上の輝度を持ち、生命科学、物質科学、地球科学、環境科学といった学術研究をはじめ、ナノテクノロジー研究開発や産業利用などの様々な分野に利用される。
 Spring-8標準型真空封止アンジュレータの場合、1次光エネルギーE=12.4keVでの実効的な光源サイズ及び角度発散は、水平方向Σxo=280μm、Σxo'=13μrad、垂直方向Σyo=7μm、Σyo'=3.5μradと小さなものとなる。この光源サイズと発散角のため、光源から約50メートル下流の実験ステーションでのビームスポットサイズもΣx=630μm、Σy=180μmと小さなものになる。試料点におけるビームプロファイルは特に垂直方向に鋭いピークを持つため、ビーム位置の垂直方向の変動はスリットを抜けるビーム強度を有意に変動させる。例えば試料前に置かれた開口100μm×100μmのスリット中心からビーム位置が垂直方向に100μm移動すると試料に届くビーム強度は約15%減少する。ビーム位置変動による強度のロスは光源で発生した光子フラックスを未利用のまま無駄に捨てることであり、高輝度光源はその意味を失う。即ちビーム位置安定化はビームスポットサイズの小さな第三世代放射光の重要な技術的課題となる。この100μmスリットによるビーム整形では、垂直方向ビーム位置変動を10μm以下に抑制すれば、ビーム強度変動は0.1%となり、SPring-8のTop-up運転で維持される蓄積リング電流値の変動幅と同程度に安定となる。一方、ビーム位置の安定度を重視する蛍光分光XAFS、微小角入射を用いる種々の研究などの分野で求められる具体的なビーム位置安定度も概ね変動幅10μm以下とされる。つまり第三世代放射光利用を「使い切ってゆく」上では、試料点でのビーム位置変動を10μm以下に抑制しビーム強度のロスを最小限にすることが重要な課題である。現実的にはビームラインにおいて試料点でのビーム位置は100μm近い変動が観測される場合がある。本研究では、光源、スリット、分光器を設定したモデルビームラインにおいて、光線追跡と、ビーム位置・強度の実測データなどを併用して、試料点でのビーム位置、強度及びエネルギーを不安定化する要素につき解析を行い、これをもとにビーム安定化のための制御システムの構築を行う。
 ビーム不安定性要素として着目したのは、①蓄積リング電子軌導の光源点における角度変動、②ビームによる直接熱負荷が引き起こす分光結晶の熱変形、③間接熱負荷その他による分光結晶の角度変動、の3つである。①の電子軌道の角度変動は、SPring-8では光源から50m下流の試料点において最大~10μmのビーム位置変動を与えるが、ビーム強度やエネルギーに与える影響は無視できる。②の分光結晶の熱変形は液体窒素冷却などにより結晶熱負荷対策が十分に施されている場合は小さく抑制される。またビーム導入後温度平衡に達して温度変化が1K程度に維持される条件ではビーム位置、強度及びエネルギー時間変動は微小となる。③の分光結晶の角度変動は、冷却配管の圧力変動、間接熱負荷、分光器の駆動に伴う荷重の変動その他により引き起こされ、総合すると~5μradの角度変動となり得る。特にブラッグの条件を変化させる向きの角度変動はE=12.4keV(Si 111)では試料点で~100μmのビーム位置変動、~10%のビーム強度変動、~0.6eVのビーム位置変動を引き起こし得る。以上のことによりビーム位置、強度及びエネルギー変動の主原因は、分光結晶の角度変動であると結論された。この場合ビーム位置、強度の変動は二結晶の平行配置からのずれ角を通じて互いに相関があると予想される。この事に基づき、ビーム強度もしくはビーム位置を制御量として、このどちらかを一定にするようにフィードバック制御で分光結晶角度を調整することでビーム位置、強度及びエネルギーがすべて安定化すると考えた。但しこの方法での安定化は、分光器へのビーム導入直後は②の結晶熱変形が大きいため成立しない。結晶が熱平衡にあることを条件とする。
 以上のことを検証するために、試料点におけるビーム強度とビーム位置時間変動の実測データを用い相関解析を行った。その結果これらに明らかな相関があることを見出した。これによりビーム位置、強度及びエネルギー変動の主原因が、分光結晶の角度変動であることを確認した。次にビーム位置を制御量とし、分光第一結晶を動作点とするフィードバックシステムを構成して、ビーム位置変動をσ~0.1μmに抑制し、ビーム強度は変動幅σ~10-3で回折強度の極大に安定化することに成功した。さらにビーム強度を制御量とするフィードバックの試験も行った。ビーム強度フィードバックの成績とビーム位置フィードバックの成績、及びビームラインフロントエンド部XBPMのデータを比較することで、従来不明であった光源の変動が試料点ビームに与える影響に関する情報を得た。このことを通じビーム不安定性に対する、光源と分光器の寄与を分離して論じることができるようになった。つまり、ここで開発したビーム安定化のための分光器フィードバックは各種ビーム位置モニターの情報と照らし合わせることで、新しい光源の安定度の診断系としての応用することができることがわかった。この診断からの考察で、ビーム位置フィードバックは分光結晶の角度変動だけでなく光源に起因するビーム位置変動も含めて補正していることが分かった。しかし、その補正角度は結晶分光器の回折角度幅よりも十分に小さい。この補正で生じるビームエネルギー変動はSi 111分光結晶の出射ビームエネルギーE=10 keV程度の条件では~10-3eVと極めて少ないことが分かった。従ってビーム位置フィードバックはビーム位置・強度・エネルギー全てを実用上問題ない程度に安定化することが示された。
 このシステムを実用化するために、サブミクロンオーダの位置分解能を持つXBPMを開発した。またビーム位置演算機能を有するDSP搭載型フィードバック調節器を開発した。またシステムの実用化を念頭に制御パラメータの自動調整法を考案した。以上により開発されたビーム安定化システムは多数のSPring-8ビームラインで用いられ、その実用性が証明された。更に結晶の平行配置を維持するためにビーム位置モニターを用いる方法以外に、位相敏感検出回路を用いる方法を開発した。本法は微小振幅で分光第一結晶のビーム入射角を周期的駆動しながら、結晶の配置の時間平均値を平行に維持するものである。微小角摂動による分光器のエネルギー分解能の低化は、ビーム発散角がアンジュレータに比較して大きい偏向電磁石ビームラインでは問題とならない。これにより本法は偏向電磁石ビームラインにおいて、特にエネルギースキャンの効率化を必要とするXAFS測定で実用され、測定時間の短縮と測定データの質的向上に貢献している。
 次世代光源XFELの様々な利用研究においては、微小領域計測と高密度光子利用の2つの観点から、高度なX線集光技術の確立が求められる。ここでは、ナノメートル領域でのX線集光を可能とする光学設計が必要である。波長の短いX線レーザーのための光学素子製作にあたっては、波長と同程度(ナノメートル以下)の精度での、形状制御や平坦性が確保されなければならず、製作技術の確立とともに評価技術の確立と評価結果に基づく形状修正技術の確立が求められている。更に、理想的な光学素子が完成したとしても、所定の性能を発揮するためには、高精度での位置・角度制御が必要となることが予想される。到達した微小集光ビームを実際の応用研究に利用していくためには、位置・角度制御のための調整機構に長時間安定性が求められ、その安定性を確保するためのフィードバックシステムの開発が必要となる。本研究で示し実用化したシステムと、その考え方は次世代光源の光学系を考えていく上で重要となるものである。, 総研大乙第184号}, title = {フィードバックシステムを用いた高輝度放射光X線ビームの精密制御の研究}, year = {} }