@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000794, author = {岡田, 格 and オカダ, イタル and OKADA, Itaru}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {全球規模の地球の熱収支は、低緯度側での収入と高緯度側での支出から成り立ち、そして、その収支を成立させている、大気および海洋による熱輸送が存在する。南大洋の、特に高緯度に位置する領域は海洋が大気に熱を与えるひとつの場所である。そこで季節的に拡張と後退を繰り返している海氷は大気海洋間の熱交換に大きな影響を与えるであろう。
 しかし、その影響については未だ良くわかっていない。その理由は海氷域での気象観測を定期的に行うことが非常に困難であること、そして、リモートセンシングについても氷の存在のために他の地域よりも困難であることである。これまでに、その熱交換量については、気候値を元にした見積もりがされた、また、断片的な現地観測もされているが、ほとんどの結果は海氷がない領域に限られている。一方、海氷が大気海洋間の熱交換量に与える影響を調べた幾つかの数値実験は、海氷が占める面積の割合とその影響は直線的な関係にないことを示している。それらの実験はいずれも季節の進行を考慮に入れていない。大気そのものに関しては、南半球の中高緯度帯は一年に二回低気圧活動が活発になる半年周期振動が良く知られている。さて、その領域において大気を加熱(冷却)する程度は、より高緯度側にある南極大陸上への大気による熱供給に直接関係し、その結果、大陸氷床の成長率を左右する、また、海洋からの熱放出量は海洋循環を通して気候変動に影響を与える可能性がある。そのような領域における大気の熱収支の季節変動を調べることは、気候変動を考える以前に重要な事項である。
 ところで気象観測資料を提供しているECMWF(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts)などにおける大気客観解析データの質は年々向上しており、観測点が希少な領域においても従来に比べると有効な内挿値を出力しつつある。また、ERBE( Earth Radiation Budget Experiment)による人工衛星からの放射収支観測が行われ、それ以前に比べて精度の良い短波放射、長波放射の値が得られている。そこで本研究ではそれらのデータを利用して、南半球海氷域における大気の熱収支の季節変化と海氷がそれに対してどのように影響を与えているかを明らかにしたい。
  対象とするのは南極大陸を帯状に取り巻く、南緯60度から南緯70度、大気上端から大気下端で囲まれた領域である。この領域では、衛星観測から得られた空間平均値として海氷が最大で60%を越える面積を占める。また、データ解析の期間は1985 年から1989年の5年間とする。対象領域で空間平均した一カ月平均値の、ECMWFの大気客観解析データによる熱貯留量の時間変化、および、大気による水平方向の熱流入出量が、また、ERBEデータによる大気上端での放射収支量が得られた。対象領域の熱収支を考えるとそれらの残差として、大気下端での熱交換量(大気海洋間の熱交換量)が得られる。
 その結果、大気下端での熱交換量の季節変化は、大気への流入を正とすると12月最小値の約-100W/m2、5月に最大値の約100W/m2を示し、冬に向かって比較的急速に増え、夏に向かって比較的ゆっくりと減少する曲線を描いた。そして、海氷がほとんど張り出さない南緯50度から南緯60度で囲まれた領域で同様に得られた量が5月~7月において平坦な高原型の最大を示すこととは対照的に、5月から7月にかけて、約30 W/m2減少している。ところで海氷の存在は、短波放射とそれ以外の要素では、大気下端の熱交換量に対する影響が逆なので、結果をよりわかりやすく解釈するために、比較的確からしさのある短波放射を見積もり、全体から差し引いた。その結果においてもやはり5月が最大である。雲量が年間を通して大きいこの領域では、長波放射の大きな変化は期待できない。残りの顕熱成分あるいは潜熱成分が5月の最大値を作り出していると考えられる。一方、海氷面積はその変化量を示すと、5月に増加率が最大となる。この一致は海氷による海面からの熱放出の抑制と大気海洋間の温度差から決められる海面からの熱放出量がバランスされた結果であると考えられる。つまり、地上気温が低いほど海洋からの顕熱放出が活発になるが、あまりに気温が低いと海氷が形成されるので、顕熱放出は抑制されてしまう。海氷面積の変化率から、5月は海氷になる直前の領域が 最も多い時期といえるので、大気下端の熱交換量は最大になったと考えられる。
 熱収支に関して海氷が多い場所と少ない場所の比較は、短波放射を除いた場合、海氷が多い場所の大気下端の熱交換量の最大は4月に、一方、少ない場所の最大は6、7月という結果になった。このことは、帯状平均で得られた大気下端の熱交換量と海氷面積の関係を支持している。ただし、領域全体を平均しないで特定の場所のみの値を取り出すと個々のばらつきが目立つ。
 水平方向の熱輸送については、南緯60度側からの流入が8月に最大になる、また、 南緯70度側からの流出は7月に最大であるが、5月~9月は南緯60度側の値に比べて変化が小さい。南緯70度側からの流出は対流圏下層での擾乱性の熱輸送が大きく影響を与えている。このことは大気下端からの熱供給を示唆しており、上記の大気下端での熱交換に関する推測を支持するものである。
 本研究では気象観測資料と衛星からの放射収支観測をもとに、南極大陸を取り囲む海氷域での大気の熱収支を見積もった。その結果、季節の進行に伴う大気の熱収支の変化に対して、海氷の存在が与える影響が明らかになった。, application/pdf, 総研大甲第232号}, title = {南半球海氷域における大気の熱収支の季節変動}, year = {} }