@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000805, author = {一井, 太郎 and イチイ, タロウ and ICHII, Taro}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {研究の目的
ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)は、一次生産の高い夏季には植物食性が強く、ヒゲクジラ類、アザラシ類、海鳥類など多くの動物の主要な餌生物となっており、南極海生態系の鍵種である。よって、夏季における本種の分布と豊度は、一次生産分布を反映し、高次捕食者へのエネルギー流を決定すると考えられる。本研究は、海洋物理環境、一次生産、低次生産(オキアミ・ハダカイワシ)および高次捕食者の時空間的なパターンをメソ(数10~数100km)およびマイクロ(数~数10km)スケールで調べることにより、「オキアミ分布は一次生産が決定し、高次捕食者は採餌効率のよい海域で採餌する」という海洋生態学での重要な仮説を検証し、さらに食物連鎖を流れるエネルギー量を推定することを目的とした。本研究は、オキアミ漁場が形成され、南極海洋生物資源保存委員会のモニタリング計画の対象海域ともなっている、南極半島のサウスシェトランド諸島海域で行われた。

メソスケールのオキアミ分布パターンとその決定要因
本諸島域におけるメソスケールのオキアミ分布を、海洋構造および植物プランクトンとの関係で調べ、オキアミ分布の決定要因を明らかにするために、1990/91年の12月(初夏)と1月(盛夏)に調査を行った。オキアミ分布については計量魚探を用いて調べ、ネット採集した個体から体長や成熟度を調べた。海洋環境については、物理環境として塩分・流動を調べ、一次生産としてクロロフィルa濃度・珪藻類分布を調べた。
オキアミは、特に1月になると沿岸域(131g/m2)および斜面フロント域(36g/m2)に集中した。さらに、沿岸域のオキアミは小・中型の未成熟個体で占められ、沖合および斜面フロント域のオキアミは大型の成熟個体で占められていた。沿岸域には外洋流と逆向きの緩慢な流れ(反流)が生じており、斜面域には外洋流と沿岸反流によるシアーが生じていたことから、物理的な滞留・集積作用がオキアミをこれらの海域に集めた要因の1つであることが示唆された。また、これらの海域では珪藻類が12月から1月にかけて増加し、オキアミ高密度形成に珪藻類の現存量も密接に関係していることが示唆された。さらに成熟個体が分布したフロント域は、水塊・流動構造が卵や幼生の生存や輸送に有利と考えられ、産卵場として適した環境にあることが分かった。
以上、滞留・集積作用があり一次生産力も高い斜面フロント域や沿岸域に、オキアミ高密度域が形成されると考えられた。また、集積作用が最も大きい沿岸域には遊泳力の弱い未成熟個体が、産卵に適したフロント域には遊泳力の強い成熟個体が集まると考えられた。

メソ-マイクロスケールのオキアミ・ハダカイワシ類の分布パターンオキアミおよびハダカイワシ類の分布パターンをより詳しく把握し、これらの捕食者であるナンキョクオットセイやアゴヒゲペンギンの採餌域と関連づけるために、これら餌生物の分布をメソ-マイクロスケールで調べた。調査は、本諸島のシール島海域で、1990/91年および1994/95年の12月と1月に実施し、海洋環境は表面海水連続モニタリングシステムを用いて水温、塩分、クロロフィルa濃度を観測した。餌分布は2周波を用いた計量魚探調査とネット採集およびトロール曳網により調べた。
オキアミ分布パターンは、12月には不安定であったが、クロロフィルa濃度の高い沿岸域や斜面域および外洋域のフロントや氷山付近に多く分布する傾向を示した。1月になると、オキアミ分布パターンは安定するようになり、クロロフィルa濃度の高い沿岸域および斜面域のうち、沿岸域で最も高密に分布し、クロロフィルa濃度の低くなった外洋域で低密度に分布した。また沿岸域では夜間表層に浮上する日周鉛直移動を行うようになった。ハダカイワシ類は、12月には外洋フロント以北の海域のみに分布したが、1月になると斜面フロント域付近に高密度に分布し、夜間表層に浮上する日周鉛直移動を行うようになった。
以上、オキアミおよびハダカイワシ類は、12月から1月にかけて水平・垂直分布に顕著な時期変化を示し、特にオキアミ分布は植物プランクトン分布にある程度規定されていることが明らかになった。

ナンキョクオットセイおよびアゴヒゲペンギンの採餌域とその決定要因
オキアミやハダカイワシ類の分布にオットセイとペンギンの採餌域形成がどのように対応しているのかを調べ、これら高次捕食者が採餌効率のよい海域で採餌している可能性を検討した。なお、オットセイは餌を体脂肪に変換して蓄え、それを母乳にして幼獣に与えるので、遠出することにより授乳量を多くできる。一方、ペンギンは餌を胃に入れて持ち帰り、その量は胃容積に制限されるので、遠出しても給餌量を多くできない。調査は前述のメソ-マイクロスケールの調査時に行い、捕食者を電波テレメトリーを用いて追跡し、捕食者の採餌域を特定した。さらに捕食者の胃内容物や糞からは餌生物を特定した。オットセイは、12月には外洋フロント付近まで採餌に出掛け、オキアミ成熟雌やハダカイワシ類を採餌し、1月になると斜面域でオキアミ成熟雌やハダカイワシ類を採餌した。
これらの餌生物は、沿岸に分布するオキアミ未成熟個体に比べて、カロリー含量が高く、より好適な餌であろうと考えられた。ペンギンは、12月(抱卵期)には、外洋域まで出かけ、オキアミ付きの氷山を採餌および休息の場として利用しており、省エネ型の効率的な採餌を行った。1月(育雛期)になると、夜間は斜面域まで出かけハダカイワシ類やオキアミを採餌し、昼間は沿岸域でオキアミを採餌した。表層における餌密度を斜面域と沿岸域とで比較したところ、昼夜とも斜面域の方が高く、特に夜間は顕著に高かった。従って、遠出するほど給餌率が低下する育雛期のペンギンにとっても、夜間は繁殖地から遠い斜面域で採餌する利点があったと考えられた。以上、高次捕食者の採餌域の選択は、各海域における昼夜別の表層での餌密度の違いで説明することができた。

食物連鎖を流れるエネルギー量
最後に、食物連鎖を流れるエネルギー量(cal/m2/日)を1994/95年1月のデータに基づき試算した。オキアミの消費エネルギー量は、沿岸域で3200(一次生産の30%)、斜面域で1050 (10%)となった。ハダカイワシ類の消費エネルギー量は、斜面域で700となり、同海域のオキアミに匹敵し、ハダカイワシ類の餌となる動物プランクトン現存量の大きいことが示唆された。高次捕食者の消費エネルギー量は、沿岸域ではオキアミから72を、斜面域ではオキアミおよびハダカイワシ類からそれぞれ9ずつ摂取すると推定された。以上、斜面域ではハダカイワシ類の存在により食物網が沿岸域に比べ複雑になっていることが明らかになった。, 総研大乙第63号}, title = {夏季のサウスシェトランド諸島海域における海洋環境、, 餌生物(ナンキョクオキアミ・ハダカイワシ類)および, 高次捕食者の時空間分布パターンに関する研究}, year = {} }