@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000807, author = {鈴木, 里子 and スズキ, サトコ and SUZUKI, Satoko}, month = {2016-02-17}, note = {東南極エンダービーランド地域北東部に分布するナピア岩体は、堆積岩起源、酸性火成岩起源、塩基性火山岩(貫入岩)起源を原岩とするグラニュライト相の変成岩体である。特に、原岩形成年代としては世界最古に属する年代値(約38億年前)が報告されており、また、太古代中期~原生代初期にかけて一部は1000℃を越える超高温変成作用を受けた地質帯でもある。更に、一部地域では、得られた同位体データより、38~35億年前の原岩形成年代と、30~29億年前(第一の変形・変成時期:D1 - M1)、29~28億年前(D2 - M2)、25~24億年前(D3 - M3)の岩体の形成発達史が提唱されている。これらのことから、ナピア岩体は地球史初期における地殻の形成、そして進化の過程を研究する上で極めて適した地域であるといえる。しかし、ナピア岩体に関する研究例は今だ不十分であり、特に、岩相ごとの地質年代、つまり原岩形成年代に着目した同位体年代の研究例は少なく、また、詳細な野外調査と微量元素・同位体元素を含めた全岩化学組成分析、地質年代測定の結果を総合的に検討した研究も少ない。本論は、ナピア岩体西部のリーセル・ラルセン山地域について、構成される変成岩類の原岩とそれらの原岩の形成年代・変成年代を明らかにすることにより、ナピア岩体の形成と進化のプロセスを検証することを目的としている。
 本研究ではまず、各岩相ごとの野外での産状と、微量元素・同位体元素を含めた全岩化学組成の結果から、それぞれの原岩とその地質学的関係を検討した。
 リーセル・ラルセン山地域は南北6km、東西12kmの露岩地域であり、その地質は岩相の違いによる縞状構造が顕著に発達する中央部から北西部(Layered gneiss series)と、比較的塊状で岩相は主にorthopyroxene(Opx)felsic gneissで構成される南東部(Massive gneiss series)に分けられる。両者の境界は、Layered gneiss seriesの岩相境界面や片理面にほぼ等しい走向で、緩やかな南~南西傾斜を示し、見掛け上Massive gneiss seriesがLayered gneiss seriesの上位に位置している。Massive gneiss seriesを主に構成するOpx felsic gneissは、その全岩化学組成から、原岩としては太古代地質帯に広く産出するトーナライト(TTG:tonalite - trondhjemite - granodiorite)に類似する。また、Opx felsic gneissはしばしば変成塩基性岩(mafic gneiss)や変成超塩基性岩(meta - ultramafic rocks)のブロックやシートを包有する。それらのうち、meta - ultramafic roksにはフロゴパイトの有無により2つのタイプが識別できる。野外での産状からは原岩の推定は必ずしも十分に行なえなかったが、その全岩化学組成の特徴から、フロゴパイトを含む岩相と含まない岩相の原岩は、それぞれ太古代地質帯に特徴的に産出するコマチアイトとそれを晶出した溶け残りマントル物質(溶け残りカンラン岩)であることが推定された。一方、Layered gneiss seriesにはザクロ石を含む岩相が卓越しており、それらは構成鉱物とモードの違いにより、garnet felsic gneiss、garnet gneissおよびgarnet - sillimanite gneissに大きく分けられる。これらの全岩化学組成は、それぞれgranitic、psammiticおよびpeliticな特徴を示し、そのことから、それぞれの原岩は花崗岩、砂質岩、泥質岩であることが推測される。後者の2タイプが堆積岩起源であることは、両者がしばしば野外で互層すること、堆積岩起源と考えられている変成縞状鉄鉱床が時にgarnet - sillimanite gneissと密接に関連して産出することからも示唆される。また、Layered gneiss seriesにはこれらのザクロ石を含む岩相の岩相境界面に対して緩く斜交するように(貫人岩状に)mafic gneissが産出する。mafic gneissは石英の有無により2つのタイプに分類される。両者の全岩化学組成はいずれもソレアイト質玄武岩の特徴を示すが、石英を含む岩相は石英を含まないものより、より液相濃集元素に富む特徴を示す。現生におけるMORB(Mid - Ocean Ridge Basalt)組成と比較すると、前者は液相濃集元素にやや枯渇したN - MORB、後者はE - MORBに類似している。
 次に、それぞれの岩相の原岩形成年代と最終的に被った変成作用の年代について考察を行なった。手法は、Sm - Nd全岩同位体分析、Sm - Nd鉱物同位体分析とU - Pbジルコン分析(CHIME(Chemical Th - U - total Pb isochron method)法、SHRIMP(Sensitive high - resolution ion microprobe)法)である。
 それぞれの岩石種から得られた年代測定の結果から、火成岩起源の原岩形成年代(マグマ形成・定置年代)は30~26億年前の範囲内であることが明らかになり、それより古い原岩形成年代は得られなかった。またそれらのεNd値がマイナスであった。このことは、これらの岩石がdepleted mantleではなく、enriched mantleに由来することを意味する。一方、Layered gneiss seriesを構成する堆積岩類は、そのSm - Nd同位体組成の特徴より、Massive gneiss seriesの火成岩類を母岩とし、さらにその火成岩類の形成とその後の削剥、堆積、埋没作用が比較的短期間(同位体測定値の誤差の範囲内:2億年前後以内)で生じたと考えられる。また、その後被った最終熱変成作用の年代は、調査地域すべての変成岩類で25~23億年前であることが明らかになった。これらのことから、それぞれの原岩の形成後、25~23億年前の変成作用、その後の上昇など、Layered gneiss seriesとMassive gneiss seriesが同様の発達史をたどった可能性が示唆される。一方、25~23億年前の年代値は、900℃以上の閉止温度を持つジルコンについての年代測定(U - Pbジルコン年代)によっても得られている。よって、この熟変成作用は超高温変成作用であったといえる。
 リーセル・ラルセン山地域の変成岩類の最終変成作用の年代値は従来の研究のD3 - M3イベントに一致しているが、一方、原岩形成年代は従来の研究のD1 - M1ならびにD2 - M2の変成イベントと一致しており、原岩形成年代としてはより若いことが明らかになった。これまで、ナピア岩体から報告されてきた約38億年前の年代値は、近接する2地点、Mt.Sones、Gage Ridgcに分布するorthogneissとparagneissのSHRIMPによるジルコン年代のみである。一方、30億年前後の年代値は、D1 - M1あるいはD2 - M2時期の変成年代と解釈されている場合もあるが、本調査地域を含めて多くのナピア岩体内の地域から報告されている。従って、38億年前という原岩形成年代はナピア岩体の極く一部の地域だけを示すものであり、ナピア岩体を構成する多くの変成岩類の原岩が、約30億年前に形成された可能性も考えられる。また、25億年~23億年前の変成イベントはナピア岩体全域で報告されており、ナピア岩体全域が超高温変成作用を被るという、同様の変成史をたどったことが推定される。, 総研大甲第461号}, title = {Geochemistry and geochronology of ultra-high temperature metamorphic rocks from the Mt.Riiser-Larsen areain the Archaean Napier Complex,East Antarctica}, year = {} }