@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000812, author = {山本, 麻希 and ヤマモト, マキ and YAMAMOTO, Maki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {カワウ(Phalacrocorax carbo)は保温性の低い羽毛を有するにもかかわらず、極域から熱帯域まで広く分布している。このように幅広い温度域で生息可能なカワウの体温調節は興味深い。また、カワウは水と空気という物理的性質の異なる媒体中で行動することができるが、飛翔、潜水行動に伴って心拍数を著しく変化させなければならない。そのためには特殊な循環調節機構を有していると考えられる。循環機能や体温調節は自律神経活動によって制御されていることから、カワウの自律神経活動は比較生理学的な観点からとても興味深い対象である。本研究は、これまで咄乳類で確立されてきた心拍間隔変動の周波数解析を用いた自律神機能評価法を応用し、カワウの循環機能の調節に自律神経系が果たす役割を明らかにすることを目的とした。
 これまで無拘束の海鳥の心電波形を計測することは、筋電位のノイズの混入、動物による電極の剥奪などから非常に困難とされてきた。そこで、まず無拘束のカワウで簡便に心電波形を計測する方法を確立した。ゲル状円盤形の板電極を胸骨の中央上部と中央下部の皮膚に生体接着剤で固定し、電位ノイズが少ない心電波形データを小型心電波形記録計(ECG ロガー)に集録することができた。カワウの心電波形を用いて心拍変動の周波数解析を行った結果、0.02 - 0.07Hzの低周波領域(LF)と0.07Hz以上の高周波領域(HF)に2つの周波数のピークがあるパワースペクトル図が得られた。咄乳類ではHFの面積を副交感神経活動の定量的指標として、また、LFとHFの面積比を交感神経活動の相対的なバランスの指標とする手法が確立されている。しかし、このような自律神経活動を推定する手法は未だ鳥類に応用されていない。そこで、LF、HFが交感・副交感神経活動を反映して表れたものかを検証するため、交感・副文感神経遮断薬を投与する前後のLF、HFの変化を調べた。交感神経の遮断薬としてプロプラノロール、副文感神経の遮断薬としてアトロピンを翼下静脈より投与し、投与前と投与後の心電波形を連続的に計測した。その結果、副交感神経を遮断した際はLF、HFが共に減少し、交感神経を遮断した際はLFだけが減少したことがら、LFは両自律神経活動を反映し、HFは副文感神経活動だけを反映していることが確認された。以上のことがら、カワウでも噛乳類と同様に心拍変動から自律神経活動を推定する手法が確立された。また、副文感神経の遮断は交感神経の遮断より心拍変動に与える影響が大きく、両方の神経を遮断して得られる固有心拍数は安静時心拍数より高かった。これらのことからカワウは安静時には副文感神経活動を優位に働かせることで、固有心拍数より心拍数を低く保っていることが明らかになった。
 続いて、カワウの自律神経系による循環機能調節機構を明らかにするため、(1)異なる環境温度条件においた際と(2)人為的ストレスを与えた際の自律神経活動と循環機能の変化について調べた。
  日本に分布するカワウが1年間に経験する環境温度として、5、15、25、35℃の4つを代表的な実験温度に設定した。心電波形の計測と同時に、体温調節に関わる熱産生の指標である酸素消費速度および放熱の指標となる熱コンダクタンスを計測した。その結果、低温では、HF、LF/HF比が共に低い値を示したことがら、交感・副文感神経活動はともに低く、熱産生が高く、放熱効果が低かった。一方、高温ではHF、LF/HF比が共に高い値を示したことがら、交感・副文感神経活動はともに高く、熱産生が低く、放熱効果が高かった。このように異なる環境温度下においてカワウは自律神経活動を同時に増減させることで熱産生と放熱を調節し、体温を一定に保っていることが明らかとなった。カワウは副文感神経活動の影響が來感神経活動の影響より大きいため、主に副文感神経活動の増減によって異なる環境温度に対し体温調節を行っていることが示唆された。
 人為的ストレスとして、カワウのそばにヒトが立つという処置とカワウをヒトが保定するという処置を設定した。実験は1時間の間隔をおいて10分間ずつ、カワウに各々の人為的ストレスを与えた。その結果、人為的ストレスを与えるとHFが急激に減少しLF/HF比が増加したことから、副文感神経活動が減少し交感神経活動が相対的に増加していることがねがった。これら二つの神経活動の変化は相乗的に働くため、人為的ストレスを与えると大きく心拍数が上昇した。
 カワウは、安静時には副文感神経活動が優位に働いていた。環境温度の変化に対しては、主に副文感神経活動の増減によって体温調節を行っていた。ストレスを与えられると副文感神経活動を下げ、交感神経活動を上げることによって、急激に心拍数を上昇させた。一般に心拍数と代謝速度には正の相関関係があることがら、このように安静時がら心拍数を大きく上昇させる能力は、代謝速度の高い上昇をもたらすと予想される。安静時からの高い代謝速度の上昇によって、カワウは羽ばたき飛翔や潜水後の代謝上昇などのエネルギーコストが高い運動を行うことができると考えられた。このようにカワウの副文感神経活動優位な循環機能調節機構は、広い分布域の獲得や飛翔、潜水行動への適応に役立っていると考えられた。, application/pdf, 総研大甲第524号}, title = {カワウの循環機能調節における自律神経系の役割に関する研究}, year = {} }