@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000813, author = {飯塚, 芳徳 and イイズカ, ヨシノリ and IIZUKA, Yoshinori}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {水蒸気・水・氷など様々な形態で存在する地表付近の水は地球規模で循環しており、地球上の生態系に多くの恩恵をもたらしている。水の固相である雪氷は地球規模の水循環を律則する要因の一つであるため、雪氷の循環過程を明らかにすることは重要である。地球上の雪氷の90%以上は南極大陸に氷床として存在する。南極氷床の循環過程は内陸に雪が積もり沿岸で融解・分離するという氷床の流動により行われる。南極氷床の流動機構の一つである底面すべりは、氷床底面における水の有無とその水の存在状態に依存するが、南極氷床底面のどこにどのように水が存在するかは未解明な部分が多い。
 本研究では、東南極宗谷流域の氷床底面状態の解明を目的とした。宗谷流域沿岸の中央部に位置するハムナ氷瀑地域の氷崖に露出している底面氷の形成過程を明らかにし、その形成過程から宗谷流域の氷床底面状態について考察した。底面氷とは氷床底面部に存在する固体粒子を含んだ氷を指す。

 ハムナ氷瀑地域の氷崖の最下部6.8mに固体粒子を含んだ底面氷(以後、ハムナ底面氷)が露出している。ハムナ底面氷とハムナ底面氷より氷崖の上部に位置する白色氷床氷(以後、ハムナ氷床氷)の酸素安定同位体比(δ18O値)は約-45‰であった。この値は宗谷流域沿岸の降雪の値に比べて低く、ハムナ底面氷やハムナ氷床氷が氷床上流の降雪を起源としていることを示す。ハムナ底面氷やハムナ氷床氷の d値(=δD-8×δ18O)は-2~8‰であり、約-45‰の積雪δ18O値をもつ宗谷流域上の地域のd値(15~20‰)と比較すると低い。氷期の降雪のd値は現在の降雪に比べて数‰低い値を取ることが氷床コアの結果から示されており、ハムナ底面氷やハムナ氷床氷は氷期の降雪を起源としていることが示唆される。氷期に約-45‰の降雪δ18O値をもつ地域は標高2200~2400mの地域に相当する。ハムナ底面氷に含まれている固体粒子はシルトや砂などで構成され、その濃度が最大4重量%に達するので氷床表面からの起源ではなく基盤を起源とする。つまり、厚さ6.8mのハムナ底面氷はかつて基盤と接触して固体粒子を取り込んだ履歴を持つ。ハムナ底面氷は基盤より1.3m高い地点を境にして気泡や固体粒子の存在形態が異なる。以後、基盤を基点に上向きに高さ1.3m~6.8mを底面氷上部、高さ0m~1.3mを底面氷下部と呼ぶ。

 底面氷上部は厚さ数mmから数10mmの透明氷層と気泡氷層が互層を成し、固体粒子が分散形態である。気泡氷層とハムナ氷床氷の安定同位体比はほぼ同じ値を示し、鉛直方向に一定である。他方、透明氷層の同位体比は鉛直方向に変動が観察され、隣接する気泡氷層に比べて透明氷層はδ18Oで2.4±1.0 ‰、δDで19±8 ‰高い値を持つ。これらの増加量は水が氷に相変化するときの理論的な分別量(δ18O =3.0 ‰;δD =18.7 ‰)とほぼ等しいので、透明氷層が宗谷流域底面において融解再凍結過程で形成されたことを示唆する。
透明氷層の厚さが数10mm以下であり、固体粒子が分散形態であるので、透明氷層は復氷 で形成されたと考えられる。透明氷層から隣接する気泡氷層へ減少している(一回の凍結過程を反映していると考えられる)同位体プロファイルのδD/δ18O比は8に近い値を示した。この結果は復氷が開放系であり、復氷形成地域に流入する水が存在することを示唆する。透明氷層中の塩化物イオン濃度は気泡氷層中の塩化物イオン濃度に比べて約半分の濃度であった。塩化物イオンは岩石からの寄与がほとんどないイオン種と考えられているため、この透明氷層中の塩化物イオン濃度の減少は凍結時に相対的に濃い塩化物イオン濃度を持つ融解水が排出されたためであると考えられ、開放系の凍結が生じたことを支持する。
 凍結による同位体分別過程をシミュレートしハムナ底面氷の同位体プロファイルの結果と比較した。その結果、水の凍結速度(S)と流入速度(A)の比(S/A)は1000/4~1000/9であることが示唆された。また、開放系の復氷によって-48~-49‰程度の酸素安定同位体比を持つ水が宗谷流域底面に存在していることが示唆された。
宗谷流域を想定した二次元定常氷床流動モデルをシミュレートし、基盤温度を計算した。その結果、宗谷流域底面は-5℃~-15℃であり0℃未満であることが示唆された。しかし、圧力・不純物・基盤凸部上流側の流動応力などの融解点降下を考慮すると、粗度 0.01程度の基盤凸部上流側で水が存在しうることが示唆された。計算によると、この水が存在しやすい地域は宗谷流域下流域(沿岸から約80kmまでの地域)である。これらの地域で底面氷上部の透明氷層は開放系の復氷によって形成されたと考えられる。
 底面氷上部において凍結層である透明氷層と非凍結層である気泡氷層が互層構造を成していることは、透明氷層が復氷によって形成された後に氷の変形が生じていることを示唆する。ハムナ底面氷中の同位体プロファイルの極大値が必ずしも透明氷層最上部に位置していない、同位体プロファイルと気泡層構造に線対称な構造が観察されたという結果は氷が褶曲的に変形したことを示唆する。

 底面氷下部はほぼ透明氷で構成され、固体粒子が層を成している。底面氷上部と同様に鉛直方向に同位体比が変化し、最大変動幅はδ値で3.2‰(δ18O)、30‰(δD)であった。この結果は底面氷下部もまた融解再凍結過程で形成されたことを示唆する。底面氷下部は同位体の変動した厚さが数100mm以上であり、固体粒子が層状形熊であるので、凍結に
よって形成されたと考えられる。
 氷床流動モデルによると、復氷は生じうるが大規模な融解水は生じにくい氷床底面状態が示唆された。底面氷上部に比べて底面氷下部の平均酸素安定同位体比は約1‰軽い。この同位体比の軽さは底面氷下部を形成した水が底面氷上部を形成した水に比べて軽い同位体比を持つことを示す。底面氷下部の形成に用いられた水は底面氷上部形成の際に開放系の復氷によって排出された相対的に軽い同位体比を持つ排出水である可能性が高い。
 ハムナ底面氷の結晶方位分布は底面氷上部、下部ともに多極大型構造をしている。また、底面氷中の気泡にはせん断応力を連想させる気泡の伸びが観察された。これらの結果はハムナ底面氷が形成された後せん断を受けたことを示唆する。

 本研究の主な成果は現在最も詳細に氷床底面状態を探ることができる底面氷の解析という手法を初めて宗谷流域に適用し、従来の研究では凍結していると考えられていた宗谷流域底面において水が存在していることを明らかにしたことである。本論文の結果は宗谷流域だけではなく、従来の研究で凍結していると考えられている南極氷床のその他の流域の底面にも水が存在することを暗示する。, 総研大甲第525号}, title = {東南極宗谷流域の氷床底面状態に関する研究}, year = {} }