@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000817, author = {松坂, 幸彦 and マツザカ, ユキヒコ and MATSUZAKA, Yukihiko}, month = {2016-02-17}, note = {本論文は「科学観測用薄膜型高高度気球に関する研究」と題し、飛翔高度40kmを越え、50km以上に到達可能な薄膜ポリエチレンフィルム気球の開発にあたり、種々の課題の研究成果についてまとめた。10kg程度の観測器を高度40km以上まで飛翔させ、大気の影響をほとんど受けない高度において、質の良い観測を行うための飛翔体として厚さ5.8ミクロンのポリエチレンフィルムを使った気球の開発研究を行った。ここでは薄膜ポリエチレンフィルムで作られた気球を薄膜型高高度気球と呼ぶことにする。薄膜型高高度気球は、大気科学および超高層物理学分野の研究を行うことを主目的に開発が進められた飛翔体である。高度50kmを越える上部成層圏での気球観測は、これまでの日本の気球観測ではほとんど不可能であった。大型の重い観測器を搭載できる従来の気球は、厚さ20ミクロンのポリエチレンフィルムが使われており、ロードテープ(補強テープ)を含めた気球重量は同じ容積の場合、薄膜型高高度気球の約4倍である。到達高度での比較をすれば従来の気球が到達する高度(hPa)よりさらに1/4高度(hPa)まで到達できることになり、気球重量の軽量化が到達高度に大きく関係する。1990年代、宇宙科学研究所気球工学部門ではまだ薄膜型気球の製作技術はなく米国製薄膜型気球の利用だけであった。しかし、薄膜型高高度気球を科学観測用気球として数多く利用できるようにするためには、薄膜型気球の国産化を考える必要があった。薄膜型気球に関する論文や資料は国際的にも少なく、日本独自の薄膜型高高度気球開発は第1歩から始めることとなった。現在薄膜型高高度気球を科学観測用気球として利用するために、積極的に開発を進めているのは世界的にみても日本だけである。日本独自の薄膜型高高度気球が科学観測に使用できる条件は、
 (1)気球本体の重量を如何に軽くすることができるか、
 (2)気球環境に耐えうる大容積の気球を高い品質管理のもとで安定に製造できるか、
 (3)薄いフィルムでできた気球に損傷を与えずに放球ができるか、
 (4)限られた搭載重量であることから、送信機、テレメータ、コマンド等基本搭載機器の軽量化、小型化および低消費電力化が如何に実現できるか、
という問題を解決する必要があった。

 本研究は、上に記した条件の解決を基本目的として行った。薄膜型気球製作のための研究開発、薄膜型気球の放球法の研究開発、基本搭載機器の研究開発等薄膜型高高度気球を実用化する上で最も基本となる研究である。
本論文の構成は全8章からなる。第1章では気球工学と気球観測のあゆみについて述べ、気球観測における超高層物理学研究の成果や気球工学上の成果について記述した。第2章では、気球製作用接着器の研究開発について記述し、第3章では、薄膜型高高度気球の放球装置の開発について述べた。また、これまでの薄膜型気球の放球方式とは全く違う、パッキング放球方式と呼ぶ新しい薄膜型気球の放球法を考案し、その有効性を実証した。第4章では、気球観測を行う上での基本搭載機器であるテレメータ、コマンド、バラスト弁について小型・軽量化および低消費電力化を目的として行った研究開発および試験結果について記述した。第5章では、薄膜型高高度気球の水平浮遊を目的に開発した排気口を持った薄膜型気球を提案し3種類の排気口について飛翔比較を行い、薄膜型高高度気球に最適な排気口を選定した。第6章では、本研究成果の実証を目的として、国産の大型薄膜型高高度気球である容積120,000m3のBT120気球1号機を製作し、第3章で述べた放球装置を用いて放球し、重量10kgの観測器を高度50.2kmまで到達することに成功した飛翔試験結果について論述した。第7章では、本研究の成果がなければ、今まで不可能とされていた超高層物理学観測のオゾン高度分布や酸素原子高度分布等の定量的観測結果について記述し、また将来の観測展望についても述べた。最後の第8章では、結論として研究開発の成果のまとめを行うとともに、今後の薄膜型高高度気球の展望について述べた。

 以下に、本研究の目的とした課題の解決により得られた成果を示す。
 (1)従来使用されていた20ミクロンに比較して、5.8ミクロンや3.4ミクロンの極めて薄いポリエチレンフィルムを用いた大型の薄膜型気球を製作する新たな接着装置、新型ベルトシーラ方式を開発した。結果、薄膜を使用した大型の気球製作を可能にし、科学観測用気球製作において極めて画期的な装置となった。
 (2)気球放球方式に関して新たな気球保持用エアーバッグを開発し、5.8ミクロンや3.4ミクロン で作られた薄膜型高高度気球本体に損傷を与えずに、安定かつ確実に放球できる放球装置を開発した。
 (3)新たな放球方式、即ち、パッキング放球方式を考案したことで、狭い場所での放球が可能になり、しかも2~3名の少人数で容易に放球できる事を実証した。また、この放球方式は将来大型の薄膜型高高度気球にも十分適応できることを理論的に証明した。
 (4)気球飛翔に最も基本的な搭載機器であるテレメータ、コマンド、バラスト装置について小型・軽量化や低消費電力化を行い、薄膜型高高度気球の最も基本的飛翔構成における搭載機器重量を1kg程度まで軽量化できた。
 (5)本薄膜型高高度気球により高度35km以上での超高層物理学現象であるオゾン高度濃度分布お よび酸素原子の高度分布等の定量的観測がなされ、新しい知見を得ることができた。

 薄膜型高高度気球の研究成果によって、地球上のあらゆる場所から今まで不可能とされてきた超高層物理学の観測が実行可能になった。オーロラや太陽フレア発生時を確認後、短時間の準備時間で放球することができるため、オーロラ時および磁気嵐時の超高層現象が解明できる。また、南極の昭和基地と共役点となる北極のアイスランド付近で同時に放球することによって、磁気圏・電離圏結合の機構のメカニズムを明らかにすることができ、高エネルギー粒子加速機構の解明へとつながって行くものと確信している。さらに、複数点より同時に気球放球を行うことより、二次元編隊飛行が可能になり、カスプ域のELF帯波動の実体とイオン加速への効果および磁気嵐時の放射線帯粒子加速、inward diffusionに対する地球磁場不均一性の効果等に対する新たな知見が得られるものと期待されている。また、対流圏から成層圏、中間圏におけるオゾン、酸素原子、二酸化窒素、二酸化炭素等の濃度高度分布が地球規模で詳細に観測でき、それらの発生・消滅メカニズムの解明、および微細構造分布を明らかにすることができる。これまで、中間圏までの観測は小型ロケットの独壇場であったが、この気球の誕生によって、ロケットと比較してより長時間の観測が可能となった。これらの気球観測を可能ならしめた事は、本研究で達成した成果の結果である。, 総研大乙第97号}, title = {科学観測用薄膜型高高度気球に関する研究}, year = {} }