@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000819, author = {鮎川, 恵理 and アユカワ, エリ and AYUKAWA, Eri}, month = {2016-02-17}, note = {本研究は南極大陸に広く分布し,栄養繁殖のみを行うことが知られているコケ植物2種, Bryum pseudotriquetrum(オオハリガネゴケ)とCeratodon purpureus(ヤノウエノアカゴケ)における栄養散布体の散布と移入,土壌中での蓄積,発芽,集団の遺伝的構造を明かにし,南極に優占する群落の成立過程と動態について考察することを目的とした.
 はじめに栄養散布体の移入について明らかにするため,散布体トラップを夏期の38日間,裸地に設置し,回収後,散布体の計数,種の同定を行なった.C. purpureusの優占する植生にも関わらず,C. purpureusの散布体の移入は認められず、B. pseudotriquetrumのみの移入が認められた.その数は1m2当たりに換算すると,38日間で41.5個と推定された.この結果から,短い夏期間に,シュート断片などの散布体が地表に実際に移入してきていることが明らかになった.
 次に,土壌中に蓄積した散布体の観察と培養から,裸地上の散布体パンク内の散布体の形状,種,数について明らかにした.散布体バンクに含まれる散布体の90%以上は長さ約1 - 15mmのシュート断片であり,その他は仮根や葉の断片であった.C. purpureusが優占する調査区において調査された散布体パンク内の散゜布体数は,B. pseudotriquetrumでは2500個/m,C. purpureusでは114個/m2であり,南極の土壌中には膨大な量の散布体が蓄積されている事実が明らかになった.
 次に散布体バンクからの散布体の発芽について解析した結果,両種ともに,散布体から新しいシュートが発芽しているものが見られた.その発芽率はB. pseudotriquetrumで9.5%,C. purpureusで3.7%であったことから,発芽していた散布体数はB. pseudotriquetrumで237.5個/m2 C. purpureusで4.2個/m2と推定された.また,15℃での培養実験においてC. purpureusの発芽はB. pseudotriquetrumよりも3週間程度長くかかったことから,C. purpureusは南極の短い夏での発芽は難しいと考えられた.
 このようにB. pseudotriquetrumは移入数,散布体バンクでの蓄積数,発芽数のすべてがC. purpureusに比べて多く,発芽に要する期間はC. purpureusに比べて短いという特性をもっており,C. purpureusはその反対の繁殖特性を持ち合わせていた.ここまでの結果から,両種の繁殖特性は顕著に異なるものであることが明らかになった.
 次に散布体の発芽から定着に至る過程を知るために,二種の群落の遺伝的構造について明らかにした.遺伝的構造の解析には,クローン推定まで可能な高い分解能をもち,再現性も高いAFLP法(増幅断片長多型)を使用し,遺伝的分化の程度を知るためにAMOVA解析を行なった.解析の結果,露岩域間の集団(20kmから300km程度のスケール)の固定指数FstはB. pseudotriquetrumでは0.079,C. purpureusでは -0.06であり,0からの有意なずれは認められなかった(B. pseudotriquetrumではp=0.11,C. purpureusではp=0.86).この値は両種とも,それぞれの露岩域間での集団の遺伝的分化がないことを示していた.また,どちらの種においても約300km離れた所から採取された2サンプル間でも,遺伝的類似度が非常に高い場合が見られたことから,調査地の散布体の遠距離散布の可能性も示唆された.一方,両種において群落内の数cmや10m程度しか離れていない2サンプル間でも遺伝的類似度が低い場合もみられ,それらは遺伝的に同一の個体には由来しないことが示唆された.このことより両種は,露岩域間スケールでの散布に加え,群落内スケール(数cmか610m程度)での散布も行なっている可能性が考えられた.
 以上の遺伝的構造の解析の結果から,両種の集団の遺伝的構造には類似性が認められた.両種には移入から発芽までの異なった繁殖特性があるにも関わらず,集団の遺伝的構造に類似性が認められたことは,発芽後の群落形成過程も両種で違っていたためにもたらされた結果であると考えられた.これまでの知見から,B. pseudotriquetrumはC. purpureusに比べ,より湿潤な立地に生育することが知られていることから,B. pseudotriquetrumは散布数,散布体バンクへの蓄積数を多くして,比較的水分供給のよい立地でいち早い定着の機会を得ようとする,攪乱依存的,パイオニア的な繁殖戦略をもつことにより,南極大陸で優占することが可能となったのではないかと考えられる.一方,C. purpureusは水分供給に恵まれない立地でも生育可能であること,B. pseudotriquetrumのような攪乱依存的,パイオニア的な繁殖戦略をもたないことなどから推測される,ストレス耐性的,極相種的な生活史戦略をもつことにより,南極大陸で優占すること力く可能となったのではないかと考えられる.両者は繁殖戦略や生活史戦略を異とすることで,空間的,時間的なニッチを分け合い,南極大陸での優占種となり得た可能性がある.
 本研究では,南極でのコケ植物の繁殖の大部分を占めていながら,これまで研究がほとんど行なわれていなかった栄養繁殖に焦点を当てた.その結果,南極では栄養繁殖のみに依存した繁殖様式をもつ二種,B. pseudotriquetrum,C. purpureusは,異なる繁殖戦略をもっており,それらの繁殖戦略は生育の厳しい南極の環境下における,空間的,時間的なニッチの使い分けと深く関わるものであることが考えられた., 総研大甲第720号}, title = {南極におけるコケ植物の繁殖特性と群落の成立過程}, year = {} }