@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000821, author = {富山, 隆將 and トミヤマ, タカユキ and TOMIYAMA, Takayuki}, month = {2016-02-17}, note = {本論では、Lコンドライトの熱変成過程を解明するために(1)角礫岩コンドライトALH77252の岩石、鉱物学的研究、(2)地質学的温度計、冷却速度計によるLコンドライト熱史の研究、(3)53Mn-53Cr系を用いたLコンドライトの年代学的研究を行い、Lコンドライト母天体の構造と形成過程を推定した。
 ALH77252はL3-L6の岩石学的タイプの岩片を含む角礫岩コントライトである。角礫化した後は熱変成をほとんど受けていない。ALH77252では、熱変成を受けて平衡化した岩片と強い熱変成を逃れた非平衡な岩片とでは、低Ca輝石の副成分元素組成のTi/Al比、Ti/Cr比が異なっている。輝石中での副成分元素の拡散は遅い過程であるため、平衡化した岩片に含まれる低Ca輝石の化学組成は、高温で長期間の熱変成によって変化したか、熱変成を受ける前の化学組成を保持しているものと考えられる。
 強い衝撃を受けていない13個のLコンドライト(A9043 L3.0, ALH78041 L3.4, ALH78119 L3.5, Y82055 L3.6, Y790770 L3.7, Y86706 L3.8, Y8014 L3.9, A87029 L4, Y790036 L4, Y790117 L5, Y86753 L5, Y7452 L6, Y82088 L6)、および強い衝撃を受けた3個のLコンドライト(Y790787 L3, Y793424 L6, Y793597 L6)に、カンラン石-スピネル温度計、輝石温度計、Fe-Ni合金を用いた冷却速度計を適用し、個々の隕石の熱史を明らかにした。カンラン石-スピネル温度計を適用した結果からは、岩石学的サブタイプの低いL3コンドライトを含む全ての試料中で、併存するカンラン石-スピネルが数100℃の熱過程によって化学平衡に達していること、岩石学的タイプとカンラン石-スピネル温度計の平衡温度に相関が無いこと、カンラン石-スピネル温度計が強い衝撃による加熱、急冷に大きく影響されることがわかった。輝石温度計を適用した結果からは、岩石学的タイプ5以上のLコンドライト中で低Ca輝石と普通輝石が~900℃で化学平衡に達していることと、輝石温度計で見積られる平衡温度が強い衝撃でわずかに上昇することが確認された。Fe-Ni合金を用いた冷却速度計の結果では、岩石学的タイプとFe-Ni合金の冷却速度に相関は見られなかった。カンラン石-スピネル温度計で与えられる平衡温度を冷却時の閉鎖温度と解釈すると、カンラン石-スピネル温度計の結果とFe-Ni合金を用いた冷却速度計の結果は調和的である。カンラン石-スピネル温度計とFe-Ni合金を用いた冷却速度計により、急速に冷却された熱史を持つことが見出されたY86753は、S2程度の弱い衝撃しか受けていない。本論では、Y86753が経験した急冷過程は、衝撃による加熱後に起こったものではなく熱変成中に母天体深部から掘り起こされたことによって起こったものと結論した。
 53Mn-53Cr系によるLコンドライトの年代学的研究を行い、二次イオン質量分析計を用いたカンラン石の53Mn-53Cr系の同位体分析法を確立した。この手法をY86753および角礫岩コンドライトBjurböleに適用した結果、Y86753では有意な53Cr過剰が得られず、Bjurböleでは、測定したカンラン石の一部にわずかな53Cr過剰が得られた。得られた53Mn-53Cr系の同位体組成から、それぞれのコンドライトの53Mn-53Cr年代の上限を推定すると、Y86753の53Mn-53Cr年代は〓4563Ma、Bjurböleの53Mn-53Cr年代は〓4567Maであった。
 個々のLコンドライトの熱更に見られる多様性は、Lコンドライトの母天体が複雑な熱構造を持っていたことを示唆する。Lコンドライトの母天体の進化はオニオンシェルモデルのように静的な過程ではなく、熱変成の中途にも母天体の破壊を伴う動的な過程であったと考えられる。しかし、特異な熱履歴を経たと思われる少数のLコンドライトを除けば、地質学的温度計や冷却速度計で見積られるLコンドライトの変成温度や冷却速度は、岩石学的タイプによらず類似していることが多い。岩石学的タイプと変成温度、冷却速度の相関関係が得られないことは、地質学的温度計や冷却速度計の測定誤差の大きさに起因すると考えられるため、必ずしもオニオンシェルモデルに反するとは言えない。母天体の破壊の規模が、母天体全体の熱構造を壊すほどではなく、ある程度限定された領域で掘り起こしや物質の混合を起こす程度のものであったものとしても、地質学的温度計や冷却速度計の結果を説明することが出来る。
 強い衝撃を受けて加熱、急冷されたLコンドライトは、母天体表層で衝突を受けたものである。岩石学的タイプ3だけでなく、岩石学的タイプ6のLコンドライトにもこのようなものが見られることは、母天体表層に岩石学的タイプの異なる領域が混在していたことを示唆している。ALH77252のように、岩石学的タイプの異なる岩片からなる角礫岩コンドライトは、複雑な構造を持った母天体の表層で、繰り返し衝突を受けることによって形成されたものと考えられる。これらのことは、母天体深部から掘り起こされた岩石が、その後も母天体表層において衝突による衝撃変成や角礫化の影響を受けたことを示している。
 熱変成中のカンラン石はCrに関して開放系であるため、カンラン石の53Mn-53Cr年代は、そのカンラン石を含むコンドライトや礫が、熱変成中に掘り起こしを受けて冷却した年代や、母天体全体で熱変成が終わることによって冷却した年代を表している。Y86753のカンラン石の53Mn-53Cr年代は、Y86753が母天体深部から掘り起こされた年代が4563Ma以後であり、Lコンドライトの母天体では、Y86753の掘り起こしがあった年代以後まで熱変成が続いていたことを示す。また、Bjurböleは、一部に53Cr過剰を示すカンラン石が見られるため、Y86753より早い年代に掘り起こされた礫を含んでいるものと考えられる。, 総研大甲第759号}, title = {Lコンドライト母天体の熱変性過程に関する物質科学的研究}, year = {} }