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海藻や植物プランクトン細胞内で生成するジメチルスルフォニオプロピオネート(以降,粒状態DMSPと記す)が,海水中に溶存し(以降,溶存態DMSPと記す),DMSP分解酵素によって分解されることにより,DMSが生成する.これまで,海洋基礎生産が比較的高い高緯度海域においてDMS濃度が高いことが報告されてきた.しかしながら,植物プランクトン細胞内でDMSPが生成され,その細胞内DMSPからDMSが生成するまでの複雑な生物・化学的プロセスや,生成されたDMSが海水中で分解されるプロセスが,特に高緯度海域で定量化されていないため,これらの高濃度をもたらす原因の解明には未だ至っていない,そこで,DMSの生成経路に注目しながら,南極海における生物活動がどのようにDMS濃度を制御しているのかを明らかにすることを目的に研究を行った.
南大洋インド洋区で実施された,夏期シーズンをカバーする観測(1-2月)から,1)粒状態DMSP濃度の空間分布のパターンと植物プランクトン現存量の指標となる色素量(Chl.a濃度)の空間分布のパターンが異なっていた,2)2002年1月,非常に高濃度のDMS(49 nmol・L-1)が氷縁域に存在した,という現象が見られた.これらの原因を明らかにするため, 植物プランクトン種および生理活性の影響,動物プランクトンの影響について考察した.
これまで,室内培養実験の結果から,植物プランクトン種によって単位Chl.aあたりの細胞内DMSP量が異なることが報告されている.しかしながら,観測中,網胞内DMSP 量が多いと報告されている植物プランクトンが多く存在していた海域において粒状態DMSP濃度が高いとは限らなかった.植物プランクトンの室内培養実験を行ったところ,植物プランクトンが増殖を停止している減衰期における粒状態DMSP/Chl.a比(細胞内DMSP量の指標)は,植物プランクトンが活発に増殖している対数増殖期の約5-10倍に増加した.植物プランクトンは,生長を停止している減衰期にも細胞内にDMSPを生成し続けることが明らかになった.このことから,植物プランクトン種のみならず,植物プランクトンの生理活性状態(生長段階)も海水中における粒状態DMSP濃度を決定する要因となることが示唆された.
植物プランクトンを摂餌する動物プランクトンの一種であるカイアシ類を用いた実験の結果から,動物プランクトンは,植物プランクトン細胞内のDMSPを海水中に溶存させ,溶存態DMSPを生成することが報告されている.南極海の大型動物プランクトン優占種であるナンキョクオキアミおよびサルパを用いて船上培養実験したところ,ナンキョクオキアミの摂館は溶存態DMSPおよびDMSを生成するのに対し,サルパの摂館は溶存態DMSP およびDMSを生成しないことが明らかになった.オキアミは植物プランクトン細胞を破砕しながら摂餌する.一方,サルパは植物プランクトン細胞を丸呑みして消化管内で栄養分を吸収する.このような動物プランクトンの摂餌形態の差が溶存態DMSPおよびDMS 生成量の差につながったと考えられた.オキアミの溶存態DMSP+DMS生成速度は,一個体あたり,3nmol-溶存態DMSP+DMS・h-1であり,オキアミの摂餌によって粒状態DMSPからのすみやかな溶存態DMSPおよびDMS生成が行われると考えられる.これにより, オキアミの生物量の増減が海洋における溶存態DMSP濃度およびDMS濃度に大きく影響することが示唆された.
2002年1月-2月に人工衛星で得られた表面海水中のChl.a濃度分布から,1月における植物プランクトンブルーム全体の生理活性状態は対数増殖期に相当することが推測された.そのため,1月の植物プランクトン一細胞における単位Chl.aあたりの粒状態DMSP量は小さかったと考えられた.しかし,この時,氷縁域でナンキョクオキアミが大型動物プランクトンの優占種であり,このオキアミが植物プランクトンを摂館した結果,1月に非常に高濃度のDMS濃度が観測されたと考えられる.植物プランクトンの増殖や,植物プランクトンの生理活性の減衰により水中の粒状態DMSP存在量が増加した時に,それらの植物プランクトンをナンキョクオキアミが摂餌することにより,DMSが非常に速やかに生成することが示唆された.本研究から,南極海におけるDMS分布に生物間相互作用が非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった.","subitem_description_type":"Other"}]},"item_1_description_7":{"attribute_name":"学位記番号","attribute_value_mlt":[{"subitem_description":"総研大甲第857号","subitem_description_type":"Other"}]},"item_1_select_14":{"attribute_name":"所蔵","attribute_value_mlt":[{"subitem_select_item":"有"}]},"item_1_select_8":{"attribute_name":"研究科","attribute_value_mlt":[{"subitem_select_item":"複合科学研究科"}]},"item_1_select_9":{"attribute_name":"専攻","attribute_value_mlt":[{"subitem_select_item":"16 極域科学専攻"}]},"item_1_text_10":{"attribute_name":"学位授与年度","attribute_value_mlt":[{"subitem_text_value":"2004"}]},"item_creator":{"attribute_name":"著者","attribute_type":"creator","attribute_value_mlt":[{"creatorNames":[{"creatorName":"KASAMATSU, Nobue","creatorNameLang":"en"}],"nameIdentifiers":[{"nameIdentifier":"0","nameIdentifierScheme":"WEKO"}]}]},"item_files":{"attribute_name":"ファイル情報","attribute_type":"file","attribute_value_mlt":[{"accessrole":"open_date","date":[{"dateType":"Available","dateValue":"2016-02-17"}],"displaytype":"simple","filename":"甲857_要旨.pdf","filesize":[{"value":"430.9 kB"}],"format":"application/pdf","licensetype":"license_11","mimetype":"application/pdf","url":{"label":"要旨・審査要旨","url":"https://ir.soken.ac.jp/record/829/files/甲857_要旨.pdf"},"version_id":"222cd21e-d712-4aef-9acf-7800717bef6b"},{"accessrole":"open_date","date":[{"dateType":"Available","dateValue":"2016-02-17"}],"displaytype":"simple","filename":"甲857_本文.pdf","filesize":[{"value":"5.1 MB"}],"format":"application/pdf","licensetype":"license_11","mimetype":"application/pdf","url":{"label":"本文","url":"https://ir.soken.ac.jp/record/829/files/甲857_本文.pdf"},"version_id":"bd5dcccd-577d-41a2-8664-1487ccf24898"}]},"item_language":{"attribute_name":"言語","attribute_value_mlt":[{"subitem_language":"eng"}]},"item_resource_type":{"attribute_name":"資源タイプ","attribute_value_mlt":[{"resourcetype":"thesis","resourceuri":"http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec"}]},"item_title":"Biological control of dimethylsulfoniopropionate and dimethylsulfide production in the Southern Ocean","item_titles":{"attribute_name":"タイトル","attribute_value_mlt":[{"subitem_title":"Biological control of dimethylsulfoniopropionate and dimethylsulfide production in the Southern Ocean"},{"subitem_title":"Biological control of dimethylsulfoniopropionate and dimethylsulfide production in the Southern Ocean","subitem_title_language":"en"}]},"item_type_id":"1","owner":"1","path":["18"],"pubdate":{"attribute_name":"公開日","attribute_value":"2010-02-22"},"publish_date":"2010-02-22","publish_status":"0","recid":"829","relation_version_is_last":true,"title":["Biological control of dimethylsulfoniopropionate and dimethylsulfide production in the Southern Ocean"],"weko_creator_id":"1","weko_shared_id":1},"updated":"2023-06-20T15:59:38.754507+00:00"}