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利用環境の実現に不可欠となるメタデータを, コンテンツ自体と結びつけ
る(バインディング)ための電子透かし技術について提案するものである
. 特に印刷や画面出力など, アナログ出力されたコンテンツにおいてまで
メタデータとのバインディングをシームレスに保証し, アナログドメイン
で流通するコンテンツを起点として高度なコンテンツ利用環境を享受可能
とすることが目的である.
 また, アナログドメインのコンテンツの入力デバイスとして, 近年幅広
く普及したカメラ付き携帯電話機の利用について深く検討を行う. 一般に
電子透かし処理は複雑な画像・映像処理であり, 携帯電話機のような計算
リソースの乏しい環境では, 高速処理とアナログ出力耐性を同時に実現す
ることは従来非常に困難であった. 本研究では特にこの点について注目し
,課題の解決を図る.
 第1章では, 本研究の背景と目的について述べ, 論文の構成を概観する.
 第2章では, 本研究に関連する技術及び研究について, 電子透かし以外の
アプローチとの比較を行って電子透かしアプローチの特徴を示す. また,
従来の電子透かし技術について調査を行い, 本研究で取り扱う技術的課題
についてより詳細かつ具体的な整理を行う.
 第3章では, カメラ付き携帯電話機を用いたアナログ画像からの関連情報
取得システム実現への予備検討として, PCでの動作を前提としたアナログ
出力耐性を有する静止画電子透かし手法を用いたクライアント/サーバ方
式について検討を行う. まず, アナログ出力耐性を有する電子透かし手法
として, 画像の空間周波数成分に対して直交符号化された透かし情報を重
畳する静止画向け電子透かし手法を示す. 提案手法では画像の空間周波数
成分(フーリエ係数)の実部と虚部を独立したチャネルとみなして埋め込
みを行うことによって, 従来手法であるフーリエ係数の振幅に埋め込みを
行う手法に対して拡散率を倍増させることが可能であり, それにより高い
ノイズ・圧縮耐性を実現する. また,False Positiveについて定量化を行
う. 評価実験により, 印刷出力されたアナログ画像からでも電子透かしの
検出が可能であることを確認する. 最後に, 提案手法を利用したC/Sシステ
ムについて検討を行う.
 第4章では, 第3章で示したC/S方式における通信処理に伴うコスト問題を
本質的に解決するため, カメラ付き携帯電話機上でスタンドアロン処理で
高速に検出処理が可能な静止画電子透かし方式について示す. 提案方式は
画像の縁を利用して撮影角度によって生じる幾何歪みの補正をすることで
空間同期をとり, さらに安定した特性を有する2次元ブロックパターン変調
を用いることに微小な幾何歪みに対処し, スペクトラム拡散変調によりノ
イズに対するロバスト性を実現する. さらに,実サービス運用上必要とな
る, 検出透かし情報の信頼性(False PositiveおよびMessage Error)の定
量評価方法についても示す. 実機に実装して行った評価実験によって, 提
案手法は携帯電話機上のJavaアプリケーションとして実装した場合でも, 7
00 msec.程度で電子透かし検出処理を完了することができ, また, 十分な
ロバスト性を有することを確認できた.
 第5章では, 対象を動画へと変え, ディスプレイ上で再生されている動画
から, カメラ付き携帯電話機を用いてリアルタイムに検出拠理可能な高速
な動画向け電子透かし方式について示す. 提案方式は,第4章の方式と同じ
くキャプチャフレーム中の矩形領域をリアルタイムに検出・追跡すること
で, フリーハンド撮影によって刻々と撮影角度による幾何歪みに対処して
空間同期を実現する. 電子透かし検出は,連続してキャプチャされるビデ
オフレームの時間差分をとることで原画成分を抑圧してS/N比を改善する
ことにより, スペクトラム拡散された電子透かし信号をロバストに可能で
ある. さらに第4章と同じく, 検出透かし情報の信頼性(False Positive お
よび Message Error)の定量評価方法についても示す. 実機に実装して行っ
た評価実験により, 画面表示された動画にカメラ付き携帯電話機をかざし
てリアルタイムにかつロバストに検出可能であることを確認できた.
 第6章では, 第5章で示した方式の問題であった電子透かし手法の端末性
能依存性を解消しつつ, さらなる耐性向上を実現するリアルタイム検出処
理可能な高速動画向け電子透かし方式について示す. 提案方式では, 空間
同期については第5章の方式と同じく高速矩形検出・追跡手法によって実現
される. 電子透かし手法としては, 時間同期不要であり高いロバスト性を
有する単一周波数平面スペクトル拡散法(Single Frequency Plane Spread
Spectrum method, SFPSS法)を画素信号領域を対象とするように改良して
高速化を図った. さらに第4,5章と同じく, 検出透かし情報の信頼性(Fals
e Positive および Message Error)の定量評価方法についても示す. 実機に
実装して行った評価実験により, 提案手法は第5章の方式で問題であった端
末性能依存性を解消すると同時に, より高いロバスト性を有することを確
認できた. これにより電子透かしを用いたサービスの幅広い展開を実現す
ることが可能である.
 最後に第7章で本論文の成果をまとめる.
本研究の成果は, アナログ出力された実世界の画像・動画コンテンツから
電子透かし検出可能な高耐性かつ高速な電子透かし手法を提案し, 特にカ
メラ付き携帯電話機上でスタンドアロン検出処理が可能であることを実機
を用いた評価実験により実証したこと, および, 検出透かし情報の信頼性`
の定量評価方法を示し, 実サービス運用時定量的品質保証を可能としたこ
とにある.
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