@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000878, author = {浦, 聖恵 and ウラ, キヨエ and URA, Kiyoe}, month = {2016-02-17}, note = {ショウジョウバエの発生、分化に関わる遺伝子から見いだされたホメオボックスと呼ばれる領域は、その後の研究よりマウスやヒトを含む脊椎動物にも存在することが明らかになった。マウスの場合およそ35個のホメオボックス遺伝子が、100kb以上にわたる4つのクラスター(Hoxクラスター)を形成し、発生分化に伴い時期及び空間特異的に発現する。一つのクラスター内でホメオボックス遺伝子の発現を比較すると、いずれも同じ方向に転写され、しかも染色体上の並び順に従う発現を示す。このようなホメオボックス遺伝子の発現制御にクロマチン構造が深く関与する可能性を検証する目的で、ホメオボックス遺伝子の一つHox-2.1遺伝子の発現制御にDNAのトポロジーを変えるトポイソメラーゼII(トポII)が関与するのかを調べている。
 マウスのテラトカルシノーマの一種F9細胞を、レチノイン酸とジブチリルcAMPで処理すると3日から5日で壁側内胚葉に分化する。この分化に伴うHox-2.1遺伝子の発現を、Northernhybridizationにより調べたところ、未分化なF9細胞では全くHox-2.1遺伝子の発現は見られないが、分化誘導すると4時間後には、2.1kbのHox-2.1mRNAが出現し、1日目にその蓄積はピークに達し、以後減少して5日目にはほとんど消失した。さらに、未分化F9細胞および4時間分化誘導したF9細胞から核を単離してRun-ontranscription実験により進行中の転写を調べたところ、未分化F9細胞においてもHox-2.1遺伝子は低いレベルで転写されており、分化誘導すると4時間後には転写活性が5倍上昇することが明らかになった。このことからF9細胞の分化に伴うHox-2.1遺伝子の発現誘導は少なくとも遺伝子の転写の活性化によると結論できる。
 次にこの遺伝子の転写制御にトポIIが関与しているのか調べるために、トポIIの阻害剤であるエトポシドの効果を調べている。F9細胞の分化誘導時にエトポシドを加えると、薬剤濃度を増すに従い4時間後のHox-2.1mRNAの蓄積は減少し、100μMのエトポシドではHox-2.1遺伝子の発現はほとんど見られない。一方、hsp70とβ-アクチンのmRNA量は全く変化が見られない。同様の現象は異なるトポII阻害剤、mAMSAを用いても見られている。エトポシドとmAMSAは構造および作用機構が大きく異なっており、両者で同じ現象が見られたことから、薬剤によるHox-2.1遺伝子の発現抑制はトポIIが阻害された結果と想定される。次にHox-2.1遺伝子の発現が抑制されたのは、トポIIを阻害することによりHox-2.1遺伝子の転写が抑制されたためか、あるいは、mRNAの分解が促進されたためか、両可能性を検討するためにRun-ontranscription実験及び、アクチノマイシンDを用いた実験を行なっている。4時間分化させる際に、エトポシドを加えた細胞及び加えなかった細胞から核を単離し、Run-ontranscriptionの実験が行われた。両者を比較すると[32P] CMPの核RNAへの取り込みに差はほとんど見られないが、Hox-2.1遺伝子の転写活性はトポII阻害により未分化細胞の転写レベルまで抑制された。一方hsp70やc-fos、ラミニンB1,そしてβ-アクチン遺伝子の転写活性は、ほとんど影響を受けなかった。従ってトポII阻害によるHOX-2.1mRNA蓄積の減少は、少なくともHox-2.1遺伝子の転写が抑制された結果と結論付けられている。7時間分化誘導してHox-2.1mRNAがある程度蓄積している時点でアクチノマイシンDを加え新たなmRNAの合成を阻害した場合、エトポシド添加の有無によらずそれ以降のmRNA量の変化に差は見られない。従って一旦合成されたmRNAの安定性には、トポIIを阻害することは影響しないと結論されている。
 Hox-2.1遺伝子の転写制御にトポIIが関与していることを示した後に、トポIIが作用してHox-2.1遺伝子の発現を制御している部位をDNA上に特定するため、エトポシドを用いてトポ11によるDNA切断部位をHox-2.1遺伝子周辺に探している。エトポシドはトポIIとDNAの共有結合中間体を安定化させるため、除蛋白により生体内でトポIIがDNA上作用していた部位を切断する。Hox-2.1遺伝子を含む23kbの領域についてトポII切断部位を調べ、Hox-2.1遺伝子の3’末端から5.8kb下流に、ただ一ケ所だけ切断部位を見い出している。この切断部位は、細胞の分化によらず常に存在する。この部位がHox-2.1遺伝子の発現を調節している部位であるかは、遺伝子導入などこの領域の機能解折により調べることが可能となった。
 トポIIがF9細胞の分化に伴ってHox-2.1遺伝子の転写を制御する機構として次のようなモデルを提唱している。一つは、Hox-2.1遺伝子のプロモーター活性が、DNAのスーパーコイルの程度による影響を強く受け、生体内で局所的にスーパーコイルの程度をトポIIが調節して遺伝子を活性化する機構である。実際、in vitro転写系を用いた実験では発生分化に関わる遺伝子のプロモーターはスーパーコイル化の影響を強く受ける結果を得ており、真核生物のトポIIは、所属研究グループが精製したスーパーコイル化因子とトポIIが協調してin vitroでDNAに負のスーパーコイルを導入する活性を有している。もう一つの可能性は、トポIIがHox-2.1遺伝子を含む不活性なクロマチンドメインを解いて活性化する機構である。遺伝学的にも生化学的にも、トポIIは細胞分裂に伴うクロマチンの高次構造変化に必要な酵素であることがすでに示されているので、遺伝子活性化に伴うクロマチンドメインの高次構造変化をトポIIが制御している可能性を提唱している。遺伝子の転写制御に果たすトポIIの役割を明かにしようとする試みは、これまでほとんど研究がなされていないクロマチンの高次構造変化による遺伝子発現制御の機構を解明する糸口になると想定される。, 総研大甲第17号}, title = {Role of DNA topoisomerase II on transcription of the homeobox gene Hox-2.1 in F9 cells}, year = {} }