@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000897, author = {藤澤, 千笑 and フジワラ, チエミ and FUJISAWA, Chiemi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {ヒドラの間幹細胞(interstitial stem cells)は、活発に分裂して自己増殖を行う未分化幹細胞である。出芽によって無性増殖するヒドラ組織において、間幹細胞は3種類の体細胞、すなわち神経細胞、刺細胞、腺細胞に分化する。刺細胞(nematocytes)は、腔腸動物特異的細胞で、捕食、防御の為にトゲを発射する細胞である。ヒドラが有性生殖を開始すると、間幹細胞は、生殖細胞、すなわち精子または卵子に分化する。
 本研究の開始時点において、ヒドラ間幹細胞の集団構成に関し、2つの対立説が存在していた。第1の説は、多能性間幹細胞単一集団説である。この説によれば、間幹細胞集団に含まれる全細胞は、いずれも等しい分化能を持ち、全て神経細胞、刺細胞、腺細胞の3種体細胞と、卵子、精子の生殖細胞に分化する能力を持つ(Bosch&David,1986)。第2の説は、複合集団説である。この説では、間幹細胞集団には 、精子、または卵子のみに分化し、他細胞には分化しない精子限定、あるいは卵子限定間幹細胞の小集団(sub‐population)が含まれている(Littlefield,1985a)。
 間幹細胞集団の構成を明らかにすることは、この細胞の増殖、分化制御機構を理解する上で不可欠である。また、性分化、性決定機構を研究するためにも、非常に重要である。集団構成が単一か複合かにより、実験結果の解釈は、大きく異なろ場合がある。しかしこの問題は、従来重要視されていなかった。
 本研究において、私はヒドラ間幹細胞の集団構成の検討をした。材料として、日本産チクビヒドラ(Hydra magnipapillata)を用い、従来から使用されている1方法と、新たに開発した2方法を併用し、間幹細胞のクローニング実験を行った。ヒドラ細胞のin vitro培養方法は確立されてない。そのためにクローニングは、いずれもヒドラ個体の上皮組織を、フィーダーとして用いた。第1番目の方法は、温度感受性間幹細胞を持つ突然変異系統の制限温度処理法である(Sugiyama&Fujisawa,1978)。このヒドラは18℃で飼育すると正常に成育し、出芽によって増殖する。しかし飼育温度を25℃に上げると、間幹細胞は選択的に死に、急激に減少する。処理時間が長すぎると、間幹細胞は完全に消失し、処理個体はすべて上皮組織のみからなる「上皮ヒドラ」になる。しかし、処理時間を上手に調節すると、大部分の間幹細胞は除去されるが、ごく少数(理想的には1個)の間幹細胞を残す事が出来る。この残された間幹細胞を増殖させ、クローン化を行なった。
 第2番目の方法は、ヒドロキシウレア(HU)処現法(Littlefield,1985a)である。この方法は、原理的に第1番目の方法と似ている。HUはS期の細胞を殺す薬剤である。ヒドラをHU処理すると、活発に分裂する間幹細胞は選択的に殺されるが、分裂の遅い上皮細胞は、あまり影響をうけない。HU濃度と処理時間の調節により、健康な上皮組織の中に、ごく少数(理想的には1個)の間幹細胞を残す事ができる。残った細胞を増殖させ、クローン化を行なった。
第3番目の方法は、特定部域の組織小片再生法である。上記2方法で得た特異的分化能を示す間幹細胞は、ヒドラ個体内で局在している事が分かった。そこで、この細胞の存在しない部位から微小組織を切りだし、再生させ、再生体に存在する間幹細胞のクローン化を行なった。
 上記3方法は、いずれも厳密な意味でのクローニング方法ではない。直接観察により1細胞を確認した上で、あるいは統計的に1細胞と推定した上で、その細胞を増殖、クローン化した訳ではない。しかし、結果的に判断すると、どの方法も有効であった。すなわち、3方法の使用により、分化能の異なる4種類の間幹細胞小集団を分離する事に成功した。
 分離した小集団の第1番目は、精子限定間幹細胞である。この細胞は精子のみに分化し、体細胞(神経細胞、刺細胞、腺細胞)には分化しない。第2番目は、卵限定間幹細胞である。この細胞は卵子のみに分化し、体細胞には分化しない。これら2種の間幹細胞は、合わせて生殖間幹細胞と呼ぶ事ができる。上記2種の生殖間幹細胞のみを待つヒドラは、神経細胞、刺細胞を持たず、そのため運動も、捕食も出る来ない。しかし、人為的に腔腸内に餌を挿入すれば消化、吸収を行い、その結果、成長、出芽し、増殖できる。このような、生殖間幹細胞のみを持ち、多能性間幹細胞を持たないヒドラを、「偽上皮ヒドラ」(pseudo‐epithelial hydra)と名付けた。
 第3番目の小集団は、雌性多能性間幹細胞である。この幹細胞は3種の体細胞と卵子に分化する。第4番目は雄性多能性間幹細胞である。この幹細胞は3種の体細胞と精子に分化する。
 以上クローニング実験の結果は、複合集団説を支持し、単一集団説が間違いである事を示した。しかし、単一集団説の根拠となった、体細胞と生殖細胞の両方に分化する能カを持つ多能性幹細胞の存在も確認された。
 ところで、上記クローニング実験の過程で、全く予期しなかった意外な事実を明らかにすることができた。それは、雄ヒドラのうちに、卵子に分化する間幹細胞を持つ系統が存在する事である。特に、そのうちの1系統nem-1(♂)には、精子限定間幹細胞と共に、卵子限定間幹細胞、雌性多能性間幹細胞が存在し、雄性多能性間幹細胞は存在しない事が明らかとなった。
 雄ヒドラの組織に、卵子に分化する能力を持つ間幹細胞が存在する事は、「雄性化現象」(masculinization)においても、認められている。雄性化とは、精子限定間幹細胞を人為的に雌組織に移入させると、卵子形成を抑制する一方、移入した細胞自身が精子に分化する人為的性転換現象である(Sugiyama&Sugimoto,1985;Littlefield,1986)。この雄性化と基本的に同じ現象が、nem‐1(♂)組織内で人為的ではなく、偶発的に起きていると考えられる。
 しかし、卵子分化能を待つ幹細胞2種が、雄系統組織に含まれている事実は、不思議であり、始めは理解困難であった。
 以上に述べた間幹細胞集団の構成と性質を総合的に考察し、私はヒドラの性決定と性転換に関し、次のモデルを提出する。
 雌は全て、生まれた時からおそらく遺伝的に雌に決定されている。雌ヒドラは雌性多能性間幹細胞をもち、この細胞から卵子限定間幹細胞が生じ、卵子形成を行う。
 一方、雄には2つのタイプが存在する。1つのタイプは、生まれた時からおそらく遺伝的に雄に決定されている。この雄は雄性多能性間幹細胞をもち、この細胞から精子限定間幹細胞が生じで、精子形成を行う。もう1つのタイプの雄は、nem‐1(♂)の様に、初め遺伝的に雌として決定されて生まれるが、その後、性転換により雄となる。このタイプの雄は、雌性多能性間幹細胞を待っている。この細胞から卵子限定間幹細胞が分化する。しかし、卵子限定間幹細胞はまれに精子限定間幹細胞に転換する場合がある。このプロセスにより雄性化が起こり、表現型は雄となる。卵子、精子の2つの性による有性生殖は、生物界における最も一般的な現象のひとつである。しかし、性決定のメカニズムは種によって実に多様である。その中にあっも、ヒドラの性決定機構は非常に特異的である。, application/pdf, 総研大甲第136号}, title = {ヒドラ性決定及び性転換における間幹細胞の役割}, year = {} }