@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000898, author = {加畑, 博幸 and カバタ, ヒロアキ and KABATA, Hiroaki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {1.はじめに
 DNA結合タンパク質個々の機能は、長大なDNA上の特異的部位に結合し複合体を形成することで果たされる。転写反応ではRNAポリメラーゼホロ酵素がプロモーターと特異的に結合することで開始され、その調節にはリプレッサータンパク質とオペレーターとの特異的結合が関与している。このような結合がなされるまでの道程には、タンパク質がDNAと非特異的に結合した場所からDNAにそって1次元的に滑り拡散するという移動機構(スライディング)が介在していると考えられている。これまでに種々のDNA結合タンパク質のスライデイングに関して速度論的研究が行なわれてきたが、末だ移動中間体そのものを同定した例はない。
 そこでDNAとタンパク質の動的相互作用を可視化する技術を開発し、Escherichiacoli RNAポリメラーゼとPseudomonas putida CamRリプレッサーに適用した。まず、可視化したタンパク質1分子のDNA上における動態を直視観測することにより、スライディングの同定、ならぴにDNA-タンパク質複合体の動的・静的性質の解明を試みた。さらにCamRタンパク質ついてはリプレッサーとDNAとの相互作用に与えるインデューサーの分子的機能について検討した。
 2.方法
 DNAを伸張させ、かつ平行にスライドグラス上に固定したプレパラート「DNAべルト」を誘電泳動法により調製した。つぎに抗原-抗体反応とアビジン-ビオチン結合を利用して、DNA結合活性を破壊することなくタンパク質1分子に蛍光標識を付加した。そのタンパク質のDNAベルトにおける動態を光学顕微鏡を用いて可視化した。
 3.結果
 蛍光標識したRNAポリメラーゼおよびCamRリプレッサーの試料溶液をDNAべルトへ注入したところ、溶液のバルクフローが生じそれがタンパク質分子の運動に一定の方向性を与えた。DNAベルト上の分子運動をリアルタイムで追跡したところ、両方のタンパク質に共通した事象として、溶液のブラウン運動による「シンプルドリフト」、DNA上の特定部位で静止する「トラッピング」、視野に対して上下運動を行なう「ジャンピング]が観測され、さらにDNAにそって平行に移動する「スライディング」を検出した。
 後者3つはDNA結合に対する阻害剤(へパリンや、プロモーターあるいはオペレー夕一を含む遊離のDNAフラグメント)によって大きく抑制され、またいわゆるDNA結合部位をもたない抗体タンパク質やオリゴヌクレオチド、あるいはオリゴヌクレオチドと結合したタンパク質複合体では認められなかった。このことから、観測された3つの現象はRNAポリメラーゼやCamRリプレッサーのDNA結合活性に依ることが明らかとなった。さらに観測結果を統計処理したところ、トラッピングはDNAとの特異的結合を、スライディングは非特異的DNA相互作用を反映していることがそれぞれ示され、ジャンピングはループ状に固定されたDNA上のスライディングであると示唆された。スライディングは上記の動態の中でもっとも高い頻度で観察されたことから、タンパク質とDNAの間の主要で普遍の相互作用様式ではないかと予想された。スライディング中にプロモーターあるいはオペレーター部位でトラップされる現象も可視化され、タンパク質が特異的部位との結合までの道程としてDNA上をスライディングすることが可能であることを見い出した。
 4.考察
 本研究で可視化されたRNAポリメラーゼとCamRリプレッサーのスライディングは、見かけ上300nm以上にわたる距離に及び、これまでの速度論的研究から求められてきたスライディングの平均長100nmよりも長じていた。これは、(1)観測されたスライディングの平均時間と速度論的研究から報告された非特異的複合体の寿命が一致した、(2)DNAとの結合を許すだけの時間をタンパク質に与える範囲内であればバルクフローの速度と観測されるスライディングの平均距離がほぼ比例したことから、スライディングはタンパク質とDNAとの非特異的複合体の寿命の時間で規定されており、パルクフロー(溶媒分子とのより多くの熱衝突)の付与がより長いスライディングの距離を与えたためと結論した。
 CamRリプレッサーとそのインデューサーであるd-camphorを結合させてから、DNA上の分子動態を統計的に観察したところ、d-camphorはCamRリプレッサーのスライディングは阻害せず、トラッピングの頻度のみを大きく低下させた。このことからインデューサーの分子的役割は、スライディングを含む非特異的相互作用には影響を与えることなく特異的相互作用のみを破壊することであると考察した。
 さらにCamRリプレッサーとDNAとの相互作用の静的側面に関して本研究で用いた直視観察技術を適用したところ、リプレッサーはいわゆるオペレーター配列以外にも複数の特定部位と結合できることを示し、ゲルシフトアッセイ、免疫沈殿法などの生化学的な裏付け実験を行なった結果、親和性は弱いながらもそれらは確かに部位特異的な複合体であった。つまりDNAとタンパク質とのいわゆる非特異的複合体とは、(1)静的アッセイ法では捕捉できないスライディングのような動的複合体と(2)静的ではあるが用いた研究手段によっては検出できない弱い(寿命の短い)部位特異的複合体との総称であると言える。, application/pdf, 総研大甲第137号}, title = {一分子可視化技術によるDNA : タンパク質相互作用の動的メカニズムの解明}, year = {} }