@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000911, author = {大久保, 悌 and オオクボ, ヤスシ and Okubo, Yasushi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {第1部 始原生殖細胞における自律的増殖制御の解析
 マウス始原生殖細胞(PGC)は胎生7日胚の胚体外中胚葉域に数個のアルカリフォスファターゼ陽性細胞集団として出現し、その後活発な増殖を行いながら後腸、腸間膜を通って移動し、胎生11日頃までに生殖隆起(生殖巣原基)に到達する。生殖隆起到達後もPGCはしばらく増殖を続けるが、雌雄ともに13.5日胚ではその分裂を停止し、卵巣では減数分裂、精巣では細胞分裂休止期にはいる。
 近年フィーダー細胞を用いたPGCの培養系が改良され、これを用いてPGCの増殖とそれを制御する因子についての様々な報告がなされている。これらの培養系においてPGCは生体内での増殖と分裂停止を反映していると思われる特徴ある増殖パターンを示す。例えば8.5日胚から取り出したPGCは4日間増殖するが、11.5日胚から取り出したものは1日だけ増殖し、12.5日胚からのものは全く増殖が見られない。この現象はあたかも培養下のPGCが時間を計って生体内と同じ時期に分裂を停止しているように見える。しかし現在可能となっているPGC培養系では、生体内においてPGCを取り巻いている体細胞(支持細胞)が常にPGCと共存しており、培養皿内の細胞数としてはむしろこれらの体細胞の方が数多く存在している。したがって、培養下でのPGCの増殖停止においても、共存する体細胞とPGCの相互作用によって生体内とほぼ同じ時期に分裂停止を引き起こしている可能性が考えられる。
 そこでPGCの増殖停止への体細胞の影響を調べるため、8.5日胚および11.5日胚という異なる時期由来のPGCと体細胞を使った混合培養をおこなうことによって、増殖停止期をむかえる11.5日胚の体細胞から8.5日胚由来PGCへの影響、あるいは増殖期の8.5日胚体細胞から11.5日胚PGCへの影響を検討した。様々な混合比での培養をおこなったところ、すべての場合において、PGCは混合培養中に共存する他の時期の体細胞の影響を全く受けず、自己の発生時期にしたがった増殖パターンを示すと考えられる結果を示した。したがってPGCには体細胞の影響によらない自律的な増殖停止機構が存在することが示唆された。
 またPGCの増殖停止現象について更に詳細な知見を得るため、PGCを限界希釈法により単一細胞に分離して培養することにより、個々のPGC由来のPGCコロニーの増殖停止時のふるまいについて調べた。8.5目胚から取り出しなPGCについては、このように希釈された条件においても培養一日目に見られたPGCのコロニーはそのほとんどが4日目まで生存し、PGCコロニーの大多数が1回以上の分裂を示したが、4日目には明瞭な増殖停止を示した。これらのコロニーにおける細胞数の分布を調べた結果、8.5日胚PGCは比較的均質な細胞集団と考えられ、例えばEG細胞株の起源となるような増殖能の大きく異なった集団等の存在は示されなかった。しかしながらコロニーサイズは大きく分散しており、個々の細胞が厳密に調節された同調的分裂をおこなうことはなく、増殖停止時期が分裂回数によって決まっている様子も見られなかった。
 一方このような培養下でのPGCの細胞形態変化を調べたところ、8.5日胚から取り出して培養2日目までは高い移動能を持つと思われる伸長型のPGCが多く存在するが、培養3日目以降は移動能や接着性の低下した丸型のPGCへの移行が見られた。これは移動期型から生殖巣への定着期型への生体内PGCの形態変化を反映しているものと考えられる。したがってPGCは培養下でも生体内を反映した細胞分化が進行しており、これより、増殖停止現象や細胞形態、運動能などの変化を進行させる自律的制御機構がPGC内に存在していると考えられる。
第2部 神経上皮由来細胞株を用いた中枢神経系細胞分化の解析
 マウス中枢神経系の発生は7.5日胚に見られる神経板の形成に始まる。神経板を構成する神経上皮は神経幹細胞から成ると考えられ、最初に神経細胞、続いてグリア細胞を分化しつつ中枢神経系を形成してゆく。しかしながらこのような中枢神経系における幹細胞の性質、細胞系譜については未だ不明な点が多い。本研究はこのような初期神経上皮細胞から細胞株を樹立しこれらの分化能を解析することによって神経上皮細胞の分化決定について研究を行ったものである。
 温度感受性S V40T抗原遺伝子にMHC class I H2Kb promoterをつないで導入したトランスジェニックマウスの胎生8.0-8.5日胚より神経板を取り出し、いくつかの細胞株を樹立した。樹立された細胞株の多くが同様の性質を示し、これをNES細胞と名付けた。NES細胞は未分化神経細胞で発現の見られるnestinを発現しており、また神経上皮細胞とラディアルグリア細胞を認識するRC1抗体陽性であった。T抗原不活化条件下では双極性に伸長した細胞が出現し、この細胞は抗ネスチン抗体、RC1抗体陽性であったが、抗ニューロフィラメント抗体、抗GFAP抗体について陽性のものは見られなかった。
 また同様の方法で9.0-9.5日胚神経上皮より細胞株を樹立した。これらの細胞株は約半数がNES細胞様であったが、ほかに培養下でT抗原を不活性化することにより神経細胞への分化を示す、抗ニューロフィラメント抗体陽性のものが多数含まれていた。
 これらの結果から神経上皮における細胞分化能の決定に関しては9.0日胚において重要な変化が起きていると考えられ、8.0-8.5日胚神経板細胞は神経細胞への分化能は持つが自律的な分化を進行しうる分化決定を受けていない状態の細胞集団であると考えられる。, application/pdf, 総研大甲第209号}, title = {マウス胚細胞における増殖と分化に関する研究}, year = {} }