@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000927, author = {大浪, 修一 and オオナミ, シュウイチ and ONAMI, Shuichi}, month = {2016-02-17}, note = {多くの多細胞生物において、受精直後の初期胚には胚自身の転写活性は存在せず、この間の胚の発生は母性遺伝子に依存する。母性遺伝子は母性mRNAや蛋白として初期胚に供給され、母性mRNAの多くは胚発生の特定の時期に特定の細胞で翻訳され、個々の細胞に独自の性質を与える。母性mRNAが翻訳される時間や場所、母性mRNAが細胞の運命を決定する機構を解明することは、多細胞生物の胚発生の機構の解明のために重要な課題である。
 線虫C. elegansの初期胚の各割球はノマルスキー顕微鏡等で容易に識別できる。C. elegans初期胚において時期特異的、細胞特異的に翻訳され、割球の運命決定に関与する母性mRNAが現在までに数多く報告されている。また、cDNAの系統的なin situ解析より100種類以上の母性mRNAが現在までに同定されている。これ等の理由から、C. elegans初期胚は、母性mRNAの時間特異的細胞特異的な翻訳の調節機構を解明するための最も適した実験材料の1つであると言える。
 母性mRNAの翻訳調節機構としてpoly (A) tailの長さの変化に依存した翻訳調節、キャップのメチル化に依存した翻訳調節、RNA-蛋白複合体形成によるリボゾームからの隔離に依存した翻訳調節が知られている。これらが互いに独立した機構なのか否かは議論が分かれる。poly (A) tailの長さの変化に依存した機構により翻訳が調節される母性mRNAは翻訳不活性時には短いpoly (A) tail(30-60塩基)を持ち、翻訳が活性化される時に長いpoly (A) tail(150-300塩基)を持つようになる。この機構により翻訳の時期が制御される母性mRNAはアフリカツメガエル、ショウジョウバエ、マウス等において数多く報告されたので、この機構は広く多細胞生物に保存された母性mRNAの翻訳調節機構であると考えられる。
 C. elegansを用いれば、個々の細胞レベルでの、この機構の解析が期待できる。しかし、C. elegansにおいてこの機構により翻訳が調節される母性mRNAは報告されていない。それは特定の時期のC. elegansの初期胚や割球においてmRNAのpoly (A) tailの長さを測定できる方法が無かったからである。C. elegansでは発生時期が厳密に同調した初期胚を大量に調製することができないので、特定の時期の胚におけるmRNAのpoly (A) tailの長さを測定する為には、数個の初期胚を試料として測定できる方法が必要である。このような方法は、特定の割球におけるmRNAのpoly (A) tailの測定のためにも必須である。そこで私は、この条件を満たすpoly (A) tailの長さを測定する新しい方法を開発した。
 本法では、目的のmRNAの3’- 末端領域(3’UTRの特定の位置からpoly (A) tailの末端まで)を増幅する。増幅が正確に行われたなら、その増幅産物の長さ、及びシークエンスから目的のmRNAのpoly (A) tailの長さが求められるはずである。このやり方で、数個の初期胚、割球を用いてmRNAのpoly (A) tailの長さを測定することを可能にするために、本法ではmRNAの3’- 末端にRNAのタグオリゴヌクレオチドを付加し、遺伝子特異的プライマーとタグ特異的プライマーを用いたRT-PCRを行った。
 本法をテストする目的で、卵母細胞と4細胞期胚に含まれるfem-3mRNAのpoly (A) tailの長さを測定した。ノーザンブロッティングの結果からfem-3mRNAのpoly (A) tailの長さは卵母細胞では30-60塩基、初期胚では30-150塩基であると推算されていたからである。5-15個の卵母細胞と4細胞期胚より核酸を抽出し、これらの3’- 末端にRNAタグオリゴヌクレオチドを付加した。fem-3特異的プライマーとタグ特異的プライマーによるRT-PCRにより、卵母細胞からは約330bpの長さのDNA断片が増幅された。4細胞期胚からは2種類のDNA断片(長いもの(約520bp)と短いもの(約330bp))が増幅された。DNA断片の長さは303bpとfem-3mRNAのpoly (A) tailの長さを足した長さになることが期待される。これらのDNA断片を直接シークエンスしたところ、卵母細胞より増幅されたDNA断片からは約25塩基のpoly (A) 配列が続くfem-3 3'UTRの配列(fem-3特異的プライマーより下流の部分)が読まれた。4細胞期胚より増幅された2種類のDNA断片からはそれぞれ、約220塩基、約25塩基のpoly (A) 配列の続くfem-3 3'UTRの配列が読まれた。これらの結果は、卵母細胞には約25塩基のpoly (A) tailを持つfem-3mRNAが含まれ、4細胞期胚には2種類のfem-3mRNA(長いpoly (A) tail(約220塩基)を持つものと短いpoly (A) tail(約25塩基)を持つもの)が含まれていることを示した。この結果は、ノーザンブロッティングによる推算値と良く一致した。以上のようにして本法によるpoly (A) tailの測定値が正常であることを確認した。
 C. elegansにおいて、poly (A) tailの長さに依存した機構により翻訳調節される母性mRNAを探索する目的で、glp-mRNAのpoly (A) tailの長さを本法を用いて測定した。母性glp-mRNAは卵母細胞より初期胚に供給され、2細胞期胚、4細胞期胚の各割球には殆ど等量のglp-mRNAが伝えられる。GLP-1蛋白は卵母細胞及び1細胞期胚では検出されず、2細胞期胚では前極側の割球のみで、4細胞期胚では前極側の割球の2つの娘細胞のみで検出される。卵母細胞、2細胞期胚に含まれるglp-mRNAのpoly (A) tailの長さを測定したところ、卵母細胞に含まれるglp-mRNAは短いpoly (A) tail(40-70塩基)を持つこと、2細胞期胚には2種類のglp-mRNA(長いpoly (A) tail(約160塩基)を持つものと短いpoly (A) tail(約40塩基)を持つもの)が含まれることが示された。2細胞期胚より前極側の割球(AB割球)および後極側の割球(P1割球)を分離し、各々に含まれるglp-mRNAのpoly (A) tailの長さを測定した。長いpoly (A) tail(約160塩基)を持つglp-mRNAはAB割球のみに含まれ、P1割球には短いpoly (A) tail(約70塩基)を持つglp-mRNAのみが含まれた。これらの結果より母性glp-mRNAの時期特異的、細胞特異的な翻訳調節がpoly (A) tailに依存した機構により調節されていることが強く示唆された。
 本研究において私はC. elegansの特定の時期の初期胚、及び割球におけるmRNAのpoly (A) tailの測定法を開発した。fem-3mRNAを用いた実験によりこの方法の結果の正確性が確認された。本法をglp-mRNAに応用した結果から、母性glp-mRNAの時期特異的、細胞特異的な翻訳調節がpoly (A) tailに依存した機構により調節されていることが強く示唆された。, 総研大甲第327号}, title = {C.elegans初期胚において時間的・空間的にpoly(A) tail の長さが変化する母性mRNAについての研究}, year = {} }