@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000930, author = {亦勝, 実穂 and マタカツ, ミホ and MATAKATSU, Miho}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {生物の形態形成は、細胞増殖、細胞運動、細胞の形の変化など、細胞レベルでの変化が基盤となっている。上皮細胞層の形態形成においては細胞層を壊すことなく、細胞の配置を変えることで、複雑な組織や器官が構築される(Gumbiner, 1992)。この形態形成運動には、分子レベルでは細胞接着分子とくにCadherinが重要な役割を担っている(Takeichi, 1991, 1995)。また、細胞骨格も細胞の移動や生物の形態形成に、直接関与する重要なタンパク繊維である。細胞は、細胞質全体に張りめぐらされた細胞骨格の複雑な網目状構造によって細胞接着と運動とを協調させている(Mitchison and Cramer, 1996)。
 ショウジョウバエの気管系は上皮細胞が管状に配列したネットワーク構造である。気管形成は胚側面の表皮上皮が各体節ごとに袋状に貫入することによって開始する。貫入した気管前駆細胞は上皮細胞としてのapical-basal polarityを保持し続けている。次に気管前駆細胞は決まった方向に枝状に分岐、伸長し、上皮の融合がおこる(Manning and Krasnow, 1993)。融合する枝の先端には、特殊な細胞tip cellがあり、転写因子Escargotを発現する(Hartenstein and Jan, 1992; Samakovlis et al., 1996)。気管前駆細胞は各体節ごとに貫入した袋のため、袋の内部は個体にとって外界である。tip cellは枝(branch)の伸長の際には、袋の内部の外界と、体腔の内界が混じりあわないように、あたかもbranchの蓋のようにふるまっている。しかし、気管のネットワークを形成するには、融合するbranchどうしが接触した後、tip cellは管の一部となるように形態を変化させる必要がある。
 私は、気管ネットワーク形成において、tip cellの挙動に着目することで、細胞移動のガイダンス、細胞の運動能の制御、ターゲットの認識、機能に応じた細胞形態の変化など、生物の形態形成における重要な問題を理解する手がかりが得られると考えた。
 融合する気管のbranchのtip cellでは、escargot遺伝子が発現する。escargotはC2H2 Zn finger type DNA-binding proteinをコードし、特異的なターゲット遺伝子の転写を調節している(Whiteley et al., 1992; Fuse et al., 1994)。私は、Escargotがtip cellを介したbranchの融合過程で重要な機能を持つのではないがと考え、気管融合過程の細胞形態の変化や細胞接着分子の分布を詳細に観察し、転写因子Escargotの機能解析をおこなった。
 転写因子Escargotは、全てのtip cellで特異的に発現し、escargot変異体では、branchの融合がおきないことがわがっていた。また細胞接着分子DE-cadherinをコードするshotgun遺伝子は全ての気管細胞で発現し、shotgun変異体においては、branchの融合に異常が観察されることが報告されていた。
 私は、正常型のbranchの融合過程において、tip cellの細胞形態とDE-cadherinの局在パターンを詳細に観察した。球型のtip cellはbranch融合直前にfilopodiaを伸長させ互いに接触しあう。Tip cellの形態は最終的にリング状に変化した。DE-cadherinは、接触したターゲットbranchのtip cell間に新たに局在し、その局在パターンは線状からリング状へ変化した。またtip cellの接触にともなって、shotgun(DE-cadherin)遺伝子の転写活性の上昇がみられた。escargot変異体のbranchの融合過程では、tip cellはターゲットのtip cellと接触するが、shotgun(DE-cadherin)遺伝子の転写活性の上昇はみられず、tip cellの接触面にDE-cadherinは局在しない。接着構造を形成できながったtip cellがfilopodiaを異常伸長させたことから、細胞の運動能が増大していると考えられた。以上の結果から、転写因子Escargotはshotgun(DE-cadherin)遺伝子の転写活性化と、細胞運動能の抑制に関係していることが示唆された。
 次に、branch融合過程において球型からリング状に形態変化するtip cellのaprical-basal cell polarityの変化をmicrotubuleとmicrotubule上のモータータンパク質であるNodのlacZ fusionタンパク質の局在パターンを指標にして解析した。細胞骨格であるmicrotubuleはbranch融合過程において細胞内の分布パターンが変化した。複数のmicrotubule filamentの一部はNod-lacZで強く標識される。Nod-lacZで強く標識されたmicrotubuleは、将来のaprical側に位置することがlumenに移動するvesicleの分布パターンから明らかになった。また、DE-cadherinは通常、細胞のaprical側に近いlateralに局在する細胞接着分子である。しかしbranch融合過程のtip cellにおいてDE-cadherinは、まずNod-lacZで強く標識されたmicrotubuleに沿って、細胞内に線状に分布し、次にbasal側の特性をもつ細胞膜領域に移動し、最後にtip cellどうしの接触面に蓄積することが明らかとなった。以上の結果から、microtubuleは、細胞のapical-basal cell polarityの変化を予想させる変化を示し、さらにDE-cadherinがtip cellのbasal側に向かって輸送される足場となっていることが示唆された。
 融合するbranchの先端で、Escargotを発現するtip cellは1個に限定されている。Dorsal BranchでEscargot発現をtip cellのみに限定させるために、Etsドメインタンパク質Pointed、Anterior openによる転写抑制が働いていることを示した。
 本研究の結果、気管ネットワーク形成過程において、tip cellは気管のbranchの融合を担うために重要な役割を果たしていることが示された。, application/pdf, 総研大甲第330号}, title = {ショウジョウバエ気管形成における転写因子Escargotと 細胞接着分子DE-cadherinの機能解析}, year = {} }