@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000955, author = {望月, 一史 and モチズキ, カズフミ and MOCHIZUKI, Kazufumi}, month = {2016-02-17}, note = {ヒドラのポリプには、体細胞と生殖細胞の両方に分化できる細胞(多能性幹細胞)が存在する。従って、ヒドラは成体でも生殖細胞の分化が観察できるユニークな実験動物である。しかし、多能性幹細胞と生殖細胞に対するマーカーはほとんど得られておらず、ヒドラの生殖細胞の分化には不明な点が多い。そこで本研究では、ヒドラの生殖系列細胞である多能性幹細胞と生殖細胞に対する分子マーカーをクローニングし、その発現を解析した。
 その分子マーカーの候補として、生殖細胞質の構成成分に着目した。生殖細胞質は多くの動物の生殖系列細胞に共通してみられる、タンパク質とRNAに富む顆粒と、ミトコンドリアが密集している細胞質である。ヒドラでも生殖細胞質に類似した細胞質が多能性幹細胞、生殖細胞および分化の初期の刺細胞前駆細胞で観察されている。ショウジョウバエでは、その生殖細胞質の構成成分が多く同定されており、その中でもvasaおよびnanosは、他の複数の生き物にも類縁遺伝子が存在することが明らかになっている。そこで、vasaおよびnanosの類縁遺伝子をヒドラから単離し、その遺伝子発現を解析して、それらがヒドラの生殖系列細胞のマーカーに成りうるかどうかを検討した。
 RT - PCRにより、チクビヒドラ(Hydra magnipapillata)からcDNAの単離を試みた結果、vasa類縁遺伝子を含むDEADボックスRNAへリカーゼをコードすると推定される遺伝子が8つと、nanos類縁遺伝子と考えられるcDNAの断片を2つ得ることができた。これらのうち、vasaの類縁遺伝子と考えられるCnvas1(Cnidarian vasa1)とCnvas2、マウスではオスの生殖細胞で発現していることが知られているPL10に近縁なCnPL10、nanos類縁遺伝子と考えられるCnnos1(Cnidarian nanos1)、Cnnos2の5つについて、まず、全翻訳領域を含むと推定されるcDNA配列を明らかにした。Cnvas1、Cnvas2、CnPL10、Cnnos1およびCnnos2のcDNAはそれぞれ797aa、890aa、627aa、248aaおよび308aaのORFを持つと推定された。配列をもとに分子系統学的な解析を行った結果、Cnvas1とCnvas2は、DEADボックスRNAへリカーゼのなかでも、vasa類縁遺伝子のみが含まれるVasサブファミリーに分類され、CnPL10はそれとは別のPL10サブファミリーに属することが確認された。また、Cnnos1とCnnos2がコードすると推定されるタンパク質は、他のNanos類縁タンパク質の間でよく保存されている2つのジンクフィンガーモチーフの部分が完全に保存されていたことから、nanos類縁遺伝子のメンバーであることが強く示唆された。
 次に、正常ヒドラを用いて、ホールマウントin situハイブリダイゼーションにより上記の5つの遺伝子の発現を調べた。そのうちCnvas1、Cnvas2、Cnnos1のmRNAは、オスでは体軸方向につながった、メスでは塊になった大型間細胞で強く発現しており、これらはその形態から生殖細胞であると考えられた。また、この生殖細胞と考えられる発現の強い細胞の他に、発現の弱い大型間細胞が体幹部に散らばっており、これらは多能性幹細胞であると考えられた。一方、CnPL10のmRNAは大型間細胞のほかに刺細胞の前駆細胞でも検出され、その発現は生殖系列細胞に特異的ではなかった。また、Cnnos2のmRNAは一部の生殖細胞で弱く、口丘の内胚葉で強く発現していた。これらの結果から、Cnvas1、Cnvas2、Cnnos1の3つの遺伝子の発現は生殖系列細胞のマーカーになる可能性があることが分かった。
 さらに、上皮細胞と腺細胞の他には生殖細胞のみが存在する偽上皮ヒドラを用いて、Cnvas1、Cnvas2、Cnnos1のmRNAの遺伝子の発現を調べたところ、いずれの遺伝子の発現も大型間細胞つまり生殖細胞で強く発現していた。染色された細胞はオスでは体軸方向につながっており、メスでは数ヵ所で塊になっていた。これらは、正常ヒドラのオスおよびメスの強く染まる細胞の形態とよく一致しており、正常ヒドラで強く染まる細胞は生殖細胞であることが、さらに強く示唆された。また、正常ヒドラで刺細胞系列のマーカーを用いて2重染色をおこない、これらの遺伝子が刺細胞系列では発現していないことも確かめた。
 以上のことから、Cnvas1、Cnvas2、Cnnos1のmRNAの発現は生殖細胞と多能性幹細胞に特異的であり、相対的に生殖細胞ではその発現は強く、多能性幹細胞では弱いことが分かった。よって、Cnvas1、Cnvas2、Cnnos1のmRNAの発現は、ヒドラの生殖系列細胞の発生、分化を研究する上で有効なマーカーである。, 総研大甲第470号}, title = {ヒドラの生殖系列細胞に対する分子マーカーの単離と発現解析}, year = {} }