@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000959, author = {坂本, 修一 and サカモト, シュウイチ and SAKAMOTO, Shuichi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {ウェルナー症候群(WS)は常染色体劣性の遺伝性早老症である(Martin 1985)患者由来の繊維芽細胞は、健常人由来のものと比較して分裂寿命が短い(Salk et al. 1985)。更に、転座や大きな欠失、細胞周期のS期における異常やある種のDNA損傷剤に対する感受性を示すことが知られている(Shen & Loeb 2000)。
 原因遺伝子WRNは大腸菌RecQや出芽酵母SGS1などが含まれるRecQヘリカーゼファミリーに属する(Yu et al. 1996)。RecQ型ヘリカーゼの変異はゲノム不安定性の原因となる。特にヒトRecQファミリーのBLM、RTSは、それぞれゲノム不安定性が要因と考えられる高発癌性ブルーム症候群、遺伝性早老症口スモンドートムソン症候群の原因遺伝子である(Ellis et al. 1995、Kitao et al. 1999)。原因遺伝子産物WRNは3'- 5'方向のDNAヘリカーゼ活性(Suzuki et al. 1997)とエクソヌクレアーゼ活性(Huang et al. 1998、Suzuki et al. 1999)を持ち、RPA、PCNA、トポイソメラーゼ I 、p53といったDNA代謝に関わるタンパク質と結合することが知られている(Brosh et al. 1999、Level et al. 1999、Shen & Loeb 2000)。これらの知見はWRNがDNA代謝に関与してゲノム安定性の維持に寄与することを想像させるが、その機能の詳細は不明であった。私はWRNの機能を明らかにするために、細胞内局在の解析及び結合タンパク質の探索を行った。
 DNA修復に関与する核タンパク質の一部は、DNA損傷が生じると局在を変化させ、焦点状に集合して核当たり数十から数百個の核内フォーカスを形成する。この様な核内フォーカス形成はDNA修復における重要な過程であると考えられている(Maser et al. 1997、Liu et al. 1999)。例えば、大腸菌RecAの真核生物ホモログであるRad51も、DNA損傷剤処理に反応してフォーカズを形成する(Haaf et al. 1995)が、その一部がRPAのフォーカス及び一本鎖DNAが露出している部位と一致するという事実は、Rad51フォーカスは相同組換えによるDNA修復が行われている領域であることを示唆している(Golub et al. 1998、Raderschall et al. 1999)。WS細胞がある種のDNA損傷剤に対して感受性であることは、WRNがDNA損傷に対する細胞の応答機構の何らかの過程に関与することを想像させるが、その詳細については明らかになってぃなかった。私は免疫細胞化学的手法を用いた解析により、カンプトテシン(CPT) エトポシド、4NQOといったWS細胞が感受性を示す薬剤で処理した細胞で、WRNが核内フォーカスを形成することを見出した。このWRNのフォーカス形成は、少なくとも部分的にDNA複製に依存していた。また、X線やDNA合成阻害剤であるHし、アフィジコリンによっても、小さいながらもWRNはフォーカスを形成した。更に、WRNフォーカスはほぼ完全にRPAフォーカスと一致し、Rac51フォーカスやBrdUの取り込み部位とも部分的に一致した。これらの結果から、WRNが相同組換えによるDNA修復及び停止した複製フォークの処理過程に関与する可能性が考えられた。
 次に、WRNとテロメラーゼ陰性不死化細胞に特徴的な核内構造体ECTR(Extra-chromosomal telomere repeat)との関連性を検討した。テロメラーゼ陰性不死化細胞はALT(alternative lengthening of telomere)と呼ばれる機構によってそのテロメア長を維持していると考えられている(Bryan et al. 1995).ALT細胞は染色体外テロメアDNAならびにDNA代謝関連タンパク質(RPA,Rad51/52、PML、NBS1及びTRF1/2)からなる核内構造体ECTRを持つ(Yeager et al. 1995、Wu et al. 2000)。これまでに、RPAがWRNと物理的に結合してヘリカーゼ活性を上昇させること(Shen et al. 1998、Brosh et al. 1999)や、試験管内で多量体化したテロメア配列DNAをWRNがRPA存在下で解消すること(Ohsugi et al. 2000)が報告されている。これらの知見から、WRNがECTRに何らかの形で関与している可能性を考えた。そこで、通常培地中で培養したALT細胞について、テロメア配列に対応したペプチド核酸プローブを用いたFISHとWRNに対する免疫染色の二重染色を行ったところ、WRNはテロメアFISHの強いシグナル部位に特に凝集していることが判った。この強いテロメアFISHのシグナル部位には、非テロメアタンパク質であるRPAやPMLも局在したことから、ECTRであると考えられた。この様なECTRへの局在から、WRNがALT機構に関与する可能性が示唆された。また、ECTRへ局在する因子の一部は染色体テロメアに存在することや、WS細胞がテロメアに関連する異常形質を示すことがら、WRNの通常の染色体テロメア維持機構への関与も考えられた。
 WRNに結合するタンパク質を探索するために、抗WRN抗体を用いた免疫沈降を行った。免疫沈降物の質量分析法を用いた解析によって、それらにKu86及びKu70が含まれることが明らかになった。抗Ku86抗体もしくは抗Ku70を用いた免疫沈降によってWRNpが共沈してきたことから、これらのタンパク質は、細胞内で真に結合しているものと考えられた。DNA二本鎖切断(DSB)が生じた際にKuタンパク質はDNA-PKcsと結合し、そのキナーゼ活性を上昇させることが知られている。この複合体形成及びキナーゼ活性の上昇は、非相同性末端結合反応において重要な過程である(Smith & Jackson 1999)。そこで、DNA-PKcs欠損細胞M059JにおけるKu-WRN結合の有無を調べた。この細胞の粗抽出液においても、抗Ku86抗体もしくは抗Ku70を用いた免疫沈降によってWRNが共沈してきたことから、Ku-WRN結合に関してDNA-PKcsは必須の因子では無いことが判った。次に、DSBを誘発するCRT処理によってWRNが核内フォーカスを形成することから、この薬剤で処理した細胞におけるKuならびにDNA-PKcsの局在を免疫染色によって検討した。しかし、これらのタンパク質はWRNがフォーカスを形成している核においても、フォーカスを形成しなかった。これまでに、Ku86、Ku70欠損マウス細胞はいずれも分裂寿命の短縮を示し、更に、Ku86欠損マウスは早老様症状を呈することが知られている(Gu et al. 1997、Vogel et al 1999)。Ku-WRN結合の生物学的意義は今後の研究課題であるが、WRNの機能の内、Kuと協調して作用するイベントが早老症発症に重要である可能性が考えられた。
 本研究で得られた結果は、WRNのゲノム維持機構における役割についての新たな知見を与えるものであり、WSの呈する早老様症状がゲノム不安定性によってもたらされるという仮説を支持するものであった。, application/pdf, 総研大甲第530号}, title = {遺伝性早老症ウエルナー症候群原因遺伝子産物WRNヘリカーゼの機能解析}, year = {} }