@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000969, author = {岡, 彩子 and オカ, アヤコ and OKA, Ayako}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {有性生殖する生物が種分化する過程では、分化した二つの集団に属する個体間の交雑ができないことや、交雑個体の生殖能力が低下することがある。この現象は生殖隔離と呼ばれ、分化した二つの集団間での遺伝子交換を不可逆的に阻止することで種分化を促していると考えられる。生殖隔離現象は、動植物を問わず広く観察されているが、それに関わる遺伝子やその分子メカニズムについては、不明なことが多い。申請者は、およそ百万年前に分岐したと推定されている2種類のマウス亜種由来の近交系統の間でX染色体のみを交換した染色体置換系統(コンソミック系統)を作製したところ、雄に生殖能力の顕著な低下が再現性よく見られることを発見した。本研究の目的は、マウス亜種間でX染色体を置換した雄個体でみられる生殖能力の障害を糸口にして、生殖隔離に働く遺伝子を同定し、その分子的基盤を明らかにすることである。最終的には、これにより生物進化の初期過程を理解することを目的としている。
 本研究には、亜種の関係に当たる欧州産野生マウス由来の標準的近交系統であるC57BL/6J(Mus musculus domesticus)と、日本産野生マウス由来のMSM系統(Mus musculus molossinus)の2系統を用いた。C57BL/6J系統をレシピエント系統とし、MSM系統(ドナー系統)のX染色体をC57BL/6J系統の遺伝的背景に導入したコンソミック系統作製している。コンソミック系統の作製は、これら2系統間のF1雌個体を10数世代に渡りC57BL/6J系統雄個体に戻し交配することにより行なっている。戻し交配の際には、X染色体上に約10センチモルガンの間隔で設定したマイクロサテライトマーカーの多型を利用して、MSM系統由来のX染色体を持つ雌個体を選定し交配に用いている。以上の戻し交配の結果、最終的にX染色体のみがMSM系統由来で、残りの染色体はすべてC57BL/6J系統由来に置き換わったX染色体コンソミック系統B6.MSM-ChrXが完成する。生殖能力の低下は、コンソミック系統の作製過程において、MSM系統由来のX染色体を持つ雄個体(X-MSM/Y)でのみ見られ、同腹のC57BL/6J系統由来のX染色体を持つ雄個体(X-B6/Y)ではみられなかった。このことから、通常の雄の生殖細胞の発生・分化にはX染色体上の遺伝子と他の染色体上の遺伝子の協調(エピスタシス)が必要で、今回みられた雄の生殖能力の低下は、X染色体上の遺伝子がMSM系統のものに置き換わったことにより、そのエピスタシスが崩壊したためと考えられる。
 X-MSM/Y個体の表現型解析を行ったところ、X-MSM/Y個体の交尾行動は正常であるが、この雄とC57BL/6J系統雌との交配後の卵を調べたところ、受精、もしくは受精後から2細胞期までの発生段階において何らかの障害があるために2細胞期まで発生しないことがわかった。また、X-MSM/Y個体では精巣重量の約30%の減少がみられた。精巣組織の解析から、精子形成は行われているが、精細管内の精巣上皮細胞の数が減少し、精細管周囲のライデッヒ細胞の過増殖が起こっていることがわかった。また、精子頭部の形態に顕著な異常がみられ、先端部分が欠損した表現型が多くみられた。これらの形態異常を伴う精子は有意に低い運動性を示した。
 以上の表現型のうち、精巣重量低下と精子形態異常の2つについてQuantitative Trait Loci(QTL)解析法を用いて連鎖解析を行った。その結果、精巣重量についてはX染色体上のテロメアよりの領域、DXMit97とDX249Mitの間に原因遺伝子が存在する可能性が高く、精子形態異常についてはX染色体上の3箇所に原因遺伝子の存在する可能性が示唆され、そのうち最も大きな作用を持つ遺伝子はX染色体の中央に位置するDXMit50とDXMit147の間の領域に存在することがわかった。これらの領域には、精巣で発現して精子形成とも深く関わる遺伝子がすでにいくつかマップされている。もし、原因遺伝子がMSM系統由来のものに置き換わったことでX-MSM/Y個体の表現型が引き起こされているのであれば、原因遺伝子の塩基配列中にこれらの系統間で多型が見られるはずである。この仮説に基づき、いくつかの候補原因遺伝子の塩基配列を解析したところ、Haploid-specific alanin-rich acidic acid protein located on chromosome-X(Halap-X)遺伝子内に多型が存在し、C57BL/6J系統のHalap-X遺伝子はMSM系統と比べて177bp短いコーディング領域を持つことが明らかとなった。Halap-X遺伝子は精子完成の時期に精子細胞の核内部及び周辺で発現することから、精子細胞の核凝縮に関わると推測されている。精子細胞の核凝縮は精子頭部の形態と密接に関係しており、核凝縮に直接関わるヒストン様蛋白のプロタミンやトランジッション・プロテインの発現異常により精子頭部形態の異常や運動性の低下が起こるという報告が多くある。
 マウスを用いた生殖隔離の研究は、主に別種であるMus spretusとMus musculus由来系統間の交配や、亜種の関係にあるM. m. musculusとM. m. domesticus由来系統間の交配実験により進められてきた。どちらのF1交雑個体でも雄に生殖能力の顕著な低下がみられる。F1交雑個体にみられる生殖能力の低下は交雑不妊Hybrid sterilityと呼ばれ、主に同遺伝子座における対立遺伝子間の不適合が原因であると考えられる。一方、今回の研究でみられた生殖能力の低下は、F1交雑雄個体ではみられず、戻し交配を始めたBCN2以降の世代にみられた。この現象は雑種の崩壊Hybrid breakdownと呼ばれ、異なる遺伝子座に存在する遺伝子間のエピスタシスが、それら一方の遺伝子が別系統の対立遺伝子に置き換わることでその平衡を保てなくなることにより起こると考えられる。本研究のようなHybrid breakdownに関わる遺伝子を対象としたマウスの研究はまだ報告がない。Hybrid breakdown現象は、種分化の初期過程に起こることが予想され、本研究は生物進化の初期段階に何が起こるかを理解する際の重要な手掛かりになると考えられる。, application/pdf, 総研大甲第599号}, title = {Male-specific reproductive failure caused by X-chromosomal substitution between two mouse subspecies}, year = {} }