WEKO3
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固体中では、多数の電子が相互作用しながら存在している。近年、銅酸化物超伝導体や巨大磁気抵抗を示すマンガン酸化物のような物質群では、この電子間相互作用が非常に強いため無視できず、強相関電子系として注目されている。これらの物質中では電子の電荷、スピン、軌道といった自由度が複雑に絡み合って多様な物性を示しており、現在の物性物理の分野では、理論的、実験的にその物性発現機構を解明することが1つの重要なテーマである。分子性伝導体は有機低分子が結晶構造や電子構造の構成単位となっており、対イオン(対分子)との間で電子が供受されることにより、電気伝導性を示す物質群である。これらの有機材料においても強相関電子系物質とみなせるものが数多く見つかっている。元来対称性が低い有機孤立分子では軌道の自由度がそもそも凍結しているために、電荷の自由度が特に際立つ。このためこの系では、結晶内で電子密度の疎密を形成する\"電荷秩序\"において電子間クーロン斥力がその本質を担っている。本論文では、1/4-filled分子性伝導体に対して、放射光を用いたX線回折実験による研究を行った。対象とした物質は、擬二次元系のα-(BEDT-TTF)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eI\u003csub\u003e3\u003c/sub\u003eと、擬一次元系の(DI-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgである。いずれも電子相関が比較的強い系で、基底状態は電荷秩序状態にあることが提案されているが、両者とも結晶内での3次売的な電荷秩序構造の詳細は現在も議論が続いている。これらは、低次元強相関電子系物質として注目されており、実験的にその基底状態の構造を明らかにすることは系の本質を理解する上で重要である。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e2.実験\u003cbr /\u003e 実験は高エネルギー加速器研究機構放射光施設のBLIA、1B、4Cで行った。X線構造解析に\u003cbr /\u003eは、BLIA、1Bに設置されているIPワイセンベルグカメラを使用した。回折プロファイルなどの測定には、BL4Cに設置されている4軸回折計を使用した。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e3.α-(BEDT-TTF)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eI\u003csub\u003e3\u003c/sub\u003eの電荷秩序\u003cbr /\u003e α-(BEDT。TTF)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eI\u003csub\u003e3\u003c/sub\u003eは、擬二次元系に分類される、典型的な分子性伝導体のひとつである。電気伝導度は135Kで顕著な1次転移の金属-絶縁体転移を示し、基底状態は非磁性絶縁体である。この転移は電荷秩序に起因すると、まず理論的に予測され【1】、その配列パターンは\"横ストライプ型\"と予測されている。電荷秩序形成に起因するシグナルは、核磁気共鳴(NMR)【2】やラマン散乱【3】などの実験によって観測がなされているものの、正確な配列パターンを実験的に直接観測した例は無い。本研究では、放射光X線回折実験により対称性の変化を正確に捉え、構造解析により電荷秩序の3次元構造を直接的に決定した。\u003cbr /\u003e まず、金属-絶縁体転移に伴う反転対称性の消失をBragg反射強度の温度依存性から直接決定した。フリーデルペアと呼ばれる回折強度I(hkl)とi(-h-k-1)は、反転対称性を有する場合は1(hkl)=I(-h-k-1)が成立するが、反転対称性を持たない場合はI(hk1)≠I(-h-k-1)となる。この反射強度の差が低温相で大きく0から外れることを観測し、転移に伴い空間群はP-1からP1となることを結論付けた。次に構造解析を行い、BEDT-TTF分子内の結合長から電荷配列を考察した。室温では、ユニットセル中の4分子の結合距離は誤差の範囲内で等しく同じ電荷を持つと結論付けられた。一方、低温相では二種類に分かれ、低温相で価数の異なる二種類の分子の存在が観測され、電荷秩序パターンが決定された。得られたパターンは理論的な予測と一致し、実験的に直接この計の電荷秩序構造を明らかにした。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e4.(DI-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgの電荷秩序\u003cbr /\u003e分子性導体(R\u003csup\u003e1\u003c/sup\u003eR\u003csup\u003e2\u003c/sup\u003e-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgは擬一次元系に分類される典型物質群のひとつであり、サイト間Coulemb相互作用と、分子二量化の強さによって基底状態が変化する物質のモデルケースとして注目されている。分子置換基R\u003csup\u003e1\u003c/sup\u003e,R\u003csup\u003e2\u003c/sup\u003eがCH\u003csub\u003e3\u003c/sub\u003e(メチル)の場合には、基底状態はDimer Mott Spin-Pei erlsと呼ばれる分子が鎖方向に四量体化した非磁性状態となる。一方、置換基がI(ヨウ素)の場合の(DI-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgは、サイト間Coulomb斥力によって二量化せずに電荷秩序状態をとり、基底状態は反強磁性絶縁体となる事がNMR【4】や理論計算【5】によって提案された。電荷秩序構造は、隣り合うサイト間で電荷が大-小-大-小、と配列するタイプで、これは1次元鎖上のWigner結晶として注目を集めている。しかしながら、赤外吸収、ラマンスペクトルの測定結果【6】では、分子の二量化や\u003cbr /\u003e異なる電荷秩序構造の提案がなされており、系の電子状態は未だ明らかではない。本研究では、放射光X線回折実験により、(DI-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgの電荷秩序構造を明らかにし、この系の転移が単純な擬一次元伝導体の電荷密度波では記述できないことを明らかにした。\u003cbr /\u003e まず、室温から1次元鎖方向2倍周期に対応する波数に弱い散漫散乱が観測された。この散漫散乱は温度低下とともに凝縮し、NMRでスペクトル変化が報告されている200K以下でブラッグ点となり3次元秩序化する。そこで、50Kで超格子反射を含めた構造解析を行った。低温相ではc軸2倍のユニットセルをとり、空間群はP2/aと決定した。解析の結果、大きな銀イオンの変位が観測され、その変位パターンにより分子の電荷配列を定性的に決定する事ができた。また、結晶中において分子の変位を伴わない電荷秩序を形成した1次元鎖と、分子が2量体を形成した1次元鎖、さらにその中間状態にある1次元鎖の共存状態が明らかになった。1物質中でこのような共存状態が実現している例はこれまでに報告例が無い。この共存状態は、隣接1次元鎖間で位相がπ異なる電荷密度波の配列として考えられ、これは鎖間Coulomb相互作用を得するよう電子が最も離れて配置したWigner結晶型の電荷秩序構造と考える事が出来る【7】。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e5.まとめ\u003cbr /\u003e二つの分子性伝導体の電荷秩序について研究した。一次転移の金属絶縁体転移のα-ET213の詳細な構造情報を得ることによって今後、この転移の理論的な解釈が進むと考えている。一方、Wigner結晶化というエキゾチックな転移であると考えられていた(DI-DCNQI)\u003csub\u003e2\u003c/sub\u003eAgの電荷秩序相は、複雑な構造であるにもかかわらず解かれた電荷の空間配置は自然であり、構造解析による電子状態の理解がいかに重要であるかを改めて明らかにすることが出来た。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e【1】 H.Kino nd H. 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放射光X線回折による低次元分子性伝導体の電荷秩序の研究
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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||
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2010-02-22 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 放射光X線回折による低次元分子性伝導体の電荷秩序の研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec | |||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者名 |
垣内, 徹
× 垣内, 徹 |
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フリガナ |
カキウチ, トオル
× カキウチ, トオル |
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著者 |
KAKIUCHI, Toru
× KAKIUCHI, Toru |
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学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 総合研究大学院大学 | |||||
学位名 | ||||||
学位名 | 博士(理学) | |||||
学位記番号 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 総研大甲第1039号 | |||||
研究科 | ||||||
値 | 高エネルギー加速器科学研究科 | |||||
専攻 | ||||||
値 | 13 物質構造科学専攻 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2007-03-23 | |||||
学位授与年度 | ||||||
2006 | ||||||
要旨 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 1.序<br /> 固体中では、多数の電子が相互作用しながら存在している。近年、銅酸化物超伝導体や巨大磁気抵抗を示すマンガン酸化物のような物質群では、この電子間相互作用が非常に強いため無視できず、強相関電子系として注目されている。これらの物質中では電子の電荷、スピン、軌道といった自由度が複雑に絡み合って多様な物性を示しており、現在の物性物理の分野では、理論的、実験的にその物性発現機構を解明することが1つの重要なテーマである。分子性伝導体は有機低分子が結晶構造や電子構造の構成単位となっており、対イオン(対分子)との間で電子が供受されることにより、電気伝導性を示す物質群である。これらの有機材料においても強相関電子系物質とみなせるものが数多く見つかっている。元来対称性が低い有機孤立分子では軌道の自由度がそもそも凍結しているために、電荷の自由度が特に際立つ。このためこの系では、結晶内で電子密度の疎密を形成する"電荷秩序"において電子間クーロン斥力がその本質を担っている。本論文では、1/4-filled分子性伝導体に対して、放射光を用いたX線回折実験による研究を行った。対象とした物質は、擬二次元系のα-(BEDT-TTF)<sub>2</sub>I<sub>3</sub>と、擬一次元系の(DI-DCNQI)<sub>2</sub>Agである。いずれも電子相関が比較的強い系で、基底状態は電荷秩序状態にあることが提案されているが、両者とも結晶内での3次売的な電荷秩序構造の詳細は現在も議論が続いている。これらは、低次元強相関電子系物質として注目されており、実験的にその基底状態の構造を明らかにすることは系の本質を理解する上で重要である。<br /><br />2.実験<br /> 実験は高エネルギー加速器研究機構放射光施設のBLIA、1B、4Cで行った。X線構造解析に<br />は、BLIA、1Bに設置されているIPワイセンベルグカメラを使用した。回折プロファイルなどの測定には、BL4Cに設置されている4軸回折計を使用した。<br /><br />3.α-(BEDT-TTF)<sub>2</sub>I<sub>3</sub>の電荷秩序<br /> α-(BEDT。TTF)<sub>2</sub>I<sub>3</sub>は、擬二次元系に分類される、典型的な分子性伝導体のひとつである。電気伝導度は135Kで顕著な1次転移の金属-絶縁体転移を示し、基底状態は非磁性絶縁体である。この転移は電荷秩序に起因すると、まず理論的に予測され【1】、その配列パターンは"横ストライプ型"と予測されている。電荷秩序形成に起因するシグナルは、核磁気共鳴(NMR)【2】やラマン散乱【3】などの実験によって観測がなされているものの、正確な配列パターンを実験的に直接観測した例は無い。本研究では、放射光X線回折実験により対称性の変化を正確に捉え、構造解析により電荷秩序の3次元構造を直接的に決定した。<br /> まず、金属-絶縁体転移に伴う反転対称性の消失をBragg反射強度の温度依存性から直接決定した。フリーデルペアと呼ばれる回折強度I(hkl)とi(-h-k-1)は、反転対称性を有する場合は1(hkl)=I(-h-k-1)が成立するが、反転対称性を持たない場合はI(hk1)≠I(-h-k-1)となる。この反射強度の差が低温相で大きく0から外れることを観測し、転移に伴い空間群はP-1からP1となることを結論付けた。次に構造解析を行い、BEDT-TTF分子内の結合長から電荷配列を考察した。室温では、ユニットセル中の4分子の結合距離は誤差の範囲内で等しく同じ電荷を持つと結論付けられた。一方、低温相では二種類に分かれ、低温相で価数の異なる二種類の分子の存在が観測され、電荷秩序パターンが決定された。得られたパターンは理論的な予測と一致し、実験的に直接この計の電荷秩序構造を明らかにした。<br /><br />4.(DI-DCNQI)<sub>2</sub>Agの電荷秩序<br />分子性導体(R<sup>1</sup>R<sup>2</sup>-DCNQI)<sub>2</sub>Agは擬一次元系に分類される典型物質群のひとつであり、サイト間Coulemb相互作用と、分子二量化の強さによって基底状態が変化する物質のモデルケースとして注目されている。分子置換基R<sup>1</sup>,R<sup>2</sup>がCH<sub>3</sub>(メチル)の場合には、基底状態はDimer Mott Spin-Pei erlsと呼ばれる分子が鎖方向に四量体化した非磁性状態となる。一方、置換基がI(ヨウ素)の場合の(DI-DCNQI)<sub>2</sub>Agは、サイト間Coulomb斥力によって二量化せずに電荷秩序状態をとり、基底状態は反強磁性絶縁体となる事がNMR【4】や理論計算【5】によって提案された。電荷秩序構造は、隣り合うサイト間で電荷が大-小-大-小、と配列するタイプで、これは1次元鎖上のWigner結晶として注目を集めている。しかしながら、赤外吸収、ラマンスペクトルの測定結果【6】では、分子の二量化や<br />異なる電荷秩序構造の提案がなされており、系の電子状態は未だ明らかではない。本研究では、放射光X線回折実験により、(DI-DCNQI)<sub>2</sub>Agの電荷秩序構造を明らかにし、この系の転移が単純な擬一次元伝導体の電荷密度波では記述できないことを明らかにした。<br /> まず、室温から1次元鎖方向2倍周期に対応する波数に弱い散漫散乱が観測された。この散漫散乱は温度低下とともに凝縮し、NMRでスペクトル変化が報告されている200K以下でブラッグ点となり3次元秩序化する。そこで、50Kで超格子反射を含めた構造解析を行った。低温相ではc軸2倍のユニットセルをとり、空間群はP2/aと決定した。解析の結果、大きな銀イオンの変位が観測され、その変位パターンにより分子の電荷配列を定性的に決定する事ができた。また、結晶中において分子の変位を伴わない電荷秩序を形成した1次元鎖と、分子が2量体を形成した1次元鎖、さらにその中間状態にある1次元鎖の共存状態が明らかになった。1物質中でこのような共存状態が実現している例はこれまでに報告例が無い。この共存状態は、隣接1次元鎖間で位相がπ異なる電荷密度波の配列として考えられ、これは鎖間Coulomb相互作用を得するよう電子が最も離れて配置したWigner結晶型の電荷秩序構造と考える事が出来る【7】。<br /><br />5.まとめ<br />二つの分子性伝導体の電荷秩序について研究した。一次転移の金属絶縁体転移のα-ET213の詳細な構造情報を得ることによって今後、この転移の理論的な解釈が進むと考えている。一方、Wigner結晶化というエキゾチックな転移であると考えられていた(DI-DCNQI)<sub>2</sub>Agの電荷秩序相は、複雑な構造であるにもかかわらず解かれた電荷の空間配置は自然であり、構造解析による電子状態の理解がいかに重要であるかを改めて明らかにすることが出来た。<br /><br />【1】 H.Kino nd H. Fukuyama, J. Phys. Soc. Jpn.64.1877(1995), H.Seo, J. Phys. Soc.<br /> Jpn. 69, 805 (2000)<br /><br />【2】 Y.Takano et al., Phys.Rev.B 67,393 (2001)<br /><br />【3】 R. Wojcechowski it al., Rev.B 67, 224105 (2003)<br /><br />【4】 K. Hiraki and K. Kanoda, Phys. Rev. Lett. 80, 4737 (1998)<br /><br />【5】 H. Seo and H.Fukuyama, J. Phys Soc. Jpn. 66, 1249 (1997)<br /><br />【6】 K. Yamamoto et al., Phys. Rev. B71, 045118 (2005)<br /><br />【7】 T. Kakiuchi et al., Phys. Rev. Lett. 98,066402 (2007) | |||||
所蔵 | ||||||
値 | 有 |