WEKO3
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/\u003e在し、始原生殖細胞(極細胞)へ受け継がれる。この極細胞質に局在する母性因子の1\u003cbr /\u003eつとして、\u003ci\u003enanos(nos)\u003c/i\u003e mRNAが知られている。母性\u003ci\u003enos\u003c/i\u003e mRNAにコードされるNosタ\u003cbr /\u003eンパク質の機能が失われると極細胞のアポトーシスが引き起こされる。さらに、Nosタ\u003cbr /\u003eンパク質は、マウスや線虫においても保存され、これらの動物種でも生殖細胞系列のア\u003cbr /\u003eポトーシスを抑制する機能を持つ。したがって、この生殖細胞系列におけるアポトーシ\u003cbr /\u003eスの抑制が、Nosタンパク質の保存された機能であると考えられる。\u003cbr /\u003e これまでの研究から、Nosタンパク質は、極細胞中において\u003ci\u003ehead involution defective\u003cbr /\u003e(hid)\u003c/i\u003e mRNAの翻訳を阻害することによってアポトーシスを抑制することが明らかと\u003cbr /\u003eなっている。\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eは、アポトーシス誘導に関わるカスパーゼ活性を抑制するinhibitor of\u003cbr /\u003e apoptosis(IAP)タンパク質に結合し不活性化するIAP結合タンパク質をコードする。\u003cbr /\u003e\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの機能欠損型突然変異によりNosタンパク質を欠く極細胞(\u003ci\u003enos\u003c/i\u003e極細胞)のアポトー\u003cbr /\u003eシスがほぼ完全に抑制されるので、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eは\u003ci\u003enos\u003c/i\u003e極細胞におけるアポトーシス誘導において\u003cbr /\u003e主要な役割を担っていると考えられる。正常胚発生過程において、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e mRNAは、生殖\u003cbr /\u003e巣へと移動中の極細胞中で転写される。このことは、潜在的にアポトーシスをおこなう\u003cbr /\u003e能力が極細胞に備わっていることを示唆している。本研究では、極細胞のアポトーシス\u003cbr /\u003eの役割を明らかにするために、極細胞中において\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e 発現に関わる遺伝子の探索をおこ\u003cbr /\u003eない、以下の諸点を明らかにした。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e1) 極細胞中の\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に、tumor necrosis factor ligand(TNF)スーパーファミリーリガ\u003cbr /\u003eンドホモログをコードする\u003ci\u003eeiger(egr)\u003c/i\u003e遺伝子が必要であることを見いだした。\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003e\u003cbr /\u003eは胚発生ステージ9のみで極細胞中で発現し、この発現には\u003ci\u003edecapetaplegic(dpp)\u003c/i\u003e遺伝\u003cbr /\u003e子が関与することも明らかにした。\u003ci\u003edpp\u003c/i\u003eは極細胞に隣接した体細胞で発現し、極細胞\u003cbr /\u003e中でDppシグナル経路を活性化する。さらに、極細胞中における\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に\u003ci\u003edpp\u003c/i\u003eも\u003cbr /\u003e関与することが明らかになった。以上の知見は、体細胞からのDppシグナルにより、\u003cbr /\u003e極細胞中で\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003eが活性化し、その働きにより\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現が引き起こされることを示唆している。\u003cbr /\u003e2) X線照射等のストレスにより誘導されるアポトーシスに関わる\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003e遺伝子、および\u003cbr /\u003echeck point kinase 2(Chk2)ホモログをコードする\u003ci\u003eloki(lok)\u003c/i\u003e遺伝子が、極細胞中にお\u003cbr /\u003eける\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に必要であることを明らかにした。X線を照射した胚において誘導さ\u003cbr /\u003eれる\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現には、\u003ci\u003elok\u003c/i\u003e依存的なp53のリン酸化が関与することが示唆されており、\u003cbr /\u003e極細胞中においても\u003ci\u003elok\u003c/i\u003e依存的なp53のリン酸化が\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e発現に必要と予想できる。\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003e\u003cbr /\u003eは胚全体で発現が観察されるのに対して、母性\u003ci\u003elok\u003c/i\u003e mRNAとそのタンパク質は極細胞\u003cbr /\u003eに偏在することから、母性Lokによりp53がリン酸化され、極細胞中での\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e発現に\u003cbr /\u003e関与すると考えられる。\u003cbr /\u003e3) 胚発生ステージ11の胚において、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現とアポトーシスが頭部や顎の体節部等の\u003cbr /\u003e体細胞で検出される。\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eは胚期の体細胞全体で弱い発現が観察されることから、こ\u003cbr /\u003eの\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現にも\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eが関わるか否かを調べた。その結果、\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003e突然変異胚においても、\u003cbr /\u003e体細胞における\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に変化は見られなかった。この結果は、正常胚発生過程に\u003cbr /\u003eおいて体細胞でみられる\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現が、\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003e非依存的であることを示している。さらに、\u003cbr /\u003e\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003e突然変異も体細胞における\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に影響を与えることはなかった。以上の知見\u003cbr /\u003eを総合すると、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現は、極細胞特異的に\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eと\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003eによって制御されていること\u003cbr /\u003eを示している。\u003cbr /\u003e4)\u003ci\u003e egr\u003c/i\u003e、\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eおよび\u003ci\u003elok\u003c/i\u003eは極細胞中の\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現に必要であるが、それぞれの突然変異単独で\u003cbr /\u003eは、\u003ci\u003enos\u003c/i\u003e極細胞のアポトーシスを阻害することはできなかった。これは、各突然変異胚\u003cbr /\u003eの極細胞中において、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eがわずかながら発現しているためと考えられる。また、\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003e\u003cbr /\u003eと共に\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eの機能を欠く場合でも同様に、極細胞における\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現が残存しているこ\u003cbr /\u003eとから、\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003eと共に\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eの機能を欠く\u003ci\u003enos\u003c/i\u003e極細胞でもアポトーシスを抑制できないと予想\u003cbr /\u003eできる。実際には\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003e、\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003e、\u003ci\u003enos\u003c/i\u003eの3重突然変異を作製することができなかったため、\u003cbr /\u003eこの点に関して結論は出せないが、以上の結果は、\u003ci\u003ep53\u003c/i\u003eと\u003ci\u003eegr\u003c/i\u003eが関わる経路以外にも\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e\u003cbr /\u003eの発現を活性化する経路が存在する可能性を示唆している。\u003cbr /\u003e\u003cbr /\u003e 以上のように、アポトーシス誘導に中心的役割を果たす\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現は、極細胞質に偏\u003cbr /\u003e在する母性因子の働きとともに、体細胞からの誘導により制御されていることが明らか\u003cbr /\u003eとなった。Nosタンパク質は、\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003e mRNAの翻訳阻害によりアポトーシスを抑制すると\u003cbr /\u003eいう機能以外にも、極細胞が体細胞に分化するのを抑制するという重要な機能を持つ。\u003cbr /\u003e本研究で明らかにした\u003ci\u003ehid\u003c/i\u003eの発現機構は、Nosタンパク質が減少した場合に生じる「異常\u003cbr 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ショウジョウバエ始原生殖細胞におけるアポトーシス制御機構の解明
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2010-06-09 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | ショウジョウバエ始原生殖細胞におけるアポトーシス制御機構の解明 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec | |||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者名 |
前澤, 孝信
× 前澤, 孝信 |
|||||
フリガナ |
マエザワ, タカノブ
× マエザワ, タカノブ |
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著者 |
MAEZAWA, Takanobu
× MAEZAWA, Takanobu |
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学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 総合研究大学院大学 | |||||
学位名 | ||||||
学位名 | 博士(理学) | |||||
学位記番号 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 総研大甲第1295号 | |||||
研究科 | ||||||
値 | 生命科学研究科 | |||||
専攻 | ||||||
値 | 19 基礎生物学専攻 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2009-09-30 | |||||
学位授与年度 | ||||||
2009 | ||||||
要旨 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 多細胞生物の体を構成する細胞は、体細胞と生殖細胞に大別できる。体細胞は、発生<br />段階で様々な組織に分化し、個体の死とともにその役割を終える。一方、生殖細胞は有性<br />生殖の過程を経て次世代へ受け継がれ、生命の連続性を担う。このような特殊な機能を<br />担う生殖細胞の発生を制御する機構を明らかにすることは、発生生物学の中心課題の一<br />つである。<br /> 多くの動物において、生殖細胞形成に必要な母性因子が生殖質と呼ばれる卵細胞質に<br />局在することが知られている。ショウジョウバエの生殖質(極細胞質)は卵の後極に局<br />在し、始原生殖細胞(極細胞)へ受け継がれる。この極細胞質に局在する母性因子の1<br />つとして、<i>nanos(nos)</i> mRNAが知られている。母性<i>nos</i> mRNAにコードされるNosタ<br />ンパク質の機能が失われると極細胞のアポトーシスが引き起こされる。さらに、Nosタ<br />ンパク質は、マウスや線虫においても保存され、これらの動物種でも生殖細胞系列のア<br />ポトーシスを抑制する機能を持つ。したがって、この生殖細胞系列におけるアポトーシ<br />スの抑制が、Nosタンパク質の保存された機能であると考えられる。<br /> これまでの研究から、Nosタンパク質は、極細胞中において<i>head involution defective<br />(hid)</i> mRNAの翻訳を阻害することによってアポトーシスを抑制することが明らかと<br />なっている。<i>hid</i>は、アポトーシス誘導に関わるカスパーゼ活性を抑制するinhibitor of<br /> apoptosis(IAP)タンパク質に結合し不活性化するIAP結合タンパク質をコードする。<br /><i>hid</i>の機能欠損型突然変異によりNosタンパク質を欠く極細胞(<i>nos</i>極細胞)のアポトー<br />シスがほぼ完全に抑制されるので、<i>hid</i>は<i>nos</i>極細胞におけるアポトーシス誘導において<br />主要な役割を担っていると考えられる。正常胚発生過程において、<i>hid</i> mRNAは、生殖<br />巣へと移動中の極細胞中で転写される。このことは、潜在的にアポトーシスをおこなう<br />能力が極細胞に備わっていることを示唆している。本研究では、極細胞のアポトーシス<br />の役割を明らかにするために、極細胞中において<i>hid</i> 発現に関わる遺伝子の探索をおこ<br />ない、以下の諸点を明らかにした。<br /><br />1) 極細胞中の<i>hid</i>の発現に、tumor necrosis factor ligand(TNF)スーパーファミリーリガ<br />ンドホモログをコードする<i>eiger(egr)</i>遺伝子が必要であることを見いだした。<i>egr</i><br />は胚発生ステージ9のみで極細胞中で発現し、この発現には<i>decapetaplegic(dpp)</i>遺伝<br />子が関与することも明らかにした。<i>dpp</i>は極細胞に隣接した体細胞で発現し、極細胞<br />中でDppシグナル経路を活性化する。さらに、極細胞中における<i>hid</i>の発現に<i>dpp</i>も<br />関与することが明らかになった。以上の知見は、体細胞からのDppシグナルにより、<br />極細胞中で<i>egr</i>が活性化し、その働きにより<i>hid</i>の発現が引き起こされることを示唆している。<br />2) X線照射等のストレスにより誘導されるアポトーシスに関わる<i>p53</i>遺伝子、および<br />check point kinase 2(Chk2)ホモログをコードする<i>loki(lok)</i>遺伝子が、極細胞中にお<br />ける<i>hid</i>の発現に必要であることを明らかにした。X線を照射した胚において誘導さ<br />れる<i>hid</i>の発現には、<i>lok</i>依存的なp53のリン酸化が関与することが示唆されており、<br />極細胞中においても<i>lok</i>依存的なp53のリン酸化が<i>hid</i>発現に必要と予想できる。<i>p53</i><br />は胚全体で発現が観察されるのに対して、母性<i>lok</i> mRNAとそのタンパク質は極細胞<br />に偏在することから、母性Lokによりp53がリン酸化され、極細胞中での<i>hid</i>発現に<br />関与すると考えられる。<br />3) 胚発生ステージ11の胚において、<i>hid</i>の発現とアポトーシスが頭部や顎の体節部等の<br />体細胞で検出される。<i>p53</i>は胚期の体細胞全体で弱い発現が観察されることから、こ<br />の<i>hid</i>の発現にも<i>p53</i>が関わるか否かを調べた。その結果、<i>p53</i>突然変異胚においても、<br />体細胞における<i>hid</i>の発現に変化は見られなかった。この結果は、正常胚発生過程に<br />おいて体細胞でみられる<i>hid</i>の発現が、<i>p53</i>非依存的であることを示している。さらに、<br /><i>egr</i>突然変異も体細胞における<i>hid</i>の発現に影響を与えることはなかった。以上の知見<br />を総合すると、<i>hid</i>の発現は、極細胞特異的に<i>p53</i>と<i>egr</i>によって制御されていること<br />を示している。<br />4)<i> egr</i>、<i>p53</i>および<i>lok</i>は極細胞中の<i>hid</i>の発現に必要であるが、それぞれの突然変異単独で<br />は、<i>nos</i>極細胞のアポトーシスを阻害することはできなかった。これは、各突然変異胚<br />の極細胞中において、<i>hid</i>がわずかながら発現しているためと考えられる。また、<i>egr</i><br />と共に<i>p53</i>の機能を欠く場合でも同様に、極細胞における<i>hid</i>の発現が残存しているこ<br />とから、<i>egr</i>と共に<i>p53</i>の機能を欠く<i>nos</i>極細胞でもアポトーシスを抑制できないと予想<br />できる。実際には<i>egr</i>、<i>p53</i>、<i>nos</i>の3重突然変異を作製することができなかったため、<br />この点に関して結論は出せないが、以上の結果は、<i>p53</i>と<i>egr</i>が関わる経路以外にも<i>hid</i><br />の発現を活性化する経路が存在する可能性を示唆している。<br /><br /> 以上のように、アポトーシス誘導に中心的役割を果たす<i>hid</i>の発現は、極細胞質に偏<br />在する母性因子の働きとともに、体細胞からの誘導により制御されていることが明らか<br />となった。Nosタンパク質は、<i>hid</i> mRNAの翻訳阻害によりアポトーシスを抑制すると<br />いう機能以外にも、極細胞が体細胞に分化するのを抑制するという重要な機能を持つ。<br />本研究で明らかにした<i>hid</i>の発現機構は、Nosタンパク質が減少した場合に生じる「異常<br />な」極細胞をすみやかに排除するための「品質管理機構」の一端を担っていると解釈で<br />きる。生殖細胞系列の細胞死は多くの動物で観察されるにもかかわらず、その制御機構<br />は未だに解明されていない。Nosタンパク質は多くの動物で生殖細胞系列の細胞死を制<br />御しており、本研究で明らかにした知見は、ショウジョウバエのみならず、他の動物に<br />おける細胞死の制御機構、さらにその役割を解明する上で基礎になると考えている。 | |||||
所蔵 | ||||||
値 | 有 |